公開 2024年09月05日  I 更新 2025年03月08日

ベトナム法人設立:法律事務所とコンサルティング会社、どちらを選べばいい?

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナム法人設立:法律事務所とコンサルティング会社、どちらを選べばいい?


投資・進出 公開 2024年09月05日  I 更新 2025年03月08日
目次

ベトナム市場への進出を検討している企業にとって、ベトナム法人設立は最初の重要なステップです。しかし、ベトナム法人設立を取り扱っている事業者は多く、法律事務所とコンサルティング会社のどちらに依頼すべきかで悩む方も多いのではないでしょうか?本稿では、各人の業務範囲とリスクを比較し、企業が安全かつスムーズにベトナムで事業を立ち上げるための最適な選択肢をご紹介します。

01 - ベトナムにおける法律事務所の業務範囲と形態

 

11

士業の各種専門職資格

 

日本では、弁護士(法律事務所)の他にも以下のような専門職が存在し、それぞれの業務は次のとおりです。

士業

業務内容

弁護士

法律相談、訴訟対応、契約書作成、紛争解決支援

司法書士

登記、供託、簡易裁判所での訴訟代理など

行政書士

官公庁に対する行政手続関係の許認可申請書類作成、権利義務・事実証明に関する書類作成など

社会保険労務士

労働・社会保険関係の手続、就業規則作成、人事労務相談など

海事代理士

船舶登記、海難事故に関する手続など

他方、ベトナムでは、司法書士、行政書士、社会保険労務士、海事代理士といった専門職は存在せず、弁護士がこれらの業務の全てを担います。すなわち、ベトナムでは法律に関する業務は基本的に弁護士が行うという建付けになっています。

ベトナムの弁護士 日本の弁護士 + 司法書士 + 行政書士 + 社会保険労務士 + 海事代理士

 

12

業務範囲

 

ベトナムの弁護士法で定める弁護士の業務範囲(弁護士法第22条)は、次のとおりになります。

 ①  刑事訴訟への参加

      • 被疑者、被告人の弁護人として、または被害者や民事事件の原告・被告、利害関係者の権利保護者として訴訟に参加。

 民事・商事・労働などの訴訟参加

      •      民事、家族、商業、労働、行政訴訟およびその他の法的紛争において、当事者の代理人または権利保護者として参加。

 法律相談の実施

      •       法律に関する助言・アドバイスの提供。

 訴訟外での代理業務

      •       法律に関する手続を顧客に代わって遂行。

 その他の法律サービス

      •       法律に基づくその他の法務サービスの提供。
      •       その他の法律サービスは、弁護士法第30条に以下の業務を定めています。
        1.                                              行政手続の支援(例:会社設立、許認可申請など
        2.                                              苦情処理における法的支援
        3.                                              文書の翻訳・認証・取引支援
        4.                                              その他の法的支援業務 

そのため、会社設立手続許認可申請手続などの行政手続は、弁護士の業務範囲に含まれます。これらの業務は、**正式な弁護士資格(法律業務証明書)**を持つ弁護士のみが、合法的な形態で実施することが認められています。

 

13

弁護士の業務形態(弁護士法第23条)

 

           資格を有する弁護士は、以下の二つの形態で、弁護士業務を活動することができます。

                 ①  法律事務所における業務形態(法律事務所所属の弁護士)

      •       法律事務所の設立または共同設立に参加する形での活動又は労働契約を締結して法律事務所で働く形での活動。
      •       法律事務所に所属する弁護士は、法律サービス契約を通じて顧客に対して法的サービスを提供することが許可されています。法律事務所を通じて、訴訟代理、法律相談、契約書作成、行政手続の代理など幅広い法的業務を行うことが可能です。

                   ②  企業内法務部門における業務形態(インハウス弁護士)

      •       企業の法務部門において、労働契約に基づき雇用される形での業務。
      •      インハウス弁護士は、所属企業に対してのみ法律サービスを提供できます。他の外部顧客に対する法的サービスの提供は禁止されています。コンサルティング会社の法務部門で働く弁護士も同様に、その会社に対してのみ法的支援が可能です。

 

02 - コンサルティング会社の業務範囲

 

