公開 2025年12月22日  I 更新 2025年12月22日

ベトナムM&A・再編取引における持分譲渡課税の新ルール ― 外国投資家が押さえるべき税務リスクと対応策

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ベトナムM&A・再編取引における持分譲渡課税の新ルール ― 外国投資家が押さえるべき税務リスクと対応策


M&A 公開 2025年12月22日  I 更新 2025年12月22日
目次

政令320/2025/NĐ-CPおよび税務当局公文書に基づき、ベトナムにおける持分・株式譲渡所得課税の最新動向を解説します。直接・間接譲渡の整理、誤った不動産課税の回避、申告期限や実務上の留意点を網羅的に分析。 弁護士法人ベトホ(BETOHO LAW FIRM)は、税務を「法務の視点」から捉える数少ない法律事務所として、ベトナムで事業を展開する日系企業の税務課題を数多く解決し、実務上確かな成果を上げてきました。

ベトナムにおける持分・株式譲渡に係る所得税務の最新動向(20252026)近年、ベトナムにおいては、投資活動、企業の買収・合併(M&A)、および企業再編取引が、その件数・規模・複雑性のいずれにおいても大きく拡大しています。こうした取引の増加に伴い、譲渡取引から生じる税務上の義務は、企業および投資家にとって、引き続き極めて重要な検討事項となっています。

一般に、「譲渡所得に対する課税」とは、企業における持分、株式、またはこれらに付随する経済的権利・利益を譲渡することにより、譲渡者が得る所得または利益に対して課される税務上の義務を指します。

 

20252026年における税制改正の背景】

2025年から2026年にかけては、法人所得税法(2025年)、同法の施行をガイドする政令320/2025/NĐ-CP、さらに税務総局による公文書第4658/CT-CS号(20251029日付)をはじめとする関連規定が、順次施行される重要な転換期となっています。これらの新規定は、持分譲渡・株式譲渡取引に係る課税関係の判断方法に直接的かつ広範な影響を及ぼすことが想定されており、特に、外国要素を含む取引や外国投資家が関与するM&A取引の増加という現実を背景に、税務当局の解釈および管理方針にも一定の変化が見込まれます。

 

このような法的・制度的背景を踏まえ、本稿では、持分・株式等の譲渡に係る所得税務について、以下の点に焦点を当てて分析します。

  •     新制度における適用範囲の整
  •     潜在的な非課税・免除の可能性があるケー
  •     移行期における申告義務および申告期限に関する留意点

あわせて、実務の現場で問題となりやすい論点を踏まえ、企業および投資家が税務リスクを適切に評価し、現行法令および税務当局の管理方針に沿ったコンプライアンス体制を構築するための実務上の示唆を提示することを目的としています。

 

01 - 適用範囲の明確化:直接的持分譲渡と間接的持分譲渡の区別

 

1.1. 法的背景

ベトナムの税務実務においては、持分(出資持分・株式)の直接譲渡と間接譲渡の区別は、長年にわたり解釈上の議論が続いてきた論点です。

一般に、以下のように理解されています。

  •    「直接譲渡」とは、ベトナム法に基づき設立・運営される企業における出資持分または株式そのものを譲渡する取引を指します。すなわち、譲渡対象はベトナム法人の持分・株式です。
  •    「間接譲渡」とは、外国に所在する親会社、ホールディング会社、投資ファンド、その他の外国法人における持分・株式を譲渡する取引であるものの、譲渡価値の大部分または重要な部分が、ベトナム国内の企業、経済的利益または資産に由来する場合を指します。

2025年法人所得税法およびその施行規定が制定される以前、ベトナムの税法体系には、上記二つの譲渡形態を明確に区別するための概念定義や法的基準が存在していませんでした

また、過去の法令案では、「企業を直接管理しない所有者」に対して売上高の2%を課税するとの表現が用いられていましたが、この表現は極めて抽象的であり、以下のような解釈上の混乱を生じさせてきました。

