事案の概要
分野: 不動産、リゾートマンション、コンドテル
依頼者: 日本在住の個人投資家4名
紛争金額: 合計12億VND超
引渡遅延期間: 6年以上
解決方法: 訴訟前交渉による和解
結果: 投資元本の回収に成功
本件は、日本人投資家4名が、ベトナム国内のリゾート不動産プロジェクトにおいて、2017年頃に売買契約を締結し、物件代金の大部分を支払ったにもかかわらず、長期間にわたり物件の引渡しを受けられなかった事案です。
当初、当該プロジェクトは、海沿いの好立地、高級リゾート型物件、賃貸運用による収益保証、利息補助等を強みとして販売されていました。しかし、実際には、予定された引渡時期を大幅に超過しても物件は完成・引渡しに至らず、事業主からは複数回にわたり新たな引渡予定時期が示されたものの、いずれも実現されませんでした。さらに、契約上予定されていた収益保証や利息相当額の支払いも途中で停止され、事業主の財務状況にも深刻な懸念が生じていました。
このような状況において、弁護士法人ベトホは、日本人投資家4名から依頼を受け、訴訟による形式的な勝訴ではなく、実際に資金を回収することを最優先目標として、事業主との交渉を行いました。
|
|
01 - 背景:高利回りの収益保証を前提としたリゾート不動産投資 |
本件プロジェクトは、ベトナム国内の沿岸都市に所在するリゾート型不動産として販売されていました。販売当時、事業主は、以下のような内容を投資家に説明していました。
- 一定時期までに物件を引き渡すこと
- 引渡後、賃貸運用により一定の収益を保証すること
- 購入者に対して利息補助その他の優遇措置を提供すること
- リゾート運営会社を通じて安定的に収益を確保すること
これらの説明を前提に、4名の日本人投資家は売買契約を締結し、それぞれ多額の代金を支払いました。支払総額は12億VNDを超えていました。
しかし、契約上予定されていた引渡時期を経過しても、物件は引き渡されませんでした。その後も事業主は、複数回にわたり新たな引渡時期を提示しましたが、実際の引渡しは実現されませんでした。また、当初約束されていた収益保証についても、一定期間後に支払いが停止されました。事業主からは、十分な説明や具体的な解決策が示されず、依頼者らは、投資資金を回収できない可能性に直面していました。
|
|
02 - 本件の法的・実務的な難しさ |
本件は、単なる「物件の引渡遅延」の問題ではありませんでした。実際には、契約違反、財務悪化、言語の壁、訴訟後の執行可能性など、複数のリスクが重なっていました。
2.1 言語・情報格差の問題
依頼者はいずれも日本人であり、ベトナム語による契約書、通知書、事業主とのやり取りを正確に理解することが困難な状況にありました。
一方、事業主側からは、ベトナム語を中心とした説明や書面が提示されており、依頼者がその法的意味や不利益を十分に把握できないまま、追加書面への署名を求められるリスクがありました。
特に、不動産投資に関する紛争では、一見すると単なる確認書や延長合意書に見える書面であっても、実際には、買主の解除権、違約金請求権、遅延利息請求権等に大きな影響を及ぼす可能性があります。
2.2 事業主による度重なる引渡時期の延長
事業主は、当初の引渡期限を経過した後も、複数回にわたり新たな引渡時期を提示していました。
しかし、これらの提案には、遅延に対する明確な補償、支払保証、資金回収の具体的スケジュール等が十分に含まれていませんでした。
そのため、依頼者が安易に延長合意書等に署名した場合、過去の遅延について異議を留保しないものと評価され、将来的に違約金や損害賠償を請求する際に不利に働くおそれがありました。
2.3 不可抗力を理由とする責任回避の主張
事業主は、社会情勢や感染症の影響、市場環境の悪化等を理由として、引渡遅延や収益保証の不履行について、自社の責任を限定しようとする姿勢を示していました。
