公開 2026年06月19日  I 更新 2026年06月19日

ベトナム判例から学ぶ 会社に出資すれば社員・株主になれるのか

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナム判例から学ぶ 会社に出資すれば社員・株主になれるのか


紛争解決 公開 2026年06月19日  I 更新 2026年06月19日
目次

ベトナム判例第78/2025/ALは、会社への資金拠出が直ちに社員資格や会社所有権を発生させるわけではないことを示しました。定款資本への出資と事業協力のための出資の違いを、ベトナム会社法の観点から解説します。

01 - ベトナム判例第78/2025/AL:会社に資金を出しただけで「社員」になれるの

 

ベトナムで事業を行っていると、「会社にお金を出した」「利益配分を受けていた」「当事者間では出資割合も認められていた」という事情があるにもかかわらず、紛争になった段階で、実はその人が会社の正式な社員、すなわち出資持分を有する会社構成員として認められない、というケースがあります。

ここでいう「社員」とは、従業員という意味ではなく、有限責任会社における出資者・会社構成員を意味します。

ベトナム最高人民裁判所裁判官評議会の判例第78/2025/ALは、近時の企業法務分野において注目すべき判例の一つです。この判例は、実務上混同されやすい二つの関係、すなわち「定款資本への出資により会社の社員となる場合」と、「事業協力のために資金を拠出し利益配分を受ける場合」との境界を明確に示しています。

 

02 - 「出資したこと」が直ちに会社の所有権を意味するわけではな

 

本件は、既に設立されていた有限責任会社と、その会社に資金を拠出した個人との間で発生した紛争です。

事案の概要として、当該個人は、会社の事業拡大を目的として一定の金銭を会社に拠出しました。その後、長年にわたり、当事者間の合意に基づき利益配分を受けており、会社内部の一部資料にも、その者の拠出割合が記載されていました。一見すると、「資金を出し、利益配分を受け、会社側もその割合を認めていた」以上、会社の出資者として認められてもよいように見えます。

しかし、重要なのはそこではありませんでした。

その者の氏名は、会社の定款に社員として記載されていませんでした。また、社員名簿にも記載されておらず、企業登録機関においても、会社の社員として登録されていませんでした。それにもかかわらず、当該個人は、自らが会社に資金を拠出し、利益配分を受けており、当事者間でも出資割合が認められていたことを理由として、会社の社員としての地位を認めるよう請求しました。

第一審および控訴審は、この主張を認めました。しかし、最高人民裁判所裁判官評議会は、監督審において、これとは異なる判断を示しました。

 

03 - 判断の決め手は「お金を出したか」ではなく、「何のために出したか

   

判例第78/2025/ALの最も重要なポイントは、裁判所が単に「金銭の拠出があったかどうか」だけを見たのではなく、その拠出の法的性質、すなわち「何の目的で資金が拠出されたのか」を重視した点にあります。

最高人民裁判所裁判官評議会は、事件記録上、当事者間で確認されていたのは、資金を拠出し、利益を分配するという内容にとどまると判断しました。一方で、その資金を会社の定款資本に組み入れること、会社の定款資本を増加させること、または当該個人を会社の新たな社員として登録することについて、明確な合意を示す資料はありませんでした。さらに、会社は、ベトナム企業法に基づく定款資本の増加手続や社員変更の登録手続も行っていませんでした。

もう一つ重要な点があります。

当該個人は、会社の経営管理に参加しておらず、また、自らの拠出額の範囲で会社の債務その他の財産上の義務を負担することについても、明確な証拠がありませんでした。これらの事情を踏まえ、最高人民裁判所裁判官評議会は、本件の資金拠出は、会社の定款資本への出資ではなく、利益を得ることを目的とした事業協力的な資金拠出にすぎないと判断しました。つまり、会社にお金を入れたからといって、それだけで会社の一部を所有することにはならない、ということです。

 

04 - 定款資本への出資と事業協力のための出資は違

 

判例第78/2025/ALは、実務上非常に重要な原則を示しています。それは、会社の社員となるための定款資本への出資と、特定の事業機会を共同で利用するための事業協力的な出資とは、法的にまったく異なる関係である、という点です。

定款資本への出資の場合、出資者は、単に利益配分を受けるだけではありません。会社の重要事項について意思決定に参加する権利、会社の経営に関する一定の管理権、利益配当を受ける権利を有します。同時に、出資者は、自己の出資額の範囲で会社の債務その他の財産上の義務について責任を負います。これは、会社の社員としての地位に伴う重要な要素です。

