ここ数十年でベトナム市場には欧米やアジアの有名ブランドが数多く進出し、都市部の日常風景に溶け込んでいます。外食チェーンからコンビニエンスストアまで、フランチャイズ(nhượng quyền thương mại)モデルによる事業展開が盛んに行われており、外国投資家(特に日本を含むアジア諸国の投資家)にとってベトナムは極めて有望なフランチャイズ市場となっています。しかし、その魅力と並んで法制度上・実務上の課題も存在します。本稿では、ベトナムにおけるフランチャイズビジネスの現状、フランチャイズモデルの利点と欠点、外国投資家にとっての具体的な機会と課題、そして外国投資家向けの法的留意点と推奨事項について、最新の情報に基づき解説します。
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01 - ベトナムにおけるフランチャイズ市場の現状 |
ベトナムにフランチャイズビジネスの波が訪れたのは1990年代後半で、フィリピン発のジョリビー(1996年)、韓国発のロッテリア(1997年)、米国発のKFC(1997年)といった著名チェーンが先駆けでした。以降、市場は急速に拡大し、特に近年は外資系ブランドの進出が著しいです。2023年9月現在では業種全体で310以上の海外ブランドがフランチャイズ展開を登録していると報告されています。これらのうち半数超はファストフード、ベーカリー、カフェ、飲料、レストランなどの飲食業が占めており、フランチャイズ契約件数全体の50%以上を構成しています。フランチャイズ展開元(フランチャイザー)の出身国を見ると、米国、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイといった国々が上位を占め、日本からのブランドもその中に含まれています。
現在、外資系フランチャイズ店舗は主にハノイやホーチミン市など大都市に集中していますが、その勢いは地方都市にも波及しつつあります。実際、マクドナルド、スターバックス、バーガーキング、KFCなど「ビッグネーム」は主要都市で店舗網を拡大し、続いてダナンやハイフォンといった新興都市にも進出を図っています。飲食分野では西洋だけでなく韓国やタイ、日本などアジア系のチェーンも人気で、焼肉、ラーメン、寿司、カフェなど多彩な業態が見られます。例えば、日本資本のコンビニエンスストアであるFamilyMart(ファミリーマート)やMiniStop、また米国発祥・日本経営の7-Eleven(セブンイレブン)などもベトナムに参入し、都市部で店舗数を伸ばしています。コンビニ大手のCircle K(米国)は2008年にベトナム1号店を開店後、現在までに400店以上を展開するなど急成長を遂げました。
さらに近年は小売(コンビニ・雑貨)、教育(語学スクール等)、エンターテイメント、ヘルスケア、美容サービス、子供向けサービス、ライフスタイル関連ビジネスなど、飲食以外のセクターでもフランチャイズ展開が広がりつつあります。例えば、台湾発祥のドリンクスタンド(レモンティーやタピオカミルクティーなど)のブームは著しく、ベトナムは東南アジア第3位の規模のタピオカティー市場となり、2021年時点で市場規模3億6200万米ドルに達しています。DingTea、TocoToco、Tiger Sugar、The Alley、Phuc Long、Gong Chaといった各国のティーブランドがフランチャイズ展開によっていち早く市場を開拓し、大きなシェアを獲得しました。このように現在のベトナムは、外資系ブランドにとって「有望なフランチャイズ市場」として国際的にも認識されており、ベトナム国内の企業家もフランチャイズモデルによる事業機会を積極的に模索しています。
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02 - フランチャイズ展開の機会と魅力 |
ベトナム市場におけるフランチャイズ展開には、以下のような具体的なメリットがあります。

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03 - フランチャイズ展開に伴うリスクと課題 |
一方で、ベトナムでのフランチャイズ展開には以下のようなリスクと実務上の課題が存在します。

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04 - 外国投資家が留意すべき法的手続と規制 |
ベトナムでフランチャイズ展開を行う外国企業にとって、以下の法的要件・規制は特に重要です。
- 事業実績要件
外国のフランチャイザーは、ベトナムで展開する商品・サービスについて、母国または他国で1年以上の実績があることが求められます。
- フランチャイズ登録の義務
外国フランチャイザーがベトナムでフランチャイズを行う場合、商工省(MOIT)への事前登録が必要です(国内企業間の場合は不要)。
- 登録申請に必要な主な書類
- 登録申請書
- フランチャイズ事業概要書(Franchise Disclosure Document(「FDD」))
- 全部事項証明書(母国の企業登録証明書)
- 直近の監査済財務諸表
- 商標登録証等の知的財産権証明
※ 外国語書類はすべてベトナム語翻訳・公証が必要。
- 情報開示義務
フランチャイザーはフランチャイジーに対して、フランチャイズ契約締結前の15営業日前までに、FDDと契約書草案(ベトナム語)を提供する必要があります。(両方より別の合意がある場合を除く)
- 契約書の要件
契約書は必ずベトナム語で作成する必要があります(実務上は英語との二言語併記が一般的)。主要条項には、契約期間、ロイヤリティ、知的財産の使用条件、競業避止義務、紛争解決方法などを明記することが推奨されます。
- 知的財産の保護
商標やロゴは、ベトナムでの事前登録が不可欠です。模倣防止、フランチャイジーによる不正使用対策のためにも、登録とライセンス契約の整備を行ってください。
当事者間の合意により、フランチャイズ契約に知的財産権の所有権移転を伴うこともでき、または、知的財産権の使用権のみを許諾する形でも実施可能です。これらの内容は、契約書において明確に規定されるべきです。
- 税務・送金関連
ロイヤリティ送金には源泉税が課されますので、契約書に送金条件や為替建てを明確にしておくことが望ましいです。
※ いくつかの実務上の障壁と対策
法制度のクリアだけでなく、実際の展開段階ではいくつかの実務上の障壁にも備える必要があります。主なポイントは次のとおりです。
- 行政手続:商工省への登録や各種営業許可の取得には煩雑な書類準備と当局対応が伴います。専門家のサポートの下、早期に着手して不備なく申請を進めることが重要です。
- 言語・文化の壁:公用語であるベトナム語での契約や交渉が不可避であり、ビジネス慣習の違いも踏まえた対応が求められます。正確な翻訳と丁寧なコミュニケーションにより、誤解や摩擦を未然に防ぐ努力が必要です。
- パートナー関係とブランド統制:現地フランチャイジーの選定は慎重に行い、契約後も良好な協力関係を築くことが成功の鍵です。また、加盟店がブランド規範を遵守するよう定期的に監督・支援し、問題発生時には速やかに是正措置を講じる体制を整えます。
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外国投資家への推奨とコメント ベトナムのフランチャイズ市場は大きな潜在力を有しますが、その成功には周到な準備と慎重な対応が欠かせません。法令遵守とリスク管理の徹底は言うまでもなく、進出前から現地法規の調査と必要手続の完了、商標登録など知的財産の保護策を講じておくことが基本です。また、現地ニーズに即した商品・サービスの提供や信頼できるパートナー選定にも十分な注意を払うべきです。 |