21

業務範囲

 

ベトナムのコンサルティング会社の業務範囲は、首相決定第27/2018/QĐ-TTg(ベトナム経済産業分類体系の公布)に基づき定められています。通常、コンサルティング会社は**「経営コンサルティング業」**を登録して活動を行います。

NO. 7020 - 経営コンサルティング業

この業種に含まれる業務内容:
企業やその他の組織に対して、経営に関する次の分野でのコンサルティング、指導、支援を提供します。

  •       戦略・事業計画の策定
  •       財務意思決定の支援
  •       市場目標・方針の設計
  •       人事政策・人材管理のアドバイス
  •       生産計画・進捗管理のサポート
  •       公共関係(PR)・情報提供
  •       ロビー活動(政策提言や業界団体との連携)
  •       監査手法・コスト管理システム・資金管理メカニズムの設計
  •       事業計画や業務効率化のためのコンサルティング・支援

業務範囲の制限

コンサルティング会社は幅広い業務を行えますが、次の業務は含まれません

  •       法律相談・代理業務6910:法律活動に分類)
  •       会計、監査、税務相談業務69200:会計、監査、税務に関する活動に分類)

 

22

コンサルティング会社の業務範囲を超えた活動による行政処分

 

          コンサルティング会社による法令違反のリスク

ベトナムでは、コンサルティング会社が許可された業務範囲を超えて法的サービスを提供することは、弁護士法投資法企業法に違反し、行政処分の対象となります。

違法となる業務例:

      •      行政手続の代理(例:会社設立手続きの代理)
      •      契約書の作成法的意見の提供
      •      契約書のリーガルチェック

 

コンサルティング会社に所属する弁護士が、所属企業以外の顧客に法的サービスを提供した場合。

  •      罰金額: 7,000,00010,000,000 VND(約35,00050,000円)
  •      違反内容: 労働契約を締結していない組織・個人に対して法的サービスを提供する行為。
  •      適用法令: 82/2020/NĐ-CP号 第63(司法補助・司法行政・家族・民事執行・企業破産分野の行政違反処罰規定)

法律事務所ではない組織が法的サービスを提供した場合。

  •      罰金額: 40,000,00050,000,000 VND(約200,000250,000円)
  •      違反内容:
    1.                       弁護士業務の登録を行わずに活動した場合。
    2.                       法律事務所としての表示や看板を掲げて法的サービスを提供した場合。
  •      適用法令: 82/2020/NĐ-CP号 第76

投資認可証や事業登録証明書に反する活動を行った場合。

  •      罰金額: 70,000,000100,000,000 VND(約350,000500,000円)
  •      違反内容: 投資方針の承認書や投資登録証明書の内容に違反する行為。
  •      適用法令: 122/2021/NĐ-CP 192

 

03 - 法律事務所とコンサルティング会社のどちらを選ぶべきか

 

ベトナムで会社を設立する際、法律事務所コンサルティング会社のどちらに依頼すべきかは重要なポイントです。前述のとおり、行政手続の代行弁護士法に基づき、法律事務所を通じて弁護士のみが合法的に行える業務です。つまり、コンサルティング会社ではこれらの手続の支援を適法に提供することはできません。したがって、結論的には、ベトナムで会社を設立する際に、コンプライアンス違反や法令違反を避けるためには法律事務所にそれらの業務を依頼すべきです。

 

コンサルティング会社に依頼するリスク

コンサルティング会社に法律関連の手続を依頼することには、以下のようなリスクが伴います。

 法的責任の不在

  • コンサルティング会社は法律事務所ではないため、法的アドバイス行政手続の支援に対して法律事務所としての責任を負うことができません。
  • 問題が発生した場合でも、顧客は弁護士法に基づいてコンサルティング会社に責任を問うことができません。結果として、アドバイスの誤りや不適切な対応によるリスクは全て顧客側が負担することになります。

 

 税務リスク

  •      コンサルティング会社が発行するサービス請求書(インボイス)は、法的サービスの提供資格がないため、税務当局により会社の損失としてとして認められない可能性があります。
  •      その結果、企業は税務上のコスト削減効果を得られず、余計な負担が発生する可能性があります。

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。