売上も販売活動もなく、長年にわたりBig Four系の会計事務所を利用してきた駐在員事務所であっても、多額の税務リスクが生じることはあるのでしょうか。
答えは「あります」。リスクは必ずしも給与台帳だけにあるのではありません。本社からベトナムへ送金された資金全体と、駐在員事務所が各支出をどのように使用し、説明し、証憑を保管してきたかに潜んでいる場合があります。
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重要ポイント |
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01 - なぜ駐在員事務所は「管理が簡単」と考えられやすいのでしょうか |
外国商人は通常、市場調査、販売促進、顧客との関係構築、将来の事業展開に向けた準備などを目的として、ベトナムに駐在員事務所を設立します。現地法人の設立と比べ、次のような理由から選ばれることが多い形態です。
- 設立手続と管理体制が比較的簡素であると考えられていること
- ベトナムにおける外国商人の拠点を設けられること
- 通常の駐在員事務所の機能上、ベトナムで直接収益を上げる活動を行わないこと
- 事業活動を行う企業のように多くの税目が発生しないこと
- 会計・税務業務が比較的単純であると考えられていること
また設立された駐在員事務所はスタッフの給与・報酬に係る個人所得税の申告だけを中心に管理します。しかし、そこで重要なリスクを見落とす可能性があります。それは、すべての支出について、その目的を立証する資料が整っているかという問題です。
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02 - 実例:17年間の活動後に判明した想定外の追徴課税 |
当事務所は、海外大手企業の駐在員事務所について、活動終了手続を支援したことがあります。当該事務所はベトナムで17年間活動し、17名のスタッフを雇用する比較的大規模な拠点でした。
活動期間中には、駐在員事務所の通常の範囲を超え、事業活動との関連が疑われる業務も一部見受けられました。ただし、本稿では活動範囲の問題には踏み込まず、税務登録番号の閉鎖前に行われた税務調査に焦点を当てます。
当該駐在員事務所は、活動期間を通じて大手な会計士事務所の会計サービスを利用していました。そのため、税務書類は適切に処理されており、閉鎖時の調査でも大きな問題は生じないと自身がありました。
ところが、実際の結果は異なりました。次の項目について、相当額の負担が発生しました。
- 個人所得税の追徴税額
- 税金の延滞利息
- 税務義務違反に対する行政罰金
さらに、この金額は、税務当局が抽出して調査した一部データに基づくものでした。17年間の全取引が精査されれば、リスク額がさらに大きくなる可能性もありました。
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03 - 税務当局が確認するのは給与台帳だけではありません |
駐在員事務所に対する税務調査は、個人所得税申告書や給与台帳の確認だけにとどまらない場合があります。税務当局は、次の資料から入出金と説明資料を照合することができます。
- 駐在員事務所名義の銀行口座明細
- 現金の入出金証憑、仮払金・精算書類
- 本社からベトナムへ送金された資金
- 駐在員事務所のVisaカードその他決済カードによる取引
- 契約書、インボイス、支払証憑および受益者一覧
- 給与、福利厚生、出張旅費および社内承認手続に関する規程
したがって、各支出について、①何のための支出か、②駐在員事務所に認められた合法的な活動範囲に合致するか、③受益者と支出の性質をどの資料で立証できるか、という3点に回答できる状態が必要です。
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04 - 個人所得税リスクが生じやすい支出 |
駐在員事務所には売上がなく、仕入付加価値税の控除を重視しないことが多いため、インボイスや支出証憑の重要性は低いと誤解される場合があります。その結果、従業員への仮払金が未精算のままになったり、カード取引の証憑が欠けたり、団体支出に関する規程や参加者一覧が整備されなかったりします。
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支出の種類 |
よくあるリスク |
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従業員向け福利厚生 |
規程、支給条件、または事務所全体の共通支出であることを示す資料がない。 |
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会食、社内行事、社員旅行 |
企画書、承認、参加者一覧、インボイスまたは支払証憑がない。 |
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仮払金・現金支出 |
精算が未了で、インボイスがなく、目的または最終受領者が明確でない。 |
