当事務所が支援したある事案では、収集された証拠から、ある上級管理職が取引先と共謀し、不正な利益を受け取った疑いが認められました。しかし、企業が当該従業員に責任の負担および損害賠償を求めた際、大きな障害となったのは、まさに会社の社内規程体系でした。
責任を問われた者は、管理職に就いていただけでなく、会社の規程、規則および承認プロセスの大部分の策定にも関与していました。これらの文書は形式上、非常に厳格に作成されていましたが、紛争が発生すると、同時に、制度を設計した本人にとって相当な「逃げ道」となりました。
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01 - 行為に関する証拠だけでは責任問題を解決できない場合 |
コンプライアンス調査の過程で、企業は、従業員と取引先との関係、および取引先が従業員に不正な利益を供与したことを示す複数の資料を確認しました。ガバナンスの観点から見れば、本件には利益相反および会社に対する誠実義務違反の疑いがありました。
しかし、調査段階から損害賠償請求の段階に移ると、問題は「従業員が何をしたのか」だけではなく、「誰が決定権限を有していたのか」および「社内規程において責任がどのように配分されていたのか」にも及びました。ここで、ガバナンスに関する文書の内容が、責任の判断方法に大きな影響を与える要素となりました。
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02 - 承認プロセスの中に設けられていた「逃げ道」 |
会社の社内規程では、ほとんどの重要な決定に関する承認権限が社長に帰属していました。各部門は、書類を作成し、報告したうえで承認を申請する責任を負い、社長の署名を得た後に初めて提案を実行できる仕組みとなっていました。
また、別の規程では、承認者が当該決定について最終的な責任を負う者であると定められていました。承認とは、署名者が書類一式を客観的かつ十分に確認し、自らの判断で決定したことを確認する行為であると説明されていました。
この二つの規定を併せて見ると、書類の作成者および申請者は、自らは準備または提案を行ったにすぎず、最終決定は社長が行ったと主張する余地が生じます。そのため、本来は統制を強化するために設けられた仕組みが、情報を把握し、主体的に行為を行った者から、承認の署名をした者へと責任の焦点を移すために利用される可能性があります。
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留意点 承認の署名には重要な法的およびガバナンス上の意味がありますが、提案者、審査者、または意図的に情報を隠蔽し、歪曲した者の責任を自動的に免除する仕組みとして設計すべきではありません。責任は、各人の職務、情報へのアクセスの程度および実際の行為に基づいて判断する必要があります。 |
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03 - 損害賠償請求の根拠をめぐる議論 |
- 本件における重要な法的論点の一つは、会社が従業員に損害賠償を求める際の法的根拠でした。第一審では、違法行為に基づく不法行為責任としてではなく、労働関係および労働者の物的責任の枠内における損害賠償請求のみが認められました。
- このような判断方法により、責任を判断する根拠、範囲および方法に重要な違いが生じます。ここでは、承認規程の内容および社長の署名が、実行された決定について最終的な責任を負う者を判断する際の重要な事情となりました。
- この点については、控訴審において引き続き争われています。したがって、第一審の結果を、あらゆる場合において承認の署名者が当然にすべての責任を負い、または誤った情報を提供した者が責任を免れるという一般原則として理解すべきではありません。しかし、本件からは、企業が社内規程をどのように作成し、運用しているかが、紛争発生時の責任の解釈に直接影響し得ることが明確に分かります。
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04 - ベトナムの日系企業に特有の盲点 |
ベトナムの日系企業では、社長または法定代表者を日本人が務めている例が多くあります。これらの管理者は、ベトナム語を十分に使いこなせず、現地市場に関する情報も十分ではないため、ベトナム人管理職による報告、翻訳または説明に大きく依存する場合があります。
このような状況では、承認者が、書類に誤った情報が含まれているか、取引先と提案者との間に利害関係があるか、または価格や取引条件に不自然な点があるかを自ら見抜くことは、一般に容易ではありません。それにもかかわらず、社内規程において、署名は本人が十分に確認したことを意味し、署名者が最終的な責任を負うと定められている場合、規程の内容と実際の確認能力との間の隔たりが大きなリスクとなります。
その規程を社長自身が署名して制定していた場合、このリスクはさらに明確になります。紛争が発生すると、会社は、署名者が会社の文書に記載された責任を理解していなかった、または適切に果たすことができなかったと主張することが難しくなります。
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05 - これは言語だけの盲点ではありません |
