公開 2025年12月17日  I 更新 2025年12月17日

外国債権購入者への債権購入代金返還は可能か ― ベトナムにおける法務・外為規制の実務整理

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外国債権購入者への債権購入代金返還は可能か ― ベトナムにおける法務・外為規制の実務整理


資金調達 公開 2025年12月17日  I 更新 2025年12月17日
目次

国際商取引における債権売買(債権譲渡)について、外国債権購入者への債権購入代金および利息の返還が可能かを、ベトナム法・外国借入規制・外為管理(為替管理)および銀行実務の観点から、詳しく解説します。 弁護士法人ベトホ(BETOHO LAW FIRM)は、外国企業との取引を行う現地の日系企業に対し、債権売買、外為管理、国際商取引に関する包括的な法務支援を提供しております。

国際商取引の実務において、売買契約に基づき発生した売掛債権(債権)の譲渡は、輸出企業が早期に資金を回収し、キャッシュフローを改善し、支払リスクを低減するための一般的な取引手法の一つです。

しかし、債権者(債権購入者)が外国法人である場合、一定の条件下で債権購入代金を返還する取引は、外為管理規制や取引の法的性質の評価という観点から、実務上、非常に複雑な法的問題を伴います。

こうした実務上の課題を踏まえ、弁護士法人ベトホ(BETOHO LAW FIRM)は、「外国債権購入者への債権購入代金の返還」をテーマとして、現行法令の枠組みを整理し、実務上想定されるリスクを分析するとともに、企業が外為規制を遵守しつつ適切に取引を実行するための指針を解説いたします。

 

01 - 取引の背景(取引スキーム)

 

【事例】

  •     ベトナム企業であるA社(以下「売主」といいます)は、外国法人B社(以下「買主」といいます)との間で国際商品売買契約を締結し、商品を輸出しました。
  •     商品の引渡し完了後、売主は当該売買契約に基づき、買主に対する売掛債権(債権)を有することになります。
  •     資金回収の迅速化および支払リスクの低減を目的として、売主は、この売掛債権を、別の外国法人C社(以下「債権購入者」といいます)に対し、債権売買契約に基づき譲渡しました。当該債権の購入価格は、売掛債権額の90%相当額とされ(以下「債権購入代金」といいます)、債権購入者は、契約に基づき、この債権購入代金を前払いで売主に支払うものとされています。
  •     債権売買契約では、以下の内容が合意されています。

 債権購入者は、債権の期日において、直接、買主から支払いを受けること

 買主が支払期日に支払を行わない場合、債権購入者は、売主に対し、前払いした債権購入代金の返還および利息の支払を請求できること

 なお、当該一連の取引は、債権購入者による前払い日から1年未満の期間内に完結する見込みであるの合意

【本件取引における主要な法的論点】

上記の取引スキームを前提として、以下の2つの重要な法的問題が生じます。

  1.     債権購入者が売主に前払いした債権購入代金は、ベトナム法上、外国借入(外貨借入)に該当するのか。
  2.     仮に外国借入に該当しない場合、売主は、外為管理規制に従い、ベトナム国内の外貨口座を通じて、外国債権購入者に対し、債権購入代金および利息を返還することが可能か。

 

02 - 債権購入代金は外国借入(外国ローン)に該当するか

  

ベトナムにおける外国借入の定義については、政令219/2013/NĐ-CP3条第1において、以下のとおり規定されています。

「外国借入とは、非居住者が、貸付契約、延払売買契約、貸付委託契約、ファイナンス・リース契約、
または借入人が発行する債務証券の形式に基づき、居住者に対して信用供与を行うことをいう。」

この規定に基づき、ある取引が「外国借入」と認定されるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります

 貸主が非居住者(外国法人または外国個人)であること

 借主がベトナム居住者であること

 契約に基づき、資金を借り入れ、返済義務を伴う資金貸借関係が、上記政令に列挙されたいずれかの形式で成立していること

【債権売買契約の法的性質】

上記の定義を前提として本件取引を検討すると、売主と外国債権購入者との間で締結された債権売買契約は、外国借入に該当するいずれの契約形態にも該当しません。

本件取引の本質は、商品売買契約に基づき発生した売掛債権(債権)という財産権の譲渡であり、資金の貸付ではありません。

債権購入者は、

  •     売主に対して信用供与を行う「貸主」ではなく、
  •     将来回収される債権を一定の割引価格で取得する金融投資家(投資主体)として位置付けられます。

債権購入代金の前払いは、債権取得の対価として支払われるものであり、元本返済を前提とした貸付金ではありません

また、債権購入者が享受する利益は、

  •     債務者からの回収による収益、
  •     または債権額と購入価格との差額
    であり、貸付利息としての性質を有するものではありません

【結論】

以上の分析を踏まえると、外国債権購入者が前払いした債権購入代金は、ベトナム法上の「外国借入」には該当しません

したがって、売主と外国債権購入者との間の債権売買取引は、政令219/2013/NĐ-CPの規制対象外であり、外国借入としての登録義務や関連手続は不要であると解されます。