これに対し、事業協力のための出資では、当事者の関心は、特定の事業活動や投資案件から生じる利益の分配にあることが多いです。この場合、資金を拠出したからといって、当然に会社の所有者になるわけではありません。また、会社の社員または株主としての地位が自動的に発生するわけでもありません。言い換えれば、会社の事業から利益配分を受けていることと、その会社の一部を所有していることは、同じではありません。

この違いは、実務上、非常に重要です。

 

05 - 投資家と企業にとっての実務上の教

 

この判例は、信頼関係に基づいて投資を行う場合や、口頭の合意だけで資金を拠出する場合に対する、強い警鐘といえます。実務では、友人、親族、長年の取引先、または既存のビジネスパートナーとの間で、「とりあえず資金を出してもらう」「利益は後で分ける」「出資割合は当事者間で分かっている」という形で事業が始まることがあります。

その時点では、当事者間の信頼関係があり、大きな問題にならないかもしれません。しかし、事業がうまくいかなくなった場合、利益配分が止まった場合、経営権をめぐる対立が生じた場合、または会社の価値が上がった場合には、「その資金は会社の出資だったのか、それとも事業協力のための資金だったのか」が重大な争点になります。

多くの投資家は、会社に送金したこと、利益配分を受けていたこと、内部資料に自分の割合が記載されていたことをもって、自分の権利は守られていると考えがちです。

しかし、裁判所は、それだけでは判断しません。裁判所は、資金拠出の目的、当事者の合意内容、会社定款への記載、社員名簿または株主名簿への登録、企業登録機関への変更登録、経営参加の有無、会社債務に対する責任の有無など、取引全体の法的性質を総合的に判断します。したがって、投資家の真の目的が、会社の社員または株主となることであるならば、その意思は明確な書面で確認されなければなりません。

具体的には、出資契約、持分譲渡契約、増資に関する合意書、会社定款、社員名簿または株主名簿、企業登録内容において、投資家の地位が明確に反映される必要があります。さらに、ベトナム企業法に基づく変更登録手続も適切に完了しなければなりません。これに対し、当事者が単に特定の事業機会を共同で利用し、利益を分配することを目的としているのであれば、その関係は、会社の所有権取得ではなく、事業協力関係として明確に整理すべきです。この整理を曖昧にしたまま資金を動かすことが、後日の紛争の出発点になります。

 

著者の視

 

判例第78/2025/ALが示しているのは、ベトナムの裁判所が、形式的に「お金が会社に入ったか」だけを見るのではなく、その取引の実質を重視する方向にあるということです。

この判例のメッセージは明確です。

会社の所有権は、単に資金を拠出しただけで発生するものではありません。会社の社員または株主としての地位を取得するためには、その意思と法的効果が、企業法に適合した手続および資料によって明確に示されていなければなりません。特に、親族、友人、長年の取引先、現地パートナーとの間で行われる投資では、「信頼しているから大丈夫」と考え、契約書や登録手続を後回しにしてしまうことがあります。しかし、紛争が発生したときに問題となるのは、「当事者がどれだけ信頼していたか」ではなく、「法的にどのような関係が成立していたか」です。

この判例は、ベトナムで会社に資金を拠出する投資家に対し、非常に現実的な教訓を与えています。それは、「お金を出したこと」と「会社の権利を持つこと」は、決して同じではないということです。ベトナムで会社への出資、持分取得、共同事業、利益分配型の投資を行う場合には、資金を送金する前に、まずその資金の法的性質を明確にする必要があります。その一手間を省いた結果、「お金は出したが、会社に対する権利はない」という結論に至るリスクがあることを、本判例は改めて示しているといえます。

 

まと

ベトナム判例第78/2025/ALは、会社に対する資金拠出の法的性質を判断するうえで、非常に重要な基準を示した判例です。会社に資金を拠出し、利益配分を受けていたとしても、それだけで会社の社員または株主として認められるわけではありません。会社の所有権を取得するためには、定款資本への出資または持分・株式の取得として明確に位置づけられ、会社内部書類および企業登録手続において適切に反映される必要があります。ベトナムで投資を行う際には、「出資」という言葉だけに頼るのではなく、その出資が何を目的とするものなのか、会社の所有権を取得するものなのか、それとも単なる事業協力なのかを、最初の段階で明確にしておくことが不可欠です。

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。

Duongbui@betoho.vn 0967 246 668