  •     直接譲渡と間接譲渡に異なる課税方式が適用される可能性
  •     場合によっては、直接譲渡であっても不利な税率が適用され得るという不確実性

→ このような法的曖昧さは、特に多層構造の持株スキームや外国中間法人、投資ファンドを用いた

クロスボーダーM&A取引において、投資家にとって重大な税務リスクおよびコンプライアンスリスクをもたらしてきました。

具体的には、取引が直接譲渡か間接譲渡かの判断は、以下の点に直接的な影響を与えます。

  •     課税ベース(売上高課税か、課税所得課税か)
  •     適用税率
  •     申告義務、源泉徴収義務および各当事者の税務責任

 

1.2. 政令320/2025/NĐ-CPによる新たなアプローチ

政令320/2025/NĐ-CPは、これまでの税務実務上の混乱を是正するため、ベトナムに関連する持分譲渡所得に対して、統一的かつ体系的なアプローチを導入しました。

 

 持分譲渡所得に対する適用範囲の統

同政令3条第4によれば、「外国企業の持分譲渡所得」は、譲渡形態が直接か間接かを問わず
当該所得がベトナム国内の企業または資産に由来する限り、ベトナムにおいて課税対象となると明確に規定されています。この規定は、取引の法形式ではなく、経済的実質に基づいて課税するという原則を明確に示したものです。

すなわち、ベトナムに関連するすべての持分譲渡取引は、同一の税法上の枠組みのもとで評価されることとなり、取引スキームの技術的構成や法的形式に左右されなくなります。

これは、クロスボーダーM&A取引において頻発してきた納税者と税務当局との解釈相違による紛争リスクを低減する重要な制度的進展と評価できます。

 

 定性的基準から具体的な除外事例列挙への転

さらに、同政令第12条第3(i)では、従来用いられていた「直接管理」という曖昧かつ主観的な基準が廃止され、これに代えて、売上高の2%課税を適用しない具体的な除外ケースが明示的に列挙されました。

具体的には、以下の条件をすべて満たすグループ内再編取引については、2%の売上高課税が適用されません。

  •     取引後においても、最終親会社(Ultimate Parent Company)が変更されないこ
  •     再編後も、各当事者がベトナム企業に対する直接または間接の持分を引き続き保有しているこ
  •     当該取引により、実質的な所得が発生していないこ

このアプローチは、抽象的・定性的な判断基準から、要件が明確な除外規定へと移行したことを意味し、
納税者にとって税務結果を事前に予測しやすくする効果があります。もっとも、「再編(リストラクチャリング)」という概念自体については、現時点でもベトナム法令上、完全に統一された定義が存在していません

そのため、実務においては、グループ内再編取引が免税または除外規定の適用対象となるか否かは、依然として、個別案件ごとの税務当局の解釈・判断に大きく依存する点には注意が必要です。特に、複雑または多層的な持株構造を有する取引では、事前の税務分析および当局対応が不可欠となります。

 

1.3.  現行規定と政令320/2025/NĐ-CPにおける課税方法の比較

 直接的持分譲渡の場

項目

現行規定

政令320/2025/NĐ-CP

1.課税方法

譲渡者は、課税所得に対して20%の税率で課税されます。課税所得=譲渡価格譲渡対象持分・株式の取得価額。

譲渡者は、譲渡総額(売上高)に対して2%の税率で課税されます。取得価額や実際の損益は考慮されません。

2.計算例

取得価額70ドル、譲渡価額100ドルの場合:

100 − 70× 20 6ドル将来、当該持分を再譲渡する際、100ドルが取得価額として用いられます。

取得価額70ドル、譲渡価額100ドルの場合:100 × 2 2ドル

将来の再譲渡においても、取得価額に関係なく、譲渡総額に2%課税されます。

たとえ取得価額を下回る価格で譲渡(損失譲渡)した場合でも、税負担が生じます。

 

評価

政令320/2025/NĐ-CPは、利益課税(20%)から売上高課税(2%)への転換を明確に示しています。これにより計算方法は簡素化される一方、損失を伴う譲渡や財務再編取引における税務リスクが増大する点には注意が必要です。

 