しかし、ベトナム法上、不可抗力が認められるためには、単に事業環境が悪化したというだけでは足りません。不可抗力事由の存在、当該事由と債務不履行との因果関係、損害回避措置の有無等を個別具体的に検討する必要があります。
本件では、事業主の主張をそのまま受け入れることはできず、契約内容、遅延の時期、事業主の説明状況、支払停止の経緯等を踏まえ、法的に反論可能な点を整理する必要がありました。
2.4 訴訟に勝っても回収できないリスク
本件で最も重要であったのは、「法的に勝てるか」ではなく、「実際に回収できるか」という点でした。
契約上、依頼者らには、契約解除、支払済代金の返還、違約金、遅延利息、損害賠償等を請求し得る余地がありました。
しかし、事業主の財務状況には既に重大な懸念があり、仮に訴訟で勝訴判決を取得しても、実際の強制執行により十分な金額を回収できるかは不透明でした。
そのため、本件では、訴訟を最終手段として準備しつつも、まずは交渉により早期に現金回収を実現することが、依頼者の利益に最も合致すると判断しました。
|
|
03 - 弁護士法人ベトホ(BETOHO)の対応方針 |
BETOHOは、本件において、単に法的主張を整理するだけではなく、依頼者の最終目的である「実際の資金回収」から逆算して対応方針を設計しました。
3.1 契約書・支払資料・関連書面の全面的な精査
まず、売買契約書、賃貸運用に関する契約書、覚書、支払証憑、事業主からの通知書、メール等を全面的に精査しました。
その結果、主に以下の法的論点を整理しました。
- 物件引渡義務の不履行
- 収益保証・利息補助に関する支払義務の不履行
- 引渡時期の一方的な延長の有効性
- 依頼者による契約解除の可否
- 支払済代金の返還請求の可否
- 違約金、遅延利息、損害賠償請求の可能性
- 訴訟を選択した場合の回収可能性
これにより、依頼者が法的に主張し得る権利と、交渉上優先すべき請求項目を明確にしました。
3.2 交渉窓口の一本化と情報管理
交渉においては、事業主が依頼者に直接連絡し、個別に説得や延長合意を求めることを避ける必要がありました。
そのため、BETOHOが交渉窓口となり、事業主とのやり取りを一元管理しました。
これにより、以下のリスクを抑えることができました。
- 依頼者が不利な書面に署名してしまうリスク
- 事業主から心理的圧力を受けるリスク
- 口頭説明と書面内容が一致しないリスク
- 各依頼者の方針が分断されるリスク
- 交渉経緯が証拠化されないリスク
また、重要な提案や回答については、すべて書面で確認し、後日争いが生じた場合にも証拠として利用できるようにしました。
3.3 最大請求額と現実的回収額を分けた交渉設計
本件では、契約上、依頼者らが主張し得る請求額は、元本に加えて、収益保証、遅延利息、違約金、損害賠償等を含むものでした。しかし、事業主の財務状況を踏まえると、全額を形式的に主張し続けるだけでは、交渉が長期化し、かえって回収可能性が低下するおそれがありました。
そこで、BETOHOは、法的に主張可能な最大請求額を明確にした上で、交渉上は、依頼者にとって最も重要な投資元本の回収を最優先とする方針を採用しました。
一部の利息・違約金については、交渉上のカードとして位置づけ、事業主が早期返金に応じる場合には、一定の範囲で柔軟に調整する余地を残しました。これは、単なる譲歩ではなく、依頼者の実質的利益を最大化するための戦略的判断でした。
3.4 訴訟準備を並行して進めることによる交渉圧力
交渉と並行して、訴訟に移行した場合の請求構成、証拠関係、管轄、手続の流れについても検討しました。
事業主に対しては、交渉が不成立となった場合には、依頼者らが法的措置を講じる準備があることを明確に伝えました。
これにより、事業主に対し、単なる要請ではなく、法的措置を背景とした現実的な交渉であることを認識させることができました。本件では、訴訟そのものを目的とするのではなく、訴訟準備を交渉上の圧力として適切に活用することが重要でした。
