ベトナムでは、株主間契約(株主協定/合弁契約/メンバーシップ契約)が、企業設立前から広く活用されてきました。法令上の明確な定義は存在しないにもかかわらず、スタートアップから外資系大企業まで、出資やM&Aの場面でほぼ必ず登場します。
本質的には、株主間契約とは 「オーナー同士の契約」 であり、
- だれが拒否権を持つのか
- 主要人事をだれが任命するのか
- 資金の流れをだれがコントロールするのか
- 持分(株式)の譲渡や定款変更をだれが止められるのか
- 利益配分をどう設計するのか
といった、企業内部の権力配分と利害調整のルール を細かく定めるためのツールであると言えます。
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01 - 株主間契約の法的地位:会社を当然に拘束するのか? |
重要なポイントは、株主間契約はベトナム企業法に明記された「公式な法律文書」ではないという事実です。
したがって:
- 内容・範囲・法的拘束力
- どのように執行されるのか
について、法律上の統一ルールは存在しません。
行政手続きにおいて、企業が株主間契約を提出したり公開したりする義務もありません。むしろ、定款や企業法と矛盾する条項は、裁判所で無効と判断されるリスクさえあります。
そのため、株主間契約は基本的に 「株主同士の民事契約」 にすぎず、契約内容が 自動的に会社を拘束するわけではありません。
会社を拘束したい場合には、
- 取締役会や経営陣への指示として落とし込む
- 定款へ反映する
といった 企業ガバナンス上の手続 を必ず設計する必要があります。ここを誤ると、「契約では合意していたが、会社は従わない」という、外資企業でよく見られる紛争に発展します。
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02 - 実質的所有者(Beneficial Owner)制度がもたらす新しい転換点 |
2025年以降、状況は大きく変わり始めました。「実質的所有者(受益者所有者)」の把握制度 が導入されたことで、株主間契約が果たす役割は、単なる内部契約ではなくなりつつあります。
財務省が各地の企業登録機関に送付した内部資料では、「企業支配は、持株比率だけでなく、株主間契約などの私的合意からも生じ得る」と明確に指摘されています。
さらに、以下のようなケースも 「支配権」 として扱い得ると説明されています:
- ある個人の承認がなければ重要決定が通らない
- 創業者の影響力やブランド力による事実上の支配
- 株主協定や覚書による非公式な拘束
つまり、株主間契約は「企業を実際に支配している人物」を判断する重要資料と位置付けられました。企業が実質的所有者を申告する際、株主名簿だけでは不十分で、株主間契約の内容まで検討する必要があるということになります。
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03 - 法的リスク:公開しない「内部契約」が問題になる時代へ |
これにより、従来は「社内だけの秘密」と考えられてきた条項が、透明性チェックの対象へと変わります。もし株主間契約によって、ある個人が会社を事実上コントロールしているにもかかわらず、企業がその情報を申告しなければ、不正確な情報提供 とみなされ、行政リスクや制裁の対象となる可能性があります。
今後、株主間契約は:
- 紛争リスク管理
- 実質的所有者の適切な申告
- コンプライアンス体制の証跡としての役割
という、より公的に近い性質を帯びていくことになります。
企業への実務的提言(失敗しないために)
ベトナムで事業を行う企業、とくに日系企業は次の点を再確認すべきです:
1️⃣ 株主間契約と定款に矛盾がないか精査する
2️⃣ 会社を拘束したい条項は、必ずガバナンスに落とし込む
3️⃣ 実質的所有者制度との整合性を事前にチェックする
4️⃣ 出資・M&Aの初期段階で、法務デューデリジェンスを行う
「契約があるから安心」という時代ではなく、契約・制度・運用が三位一体で設計されているかが問われる時代になりました。
まとめ:株主間契約は、もはや「裏契約」ではない |
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実質的所有者制度の導入により、株主間契約は 企業支配を判断する公式の材料 へと位置付けが変わりつつあります。適切に設計すれば、ガバナンス強化・紛争予防・透明性向上という強力な武器になりますが、誤れば 法令違反や紛争リスクを増幅させる要因にもなります。 弁護士法人ベトホ(BETOHO Law Firm)では、実務経験に基づき、株主間契約の設計・レビュー、実質的所有者制度への対応、M&A・ガバナンス全般についてサポートいたします。 ベトナムでの投資や会社運営に関するご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。 |