外国人管理者がベトナム語の書類を読めないことは、最も目につきやすい部分にすぎません。その背後には、ガバナンス体制、法的解釈および実際の運用方法に関する、より根深い盲点があります。
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盲点 |
よく見られる状況 |
紛争発生時のリスク |
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言語 |
署名者が翻訳または要約された説明に依存しています。 |
不足、誤り、または選択的に提示された情報を把握できません。 |
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ガバナンス |
すべての権限が社長に集中している一方、書類を準備する各担当者の責任が相応に定められていません。 |
最終的な署名によって、情報を作成し、管理した者の役割が見えにくくなります。 |
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法務 |
範囲を明確にしないまま、「最終責任を負う」などの絶対的な表現が用いられています。 |
社内文書が当初の目的とは異なる形で利用される可能性があります。 |
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運用 |
書面上のプロセスでは全件確認が求められていますが、時間、言語および情報の制約により、署名者が実行できません。 |
会社が、承認前に実質的な審査が行われたことを証明できません。 |
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06 - 規程が存在することは、リスクが管理されていることを意味しません |
企業は、事業が通常どおり行われ、プロセスも引き続き使用されており、これまで重大な問題がなかったと考えるかもしれません。しかし、ある不備がまだ損害を引き起こしていないからといって、その不備が存在しないわけではありません。単にまだ悪用されていない、または紛争解決機関による審査の対象となっていないだけの場合もあります。
このような状態は、複数の経営者の任期にわたって続きやすいものです。新任の社長は、前任者が制定した規程を引き継ぎますが、そのすべてを見直すための時間、情報または法的支援が十分でない場合があります。その結果、規程は慣習的に適用され続け、問題が発生して初めて、現在の会社の実際の運用に適合していない、または当初から適合していなかったことが明らかになります。
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07 - 企業は不備をどのように見直し、是正すべきでしょうか |
適切な承認プロセスは、最終的な署名者を定めるだけでは十分ではありません。意思決定が形成される一連の過程において、各関係者が負う責任を明確にする必要があります。社内体制を見直す際、企業は特に次の事項を確認することが望まれます。
- 提案者、書類作成者、審査者、統制部門および承認者の責任を明確に区分します。
- 書類の作成者および申請者が、情報の誠実性、完全性および正確性について責任を負い、承認の署名によって当該責任が免除されないことを定めます。
- 承認者が合理的に確認すべき範囲を併せて定めることなく、「最終責任」に関する絶対的な表現を使用しないようにします。
- 利益相反、取引先との関係、贈答品、コミッションおよび関連する利益について、申告および対応の仕組みを設けます。
- 高額な取引、異常な兆候のある取引先、または単一の供給元のみが提案されている場合には、独立した審査を求めます。
- 比較資料、専門的意見、質問事項、説明および承認に付された条件など、確認の記録を残します。
- 外国人管理者が決定の本質およびリスクを理解するために十分な翻訳または説明を受けられるようにします。
- 社長、組織体制、購買プロセス、または重要な統制職に就く者が変更された場合には、定期的な見直しを行います。
さらに重要なのは、見直しを、当該プロセスを直接所管または運用している者だけに委ねないことです。法務部門、コンプライアンス部門、内部監査部門または外部専門家による独立した評価を行うことで、制度の内部にいる者だけでは気づきにくい前提や利益相反を把握できる場合があります。
まとめ
企業ガバナンスにおいて、社長の署名は重要な統制の一つでなければなりませんが、意図的に誤った情報を作成した者や第三者と共謀した者の「盾」となってはなりません。そのためには、最終署名者にすべての権限とリスクを集中させるのではなく、意思決定の全過程に沿って責任を設計する必要があります。
最も危険な盲点は、企業が知らないことではなく、規程が存在するという理由だけで、既に管理されていると企業が考えていることです。したがって、紛争が発生する前に社内規程を見直すことは、文書の形式を修正するだけではなく、会社、管理者および制度の健全性を守るための措置です。
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本記事の範囲に関する留意事項 本記事は、実際に支援した経験をもとに作成したものであり、顧客または関係者を特定し得る情報は省略または調整しています。訴訟手続に関する内容についても、守秘義務の原則に沿って調整しています。 |