|
|
04 - 解決結果 |
複数回にわたる交渉の結果、事業主は、依頼者らとの間で契約終了および返金に関する合意を締結することに応じました。
主な成果は以下のとおりです。
- 4名全員について交渉による解決を実現
- 支払済み投資元本の回収に成功
- 契約上発生していた一部の収益・利息相当額についても解決内容に反映
- 訴訟を提起することなく解決
- 長期訴訟、執行不能、追加費用のリスクを回避
本件の重要なポイントは、単に「法的に請求できる」という段階にとどまらず、その請求権を実際の資金回収につなげた点にあります。特に、事業主の財務状況が悪化しつつある中では、対応のタイミングが極めて重要でした。仮に、さらに数年待った上で訴訟を提起していた場合、勝訴判決を取得できたとしても、実際に回収できる資産が残っていなかった可能性があります。
本件では、訴訟前の段階で適切な法的圧力をかけ、同時に現実的な解決条件を提示したことにより、依頼者にとって最も重要な資金回収を実現することができました。
|
|
05 - ベトナム不動産投資を行う外国人投資家への示唆 |
5.1 高利回りの収益保証は慎重に検討すべきです
リゾート不動産やコンドテルにおいて、年8%から12%程度の収益保証が提示されることがあります。しかし、高い収益保証は、それ自体が安全性を意味するものではありません。
投資前には、事業主の財務状況、プロジェクトの法的状況、建設進捗、運営計画、収益保証の原資を慎重に確認する必要があります。
5.2 延長合意書や覚書には安易に署名すべきではありません
引渡遅延が発生した場合、事業主から、引渡時期を延長するための覚書や補足合意書への署名を求められることがあります。しかし、その内容によっては、買主が過去の遅延を承認したと評価され、違約金、遅延利息、損害賠償等の請求が制限される可能性があります。署名前に、必ず契約内容と法的効果を確認することが重要です。
5.3 「勝訴」と「回収」は別の問題です
不動産紛争においては、法的に勝てる見込みがあるかだけではなく、勝訴後に実際に回収できるかを検討する必要があります。特に、事業主の財務状況が悪化している場合、訴訟に数年を要している間に、回収可能な資産が失われるリスクがあります。そのため、訴訟を選択するか、交渉により早期回収を目指すかは、法的見通しだけでなく、執行可能性も踏まえて判断すべきです。
5.4 早期対応が回収可能性を大きく左右します
事業主による引渡遅延や支払停止が長期化している場合、単に待ち続けることは、投資家にとって大きなリスクとなります。早期に法的通知を行い、交渉の主導権を確保し、必要に応じて訴訟準備を進めることで、回収可能性を高めることができます。
5.5 外国人投資家には、言語と実務の双方を理解する代理人が必要です
外国人投資家にとって、ベトナム語の契約書、現地の商習慣、行政・裁判手続を正確に理解することは容易ではありません。そのため、ベトナム法に精通しているだけでなく、日本語で依頼者に説明し、現地事業者との交渉を適切に進められる専門家の関与が重要です。
|
|
06 - BETOHOのサポート内容 |
BETOHOでは、ベトナム不動産投資に関する契約確認、紛争対応、返金交渉、訴訟対応について、日本語でサポートを行っています。
特に、以下のようなケースでは、早期のご相談をおすすめします。
- 物件の引渡しが長期間遅れている
- 事業主から延長合意書や覚書への署名を求められている
- 収益保証や利息補助の支払いが停止されている
- 事業主の財務状況に不安がある
- 解約・返金を求めたいが、どのように進めるべきか分からない
- 訴訟すべきか、交渉すべきか判断できない
ベトナム不動産投資に関する紛争では、初動対応の遅れが回収可能性に直結することがあります。契約上の権利を守るためには、早い段階で契約書、支払証憑、事業主からの通知書等を確認し、適切な対応方針を立てることが重要です。