公開 2025年01月21日  I 更新 2025年01月21日

ベトナムでの企業破産手続:現状と実務における課題

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ベトナムでの企業破産手続:現状と実務における課題


撤退・清算 公開 2025年01月21日  I 更新 2025年01月21日
目次

ベトナムで事業を展開する企業にとって、破産手続は最後の選択肢として考えられるものの、その法的手続きや実務的な課題は十分に理解されていないケースが多く見られます。2004年に破産法が制定され、2013年に改正されたものの、受理される破産申立件数は依然として限定的であり、企業が破産申立を行う際の不正行為や資産隠匿といった問題も指摘されています。本記事では、ベトナムの破産手続に関する基本情報、法的枠組み、最新の統計データ、そして企業が直面する実務上の課題を詳しく解説します。

01 - 破産手続開始の申立権者と義務者は誰か?

 

企業が支払い不能に陥った場合、以下の者が破産手続開始を申立てる権利または義務を有します。

支払い不能の定義:

支払い不能とは、企業または協同組合が債務の支払い義務を、支払い期日から3か月以内に履行できない状態を指します。

申立権者および義務者:

  1. 無担保債権者および一部担保付債権者
    • 債務の支払い期日から3か月経過しても、企業が債務を履行しない場合。
  2. 労働者、基礎労働組合、上位労働組合
    • 企業が、賃金やその他の労働者への債務を3か月経過しても支払わない場合。
  3. 企業の法定代表者
    • 法的責任を持つ代表者。
  4. 企業の主要経営者
    • 個人事業主、株式会社の取締役会会長、有限会社の代表者(1人または複数メンバー)。
  5. 株主または株主グループ
    • 連続して6か月以上、普通株式の20%以上を所有している場合。
    • 普通株式の20%未満を所有する株主または株主グループも、会社定款で定められた条件に基づき、支払い不能の場合に申立てを行う権利を持ちます。

実務上の注意点:
破産手続きは、企業の財政的困難を正式に解決する手段です。適切な法的プロセスを理解し、申立権者が適切に権利を行使することで、透明性と公平性のある手続きが保証されます。

 

02 - 破産手続きの流れ

 

破産手続き申請時の注意点

企業が自ら破産手続きの申請を行う場合、支払い不能状態であることを証明するために、以下の書類および資料を添付する必要があります:

必要書類・資料:

  1. 過去3年間の財務諸表
    • 企業または協同組合が設立されてから活動期間が3年未満の場合は、その全活動期間における財務諸表を提出。
  2. 支払い不能に至った原因の説明書
    • 支払い不能状態に至った原因の詳細な説明。
    • 支払い不能を解消するために実施した改善措置の結果報告書(改善できなかった場合の記録を含む)。
  3. 資産および資産所在場所の詳細リスト
    • 企業または協同組合が保有する全資産の詳細と、その資産の所在場所を記載したリスト。
  4. 債権者および債務者のリスト
    • 債権者および債務者の氏名、住所、債務額、担保の有無(担保なし、一部担保付きなど)を明確に記載したリスト。
  5. 企業設立関連の書類・資料
    • 企業または協同組合の設立および登録に関する全ての関連書類。
  6. 資産評価または査定結果(該当する場合)
    • 残存資産の評価および査定結果の書類がある場合、それを添付すること。

 

03 - ベトナムにおける企業破産手続の現状

 

破産手続の受理状況

ベトナムにおける破産法は2004年に制定され、2013年に改正されましたが、それ以降の破産申立件数は限定的です。具体的には、2004年から2013年の改正までの間に受理された件数は336件、2014年から2023930日までの間には1,510件が受理されています。

破産案件の処理状況

201511日から2023930日までの間、ベトナムの人民裁判所(TAND)が処理した1,510件の破産案件の内訳は以下の通りです:

  • 破産手続開始決定: 554
  • 申立書の返却: 66件(うち1件は申立人による申立書の取り下げによるもの)
  • 破産手続を開始しない決定: 234
  • 破産宣告決定: 150件(うち44件は簡易手続によるもの)
  • 破産手続の中止決定: 49
  • 再審査または異議申し立て: 開始・不開始決定に対する異議申し立てが12件、破産宣告決定に対する異議申し立てが14
  • 事業再建手続の適用: 6

債務執行の状況

ベトナム司法省の統計によれば、2015年から2023年にかけて、破産案件における債務執行の総額と実行率は年々増加しています。例えば:

  • 2015:
    • 処理件数:42
    • 債務総額:305億ドン
    • 実行可能案件:13件(155億ドン)
    • 実行率:84.62%(金額ベースでは56.51%
  • 2023:
    • 処理件数:324
    • 債務総額:2,198.8億ドン
    • 実行可能案件:202件(1,710.5億ドン)
    • 実行率:31.68%(金額ベースでは87.90%

実務における問題点

  • 不正行為:
    債務者が破産申立前に主要な資産を第三者へ譲渡し、資産を減少させる事例が見受けられます。これにより、債権者は詐害行為への対応負担が増し、債権回収が困難になることがあります。
  • 債務者による破産申立:
    特に債務者本人が破産申立を行う場合、免責を目的とした不正な交渉や手段が用いられるケースがあります。
  • 一般的な傾向

破産手続が開始された企業の多くは、既に弁済能力を喪失しており、債権者が満足する形で債権を回収できる資産を持たないケースが一般的です。

 

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