 間接的持分譲渡の場

項目

現行規定

政令320/2025/NĐ-CP

1.適用範囲

間接譲渡における課税売上の算定方法、取得価額、譲渡価額の配分について、明確な規定やガイダンスが存在しませんでした。

譲渡価値がベトナム国内の企業または資産に関連する場合、間接譲渡であっても、正式にベトナムの課税対象となります。

2.課税方法

実務上は、直接譲渡に準じた方法がケースバイケースで適用されていました。

譲渡者は、ベトナムに配分された譲渡価額に対して2%の税率で課税されます。

3.将来取引における取得価額の扱い

中間レベルでの譲渡価額が、後続の譲渡取引における取得価額として認められるか否かについて明確な規定がありませんでした。

歴史的な取得価額の特定よりも、ベトナムに配分される譲渡価額が重視され、取得価額の役割は相対的に低下しています。

 

評価

間接的持分譲渡に対して、ベトナム配分価額×2%課税を明文化した点は、長年の法的空白を埋める重要な制度的進展と評価されます。
もっとも、実務においては、譲渡価額をどのような基準でベトナムに配分するかについて、多層持株構造や複雑なクロスボーダーM&Aでは、引き続き解釈上の議論が生じ得る点に留意が必要です。

 

02 - 「不動産譲渡」の概念整理と誤った課税方式が適用されるリスク

 

これまでの政令草案においては、外国法人が、ベトナムで設立された一人有限責任会社(Single-member LLC)の持分を100%譲渡するケースについて、取引の分類を巡る重大な法的リスクが存在していました。とりわけ、対象会社が不動産を所有している場合、または事業価値の大部分が不動産に起因している場合には、当該持分譲渡取引が、「持分譲渡」ではなく「不動産譲渡」と再分類される可能性が指摘されていました。

このような再分類が行われた場合、本来であれば持分譲渡として売上高の2%が課税される取引であるにもかかわらず、不動産譲渡として、課税所得に対する20%課税が適用されるおそれがあり、投資家にとって極めて不利な税務結果を招くリスクがありました。

 

【リスク発生の背景】

このリスクは主として、旧草案における12条の規定表現が十分に明確でなく、かつ限定的な除外規定にとどまっていたことに起因しています。具体的には、不動産譲渡に該当しない取引の範囲が、11条第2項において比較的狭く列挙されていたため、税務当局が、「不動産を所有または利用する企業の持分譲渡は、実質的に不動産譲渡である」と広く解釈する余地が残されていました。

このような解釈が採用されると、取引の法的形式(持分譲渡)にかかわらず、経済的実質を理由として不動産譲渡と再評価される可能性が生じていたのです。

 

【政令320/2025/NĐ-CPによる整理】

政令320/2025/NĐ-CPは、12条第3(i)の改正を通じて、外国企業によるすべての持分譲渡取引を包括的に対象とする構成を採用し、「不動産譲渡」という概念を過度に拡張解釈する余地を大幅に縮小しましたこれにより、税務実務において、以下の重要な原則が明確に確立されたといえます。

 

【実務上確立された原則】

企業の持分譲渡は、たとえ当該企業が不動産を所有している場合、またはその価値が不動産に大きく依存している場合であっても、原則として「持分譲渡」として取り扱われる

例外的に、

  •     法令により特別な規定が設けられている場合
  •     たは、取引類型ごとに独立した課税制度が明示されている場合
    を除き、不動産譲渡として再分類されることはありません

 

この整理により、不動産を保有する企業を対象としたM&A取引においても、投資家は、適用される税制をより予測しやすくなり、誤った課税方式が適用されるリスクを大きく低減することが可能となります。

 

03 - 申告時期および遵守すべき税務上の義務

 

【公文書第4685号に基づく申告期限】

税務局が発行した公文書第4685は、持分譲渡所得に係る申告義務および納税義務が発生する時期について、実務上極めて重要な指針を示しています。同公文書によれば、納税者は、持分の所有権が移転した日から10日以内に、申告および納税を行う義務を負います。

ここでいう「持分の所有権移転時点」とは、譲渡対象となる持分について、関連する法的書類に基づき、正当な所有権が確立された時点を指し、具体的には以下のような時点が該当します。