 

03 - 外国債権購入者に対する債権購入代金返還の可否

  

3.1. 債権売買契約の法的性質

形式および内容の両面から見ると、売主と外国債権購入者との間の合意は、以下の二つの法的観点から評価することが可能です。

  •     第一に、本取引は、2015年民法第365に定める「債権譲渡(債務履行請求権の移転)」として位置付けることができます。すなわち、売主が、商品売買契約に基づく債権回収権を、債権購入者に移転する取引です。
  •     第二に、債権購入者が金融仲介機能を有する組織である場合、本取引は、2024年信用機関法に基づくファクタリング取引(売掛債権買取)として評価される可能性もあります。

いずれの法的構成を採用する場合であっても、本契約の核心的な目的は、資金の貸付ではなく、債権という財産権の移転にあります。

債権購入者が売主に対して行う前払いは、債権取得の対価として支払われるものであり、貸付または信用供与の意思を示すものではありません

したがって、本取引は、外国借入や信用取引に関する法令の適用対象とはならず、外国要素を有する取引として、民法および外為管理法令の枠組みに基づき評価されるべきものです。

 

3.2. 債権購入代金返還に係る送金可否の検討 

2014年通達第16/2014/TT-NHNN3条第2および外為管理令(2005年、2013年改正)によれば、ベトナム居住者である企業が外貨口座を通じて行うことができる外為取引は、原則として、以下の二つの類型に限定されています。

 資本取引
直接投資、間接投資、外国借入およびその返済、対外貸付および債権回収、その他資本の流れに関連する取引

 経常取引
輸出入取引に伴う支払・送金、サービス提供に関する支払、商業信用、投資収益、利息支払、その他適法な一方向送金

このため、いずれかの類型に明確に該当しない外貨送金については、商業銀行が法的根拠不足を理由として送金を拒否する可能性があります。

 

3.3. 本件取引への当てはめ

上記の通りに、売主が外国債権購入者に対して債権購入代金(および利息)を返還する行為は、
資本取引・経常取引のいずれにも明確に分類されていません

検討し得る類型としては、以下の二つが考えられます。

  •     輸出取引に関連する支払
    これは典型的な経常取引ですが、本件返還義務は、原商品売買契約に基づく支払義務ではなく、
    独立した債権売買契約に基づく義務であるため、輸出取引関連支払とは判断し難いものです。
  •     商業信用に関連する支払
    商業信用とは、売主が買主に対して支払猶予を与える取引形態を指します。
    しかし、本件では、前払いを行っているのは商品買主ではなく、第三者である外国債権購入者であり、かつ償還請求権付き取引であるため、商業信用とは性質を異にします。

 

04 - 結論および実務上の提言

 

以上の分析を踏まえ、本件取引について、以下の重要な法的評価を導くことができます。

  •     第一に
    債権売買契約に基づき前払いされる債権購入代金は、信用供与を本質とする取引ではなく、
    政令219/2013/NĐ-CPに定めるいかなる外国借入形態にも該当しません。
    本取引は、あくまで商取引に起因する債権(請求権)の譲渡であり、貸付・借入関係を生じさせるものではありません。
  •     第二に
    外国債権購入者に対する債権購入代金および利息の返還については、現行の外為管理法令において、資本取引または経常取引として明確に位置付けられていません。
    そのため、銀行実務においては、送金の適法性を確認できないことを理由に、支払が保留または拒否されるリスクが存在します。

 

実務上の推奨事

上記の状況を踏まえ、外国要素を含む債権売買取引に関与するベトナム企業は、以下の点に特に留意する必要があります。

  •     第一に
    契約締結前に、取引銀行と事前に協議を行い、送金手続、必要書類および法的根拠について
    明確な指針を得ておくことが重要です。
  •     第二に
    取引が金融的要素を強く有する場合や、投資性が高いスキームである場合には、
    国家銀行(SBV)への事前承認申請や、
    特殊な資本取引としての登録を検討することが望まれます。
    これにより、外為規制違反のリスクを低減することが可能となります。
  •     第三に
    契約締結前の段階で、外為管理、国際投資および越境商取引に精通した弁護士に相談し、
    取引スキーム全体について法的リスク評価を受けることが不可欠です。

 

本件のような国際的な債権売買取引においては、取引の法的性質を正確に把握し、外為管理規制を厳格に遵守することが、行政リスクや資本規制違反を回避するための鍵となります。

同時に、
これらの対応は単なるリスク回避にとどまらず、企業の財務透明性および法的安全性を高め、外国パートナーとの信頼関係を強化することにもつながります

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