ベトナムにおいて、祝祭日や旧正月(テト)、記念日などの機会に、お世話になった人へ贈り物をしたり、感謝の気持ちを伝えたりすることは、比較的よく見られる行為です。多くの場合、これは文化的・社交的な慣習として受け止められており、必ずしも不正を意図したものではありません。しかし、現行法の観点から見ると、行政機関の職員や公務員に対する贈答行為は、常に法的リスクを内包しており、一定の状況では刑事責任が問われる可能性もあります。
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01 - 問題は「贈り物」ではなく「目的」 |
ベトナム刑法では、贈賄罪や収賄罪は、一定の要件がそろった場合に成立します。
- 受領者が職務上の権限を持つ者であること。
- 金銭や財産、その他の利益を受け取る、または受け取ろうとすること。
- その目的が、贈与者の利益のために何らかの行為をする、またはしないことにあること。
- そして、その違法性を双方が認識していること。
これらの構成要件が満たされる場合、それが「テトの贈り物」「お礼の品」「社交的な贈答」であっても、刑事責任が問われる可能性があります。
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02 - 現行のベトナム反腐敗法における贈答品管理および利益相反の規制 |
ベトナムにおける反腐敗に関する法制度は近年大きく強化されており、特に公務員や権限を有する者に対する贈答品の管理については、利益相反のリスクを排除するために厳格な規制が導入されています。
a. 現行の法的枠組み
2019年8月15日以降、贈答品の管理および利益相反の規制は、主として以下の法令に基づいて運用されています。
- 2018年反腐敗防止法、並びに2025年12月10日付法律第132/2025/QH15号「2018年反腐敗防止法の一部条項を改正・補足する法律」(2026年7月1日施行)
- 政令第59/2019/NĐ-CP号、並びに2021年12月30日付政令第134/2021/NĐ-CP号「2019年7月1日付政令第59/2019/NĐ-CP号の一部条項を改正・補足する政令」
これらの法令の施行に伴い、従来適用されていた首相決定64/2007/QĐ-TTgは全面的に廃止されました。この改正は、贈答品管理の考え方において重要な転換を示しています。すなわち、従来のような「一定額までは受領可能」といった基準は廃止され、贈答品に関する規制はより厳格なものとなりました。
b. 収賄行為の禁止原則
現行法では、職務上の権限を有する者が、自己の職務に関連する個人または組織から贈答品を受け取る行為を、直接的であるか間接的であるかを問わず、原則として禁止しています。
c. 利益相反の管理および実施措置
政令第59/2019/NĐ-CP号では、贈答品の受領に関するリスクを管理するため、国家機関および公的組織に適用される制度が、以下のとおり具体的に規定されています。
- 行動規範
職務権限を有する者に対し、倫理および専門性に関する行動基準を明確に定めています。
- 利益相反の管理制度
個人的利益が職務の公正な遂行に影響を与える可能性がある状況を特定し、その管理方法を規定しています。
- 贈答品の報告および処理制度
贈答品を受領した場合の報告義務や処理手続が定められており、不適切な贈答品は返還、処分、または国家予算への納付などの措置が取られます。
d. 旧制度との主な相違点
最も重要な変更点は、贈答品の価値に関する基準が廃止されたことです。
旧制度(決定64/2007/QĐ-TTg)では、冠婚葬祭や祝祭日などの特定の場面において、50万ベトナムドン以下の贈答品は許容される場合がありました。しかし、現行制度では、このような金額基準は存在しません。
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03 - 法と人情のあいだ |
ある日本企業の事例があります。すべての会社設立手続が完了した後、社長が当局担当職員への小さな贈り物を私たちに託しました。それは高価なものではありませんでした。地元の菓子と、お守り。そして、90歳を超える母親が手刺繍した小さな布袋でした。職員はその布袋を見て、「祖母も刺繍が上手だった」と話してくれました。そこには見返りの期待も、何かの要請もありませんでした。このような場面を見ると、法の背後にも人と人との関係があることを感じます。すべてを機械的に排除すべきだとは、私は思いません。
重要なポイントは、「贈り物それ自体が違法なのではなく、利益、期待と結びついた贈り物がリスクとなる」という点です。
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04 - テトの贈答が負担になるとき |
毎年テトが近づくと、多くの企業が悩みます。「何か贈るべきか」「関係を維持するために必要ではないか」と。しかし近年、この慣習は少しずつ変わりつつあります。贈る側にとっても、受け取る側にとっても、負担になることが増えています。企業側では、費用処理や税務上の問題も発生します。行政機関側でも、多くの企業から同じような品が届き、扱いに困ることがあります。断れば気を遣わせる。受け取っても気が重い。そのような声も聞きます。「他社もしているから」という理由だけで続く贈答は、本来の意味を失いやすいものです。
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05 - 企業贈答品に関する会計処理におけるリスク管理とコンプライアンス上の課題 |
企業による贈答品の取り扱いおよびそれに関連する会計処理の問題は、直近の税務決算期および旧正月(テト)前後の時期において、多くの企業の関心を集めるテーマとなりました。その背景には、電子インボイス制度の厳格化や、税務当局による費用計上の合理性(入力費用・出力費用)の審査が強化されていることがあります。
a. インボイス管理強化による規制圧力
現在の税務環境においては、贈答品に関連するすべての費用が税務当局の厳格な管理対象となっています。企業は単に費用の正当性を説明するだけでなく、次のような複雑な証憑管理体制を整備する必要があります。
- 仕入インボイスの管理
贈答品の購入に関するインボイスは、企業の情報が正確であり、実際の購入取引と一致している必要があります。
- 在庫および物流の管理
贈答品の入庫・出庫の記録を明確に管理しなければならず、在庫管理の不備は商品流通の不正を疑われる要因となる可能性があります。
- 売上インボイスの発行
現行規定では、顧客への贈答品であっても売上インボイスを発行し、付加価値税(VAT)の申告および課税売上の計上(または対応する費用処理)を行う必要があります。
b. 企業運営への影響
このような規制強化により、多くの企業は新しい会計・税務要件への適応に苦慮しています。特に、次のような課題が指摘されています。
- コンプライアンスコストの増加
企業は、報告業務、データ照合、税務申告などの対応のために、追加的な人的・財務的リソースを投入する必要があります。
- 事務的な手続きの負担増大
贈答品の提供に際しては、社内申請、顧客リストの承認、個別インボイスの発行など、多くの手続きを踏む必要があります。
- 顧客情報管理に関するリスク
売上インボイスを発行するためには、贈答品の受取人に関する識別情報を収集する必要があります。しかし、顧客側の個人情報保護の問題や、情報提供への協力が得られない場合もあります。
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実務家からのメッセージ |
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企業が自問すべきことは、いくつかあります。
これらすべてに対して明確に「いいえ」と言えるのであれば、精神的な価値を中心として行われるものであれば、それは人と人との関係を大切にする行為と言えるでしょう。法は、私利私欲を防ぐために境界線を引いています。人間関係そのものを否定するためではありません。その境界線を正しく理解し、尊重することこそが、ベトナムで持続的に事業を行うための重要な姿勢です。 |
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