|
|
01 - 「業務を完了しない」とはどういう状態か |
ベトナム労働法第36条第1項(a) において、
使用者(企業)は以下のような場合に労働契約を一方的に終了させる権利を有すると規定されています。
「労働者が労働契約に基づく業務を頻繁に遂行できない(通常に完了しない)場合。
その判断は、使用者が定める業務評価規程の基準に基づくものとする。
この規程は、事業所に労働者代表組織が存在する場合には、当該組織の意見を聴取したうえで制定しなければならない。」
● 「業務を完了しない」状態の判断基準
現行法では、「業務を完了しない(不達成)」の具体的な定義は明示されていません。
したがって、労働者が「業務を完了したか否か」の判断は、各企業が自社で策定する評価規程に依存します。
この評価規程は、以下の条件を満たす必要があります:
- 客観的かつ透明性のある評価基準であること
- 企業の事業特性・業務内容・労働条件に適合していること
- 労働者代表組織(存在する場合)に対して事前協議が行われていること
● 「頻繁に不達成」とは?
「頻繁に(thường xuyên)」という表現は、法律上明確な定量基準が存在しません。
したがって、各企業は一定の柔軟性をもって評価基準を設定できますが、同時に、過度な設定や恣意的な運用は「不当解雇」とみなされるリスクを伴います。
もし企業が明確な評価規程を定めずに労働契約を終了した場合、それは「法的根拠のない契約終了」として無効と判断される可能性が極めて高くなります。
● 実務上の注意点
- 評価規程の制定にあたって労働者代表組織との協議を行わなかった場合、
政令12/2022/NĐ-CP第12条第3項(c) に基づき、5百万~1千万ドンの行政罰が科される可能性があります。 - 規程を曖昧にしたまま「業務不達成」として解雇した場合、労働裁判や労働仲裁において企業側の敗訴リスクが高まります。
|
|
02 - 実務における裁判例と企業への教訓 |
● 事例①:ハノイ高等人民裁判所 判決番号 03/2021/LĐ-PT(2021年6月23日)
企業A1社は、従業員Lâm Văn A氏が「業務を頻繁に遂行しない(不達成)」として労働契約を終了しました。
しかし、裁判所は次のように判断しました:
- 会社側の提出した会議記録は単なる内部注意書きに過ぎず、
**業務未達成の具体的な証拠(業績指標・品質基準)**を示していなかった。 - 企業には**正式な業務評価規程(performance evaluation regulation)**が存在せず、
契約終了の根拠が欠如していた。
➡️ その結果、裁判所は会社側の一方的な契約終了を「違法」と判断しました。
(出典:ハノイ高等人民裁判所判決03/2021/LĐ-PT)
● 事例②:第一審人民裁判所 判決番号 01/2024/LĐ-ST(2024年4月23日)
C社(投資会社H)は、従業員Đoàn Lê Minh T氏を「業務不達成」を理由に解雇。
しかし、裁判所の判断は次のとおりです:
- 提出された報告書・点検記録は一般的な注意・助言レベルに留まり、
明確な業務評価基準に基づく証拠が存在しなかった。 - 会社は、法的に有効な評価規程を制定・公示していなかった。
その結果、裁判所は企業側に対し以下を命じました:
- 補償金216百万ドンの支払い
- 社会保険の追加納付
- 退職補償金の支払い
■法的教訓 ― 「評価規程の不存在」は致命的リスク
上記2つの判例が示すように、「業務不達成」を理由に労働契約を終了するためには、以下の条件を満たす必要があります:
1. 業務評価規程が正式に制定されていること
- 書面で明確な評価基準(KPI・品質・行動評価など)を設定。
2. 労働者代表組織の意見を聴取していること
- 労働組合等の意見を反映しない場合、政令12/2022/NĐ-CP第12条第3項(c)により
500万〜1000万ドンの罰金リスクが発生。
3. 規程の内容を社内に公開・周知していること
- 労働者が評価基準を理解・アクセスできる状態にあること。
💡ベトナム実務でのポイント(企業側へのアドバイス)
|
リスク |
発生原因 |
推奨対応策 |
|
契約終了が違法と認定される |
業務評価規程の欠如・曖昧な証拠 |
KPI・職務記述書・報告制度の整備 |
|
行政罰(500万〜1000万ドン) |
労働者代表組織と未協議 |
意見聴取記録を保存 |
|
裁判所による補償命令 |
解雇手続の瑕疵・証拠不足 |
手続文書・議事録を体系的に保管 |
|
|
03 - 使用者が労働契約を終了する場合の「事前通知期間」 |
ベトナム労働法第36条第2項 に基づき、使用者(企業)が労働契約を一方的に終了する場合には、
契約形態に応じて以下の事前通知期間を守る義務があります。
第36条第2項
使用者が第1項のa, b, c, đ, gに該当する理由で労働契約を一方的に終了する場合、
以下の期間をもって労働者に事前通知を行わなければならない。
【通知期間の区分】
|
契約形態 |
最低限の通知期間 |
|
無期限労働契約 |
少なくとも45日 |
|
有期限労働契約(12〜36か月) |
少なくとも30日 |
|
有期限労働契約(12か月未満) |
少なくとも3営業日 |
|
特定の業種・職種 |
政府規定に従う |
よって、「業務を頻繁に遂行しない(不達成)」を理由に契約終了する場合も、上記の期間を厳守する必要があります。通知期間を守らずに契約を終了した場合、企業側に不当解雇のリスクが生じ、損害賠償を命じられる可能性があります。
|
|
04 - 「業務不達成」は懲戒解雇の対象となるか? |
結論から言えば、「業務不達成」は懲戒解雇には該当しません。
これはベトナム労働法第125条 により明確に定義されています。
🔸 懲戒解雇が適用される主な場合(第125条)
1. 窃盗・横領・賭博・故意の傷害・職場での薬物使用
2. 営業秘密・技術秘密の漏洩、知的財産侵害、
または会社の財産・利益に対する重大な損害や性的嫌がらせ行為
3. 昇給・降格の懲戒を受けた後の再犯(未抹消の懲戒)
4. 正当理由なく無断欠勤を繰り返す場合
(30日以内に累積5日、または365日以内に累積20日)
➡️ したがって、業務不達成だけでは懲戒解雇の法的根拠にはならないことが明確です。
🔹 では、「業務不達成」の場合どうなる?
もし就業規則において、「業務を完了しないこと」が違反行為として明記されている場合、労働者は以下のような軽い懲戒措置を受ける可能性があります。
- 注意(khiển trách)
- 昇給延期(kéo dài thời hạn nâng lương)
- 降格(cách chức)
しかし、これらの処分も必ず懲戒手続の適正(手続通知・弁明機会・議事録)を経なければなりません。
形式を欠いた処分は、のちの労働争訟で無効とされるおそれがあります。
実務アドバイス |
|