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事務所名義カードによる支払 |
銀行明細はあるが、インボイス、契約書または取引説明資料がない。 |
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外部の個人に対する支払 |
サービスの実態、受領者の資料および源泉徴収義務が明確でない。 |
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活動範囲外の支出 |
駐在員事務所の適法な機能との関連を立証できない。 |
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05 - 証憑のない支出が課税所得と判断される可能性 |
- 個人所得税の原則上、給与・報酬には固定給だけでなく、個人が受ける金銭または現物による利益も含まれる場合があります。ただし、法令上、非課税または免税となるものは除かれます。したがって、会計上「事務所経費」として処理されているだけでは、個人所得税リスクを排除できません。
- 従業員に関連する支出について、それが駐在員事務所の適法な活動に共通して必要な費用であることを立証できなければ、税務当局は個人が享受した利益に該当するかを検討する可能性があります。その場合、当該金額が課税所得に加算され、追徴課税が生じることがあります。
- 外部の個人に対する支払については、所得の性質、居住者区分、契約、業務完了書類、および支払時に適用される源泉徴収方法を正しく判断する必要があります。すべての支払に一律の源泉徴収率が適用されるわけではありませんが、資料が不足している場合や、必要な源泉徴収を行っていない場合には、追徴税額、延滞利息および罰金が発生する可能性があります。
- 実際の税務調査では、直接の受領者、仮払金の名義人、または受益者と認定された者の情報を手掛かりとして、支出の実態が検証されることがあります。駐在員事務所が所得の支払者であるにもかかわらず、適切な源泉徴収・申告を行っていない場合、通常、その金銭的義務は駐在員事務所に対して処理を求められます。
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過度に一般化すべきでない点 |
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06 - 駐在員事務所の財務管理における盲点 |
駐在員事務所の所長は、すべての支出を本社に報告し、承認も得ているため、ベトナムの税務当局から詳しく確認されることはないと考える場合があります。しかし、本社の承認は、ベトナムにおける法令遵守、税務申告および証憑保管の義務に代わるものではありません。
経験や便宜を優先して支出を決定し、規程、上限額、承認権限および精算手続が明確でなければ、数年後の税務調査で説明することが困難になります。特に、不透明な支出、駐在員事務所の活動に必要でない支出、または許可された活動範囲に適合しない支出は、リスクが高くなります。
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07 - 税務調査を受ける前に駐在員事務所が行うべきこと |
- 本社からベトナムへ送金された全資金を確認し、実際の使用目的と照合する
- 銀行明細、現金出納帳、カード取引、仮払金・精算書類を照合する
- 給与、賞与、福利厚生、出張旅費および社内支出に関する規程を整備・更新する
- 従業員向け支出、団体支出、外部の個人に対する支払を分類する
- 契約書、インボイス、検収書、承認書類、参加者一覧および支払証憑を確認する
- 発生時点の法令に基づき、個人所得税の源泉徴収、申告および確定申告義務を確認する
- 各活動・支出が、許可証に記載された駐在員事務所の機能に適合するかを確認する
- 税務登録番号の閉鎖時まで待たず、許可証の更新、所長の変更または活動終了の前に税務レビューを行う
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08 - まとめ:リスクは給与だけでなく、資金の流れ全体にあります |
売上のない駐在員事務所でも、相当な個人所得税リスクが生じる可能性があります。リスクは給与・報酬の申告漏れだけでなく、本社からベトナムへ送金された資金をどのように受け入れ、管理し、使用したかという一連の過程からも発生します。
ある支出が本社の承認を受け、会計処理され、銀行明細にも記録されていたとしても、その性質、目的および受益者を裏付ける資料がなければ、税務調査上の問題となる可能性があります。
したがって、活動終了時になってから証憑を集めるのではなく、資金管理、源泉徴収、支出承認および証憑保管について、いつでも説明できる仕組みを当初から構築することが重要です。定期的なレビューにより、誤りを早期に発見して是正し、追徴税額、延滞利息および行政罰金のリスクを抑えることができます。
注記:本稿は、個人・企業を特定できないよう匿名化した実例をもとに作成した一般的な参考情報です。具体的な税務義務は、各案件の資料、発生時点、支出の実態および当該時点で有効な法令に基づいて判断する必要があります。