  •     企業登録証明書(ERC)上の社員/株主変更手続が完了した
  •     これと同等の法的効力を有する書類が完成した時点(企業法上の規定に基づく)

特に留意すべき点として、申告・納税期限は、譲受人による支払完了の有無に左右されず、また、譲渡代金を実際に受領した時点とも連動しません

この規定は、極めて厳格な期限遵守を要求するものであり、譲渡者が、代金を全額回収していない、あるいは未回収の段階であっても、税務義務を履行しなければならない状況を生じさせ得ます。

実務上は、キャッシュフローへの相当な影響が想定されるため、投資家および企業は、

  •     税務義務を事前に見積もること
  •     譲渡契約における支払条件を慎重に設計すること
  •     取引完了時点で必要な資金を確保しておくこと
    が不可欠となります。

 

【持分所有権移転時点で譲渡価額が確定していない場合】

一部の持分譲渡取引では、所有権移転時点において、譲渡価額が最終的に確定していないケースが存在します。例えば、

  •     価格調整メカニズムを伴う取引
  •     アーンアウト条項を含む取引
  •     対象会社の将来業績に連動する支払条件を有する取引

などがこれに該当します。このような場合について、税務当局のガイダンスでは、より柔軟な申告方法が認められています。具体的には、納税者は以下の対応を取ることが可能です。

  •     所有権移転時点における合理的な見積譲渡価額に基づき、暫定的な税務申告を行うこ
  •     譲渡価額が最終的に確定した時点で、当該所有権移転期に係る申告について、追加・修正申告を行うこ

ただし、これらの追加・修正申告は、当初の税務義務発生日を変更するものではなく、また、申告・納税期限を延長する効果もありません

したがって、実務上は、取引の構築段階から、

  •     法的書類を十分に整備すること
  •     合理的な価格見積方法を準備すること
  •     適切な申告スケジュールを設計すること
  •     必要となる資金を事前に確保しておくこと

が求められます。これにより、申告義務違反や、想定外の資金負担が生じるリスクを最小限に抑えることが可能となります。

 

【結論】

政令320/2025/NĐ-CPおよび公文書第4685に基づく一連の改正・ガイダンスは、ベトナム税務当局の管理方針が、次の方向へと一層一貫して進んでいることを示しています。

  •     第一に、持分譲渡所得に対する課税範囲を拡大・統一し、直接譲渡か間接譲渡かを問わず、ベトナムに関連する所得を包括的に課税対象とする姿勢が明確になっています。
  •     第二に、取引の分類や経済的実質の判断における法的な曖昧さや解釈上の空白を縮小し、誤った課税方式が適用されるリスクを抑制する方向性が示されています。
  •     第三に、申告・納税期限について、強制力が高く、実務上も執行可能性の高い時間軸を設定することで、税務コンプライアンスの規律を一層強化しています。

 

【投資家・企業に求められる実務対応】

このような環境のもと、特に外国投資家は、以下の点について主体的かつ事前的な対応を講じることが重要となります。

  •     クロスボーダーM&A取引や、中間法人を用いた多層的な持株構造を含む取引について、譲渡スキーム全体を包括的に見直すこと
  •     取引の経済的実質、十分に整備された法的書類、ならびに税務当局の実務運用を踏まえ、免税・除外規定が適用される可能性を慎重に評価すること
  •     持分所有権の移転時点を起点として、申告・納税スケジュールを事前に設計し、取引シナリオごとのキャッシュフローおよび財務負担をあらかじめ織り込むこと

 

【総括】

取引構築の初期段階から、弁護士および税務専門家の助言を受けることは、単に法的・税務リスクを低減するにとどまらず、投資判断の予見可能性、安定性および実行可能性を高めるうえで、極めて重要な意味を持ちます。

ベトナムにおける税制および投資関連法令は、今後も国際的な基準に近づく方向で整備・強化されていくことが見込まれます。そのような環境下においては、適切な法務・税務対応を前提とした投資戦略こそが、持続的かつ効率的な事業展開を実現する鍵となるでしょう。

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