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01 - 日系企業における労働紛争とは何か |
2019年ベトナム労働法およびその施行ガイダンスによれば、労働紛争とは、労働関係の成立・履行・終了の過程において発生する、権利・義務・利益に関する意見の相違や対立を指します(同法第179条)。
具体的には、次のような当事者間で発生します。
- 労働者と使用者(企業)との間
- 労働者と、海外就労を仲介する派遣会社・送り出し機関との間
- 労働者側の代表組織同士の間
- 派遣労働者と派遣先企業との間
要するに、労働契約の締結・履行・終了に関して、労働者と使用者の間で生じる権利・義務・利益をめぐる対立が、労働紛争に該当します。
【日系企業に多く見られる労働紛争の典型例】
ベトナムに進出している日系企業では、実務上、次のような場面で労働紛争が発生しやすい傾向があります。
- まず多いのが、労働契約の一方的な解除です。
労働者側または企業側が、法令上の条件を満たさずに契約を終了させた場合、違法解雇として紛争に発展するケースがあります。 - 次に、懲戒処分や解雇をめぐる紛争も頻発します。
就業規則の不備や手続違反があると、企業側が不利になるリスクが高まります。 - さらに、賃金、残業代、賞与の未払い・計算方法
- 社会保険、失業保険の加入・支払状況
- 配置転換、職務内容の変更
といった労働条件に関するトラブルも典型例です。
加えて、日系企業特有の問題として、日本人駐在員・管理職・専門家とベトナム人従業員との間のトラブルが紛争化するケースも少なくありません。
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02 - 日系企業において労働紛争が発生しやすい主な原因 |
実務上、日系企業で発生する労働紛争には、いくつか共通する原因が見られます。まず多いのが、日本本社の社内ルールをそのままベトナムに適用してしまうケースです。日本の就業慣行や社内規程は、必ずしもベトナム労働法と整合しないため、そのまま運用すると違法となるリスクがあります。
次に、就業規則の未登録または無効な登録も大きな要因です。
就業規則は、労働局への適切な登録手続きを経て初めて法的効力を持ちますが、形式不備や内容違反により無効と判断されるケースも少なくありません。
また、懲戒処分や解雇手続の不備 も頻発します。手続の順序、証拠の収集、労働組合との協議など、ベトナム法で定められたプロセスを踏まない場合、企業側が不利な立場に置かれます。
さらに、
- 残業時間の上限
- 有給休暇の付与方法
- 社会保険・失業保険の加入義務
といった労務管理の基本的なルールを十分に理解していない ことも、紛争の原因となります。
加えて、日系企業特有の課題として、日本とベトナムの労務管理文化の違いも見逃せません。上司・部下の関係、評価制度、コミュニケーションの取り方などに対する期待値の違いが、誤解や不満を生み、結果として紛争に発展するケースもあります。
これらの要因を適切にコントロールできない場合、企業は
- 従業員からの苦情・申立て
- 訴訟提起
- ストライキ
- 行政処分
といった深刻なリスクに直面する可能性があります。
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03 - 日系企業で多く見られる労働紛争の類型 |
日系企業において発生しやすい労働紛争は、内容ごとにいくつかの典型パターンに分類できます。
3.1. 雇用契約の終了に関する紛争
最も多いのが、雇用契約の終了をめぐるトラブルです。具体的には、
- 法律上の要件を満たさない一方的な解雇
- 退職手当(退職金)の未払い
- 事前通知期間を守らずに契約を終了したケース
などが挙げられます。これらは違法解雇と判断されるリスクが高く、企業にとって重大な法的責任が生じます。
3.2. 賃金・残業代に関する紛争
次に多いのが、賃金および時間外労働(残業)に関するトラブルです。
例えば、
- 残業代の計算方法の誤り
- 給与の支払遅延
- 賞与・各種手当をめぐる争い
などが典型例です。賃金は労働者にとって最も重要な権利であるため、小さなミスでも大きな紛争に発展しやすい分野です。
3.3. 懲戒処分・解雇をめぐる紛争
懲戒処分や解雇手続の不備も、日系企業で頻発します。
- 正当な理由のない解雇
- 法定手続きを踏まずに懲戒処分を行ったケース
- 就業規則自体が無効と判断される場合
などでは、企業側が極めて不利な立場に置かれます。
3.4. 社会保険・福利厚生に関する紛争
また、社会保険・福利厚生に関するトラブルも増えています。
- 社会保険料を未納、または不足して納付している
- 病気休暇、産休、労災補償をめぐる紛争
といったケースでは、労働者が行政機関や裁判所に申し立てることも少なくありません。
労働紛争における「原因 – 典型的な結果 – 関連法令」一覧
以下は、実務でよく見られる紛争類型を整理したものです。
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主な原因 |
よくある結果 |
関連法令 |
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違法解雇 |
従業員が訴訟提起、解雇無効確認、損害賠償、復職請求 |
労働法125条、127条、128条 |
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賃金の遅延・未払い |
未払い賃金および遅延利息の請求 |
労働法94~96条、民事訴訟法32条 |
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社会保険未納・不足納付 |
給付が受けられない、行政申立・訴訟 |
労働法85・86条、社会保険法2014 |
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退職手当の未払・誤算 |
退職手当支払請求訴訟 |
労働法46条、48条 |
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無断退職(労働者側) |
企業が損害賠償請求(半月分給与、研修費など) |
労働法35条、40条 |
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試用契約・雇用契約違反 |
賃金・勤務時間・損害賠償紛争 |
労働法24条、27条、34条 |
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契約内容が不明確 |
権利義務をめぐる紛争、集団紛争化 |
労働法13~15条 |
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就業規則が不透明 |
懲戒・待遇紛争、無効判断リスク |
労働法118~122条、政令145/2020 |
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定期対話・交渉不足 |
不満蓄積 → スト・集団紛争 |
労働法63条、66条 |
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04 - ベトナムにおける労働紛争の解決手順 |
労働紛争の種類や実質に応じて、解決手続は以下のような段階を経て進められます。
① 社内協議(当事者間の交渉)
まず、企業と労働者の間で直接話し合いを行い、合意による解決を目指します。初期段階での誠実な対応が、紛争の拡大防止につながります。
② 使用者または労働監督機関への申立て
当事者間で解決できない場合、労働者は使用者または労働監督機関へ正式に苦情申立てを行うことができます。
③ 労働調停員による調停
多くの紛争類型では、訴訟前に労働調停が義務付けられています。第三者の立場から事実確認と和解案の提示が行われます。
④ 管轄裁判所への提訴
調停が不成立の場合、当事者は人民裁判所へ訴訟を提起します。ここでは証拠の質と戦略が勝敗を左右します。
⑤ 判決の強制執行
確定判決後も、相手方が履行しない場合には、労働執行機関による強制執行手続が行われます。
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05 - 不適切な対応による法的リスク |
日系企業が労働紛争に対して誤った対応を取った場合、以下のような重大なリスクが生じます。
- 解雇が違法と判断されるリスク
- 未払い賃金、補償金、社会保険料の追納命令
- 政令12/2022/NĐ-CPに基づく行政処分
- 企業イメージ・職場環境の悪化
- 集団ストライキ発生の可能性
これらは単なる金銭的損失にとどまらず、人材流出・事業運営への長期的な悪影響をもたらします。
日系企業向けBETOHO法律事務所の労働紛争対応サービス |
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