前回の記事では、2026年3月1日から施行されるベトナム投資法2025における注目すべき改正点として、外国投資家が投資登録証明書(IRC:Investment Registration Certificate)の取得に先立ち、企業登録証明書(ERC:Enterprise Registration Certificate)を取得し、ベトナムにおいて経済組織を設立することが可能となる点について解説しました。
ただし、この場合であっても、外国投資家はERCの取得手続を行う段階で、ベトナム法上要求される外国投資家に対する市場アクセス条件を満たす必要があります。したがって、単にIRC取得前に会社設立が可能になるというだけでなく、会社設立段階において、投資分野、出資比率、事業内容、外国投資家に適用される制限の有無などを事前に確認することが重要となります。
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01 - 新制度におけるIRC取得の期限 |
新制度では、ERCを先に取得し、その後にIRCを取得することが認められることにより、従来の投資手続の流れは一部逆転することになります。この変更により、市場参入までの期間を短縮し、投資家が事業活動の準備をより主体的に進めることができるなど、一定のメリットが期待されます。もっとも、これは完全に自由な制度ではありません。2026年3月31日から施行される政令96/2026/ND-CPによれば、投資家は、プロジェクトを適法に実施するため、ERCの発行日から12か月以内にIRCの取得手続を完了しなければなりません。
では、ERCの発行日から12か月が経過しても、投資家がIRCを取得できなかった場合には、どのように取り扱われるのでしょうか。
現時点では、法令上、この場合の処理メカニズムについて明確な規定は設けられていません。言い換えれば、投資プロジェクトが承認されなかった場合に、すでに発行されたERCをどのように取り扱うのかについて、現行法上は明確にされていません。
具体的には、企業が事業活動を終了し、解散し、または登録内容の変更・組織再編等の手続を行う必要があるのか、また、投資家がすでに法人を設立したものの、その後IRC取得手続を完了できなかった場合に、どのような経過措置が適用されるのかについても、現時点では明らかではありません。
これは、注意すべき法的空白であると考えられます。なぜなら、「ERC先行・IRC後続」の制度に基づいて企業を設立する主な目的は、あくまでも当該企業が対応する投資プロジェクトを実施し、その名義主体となることにあるからです。IRCが取得できない場合、その企業の適法性や、その後の事業活動の方向性が不明確となる可能性があります。
したがって、新制度は、手続面および市場参入までの時間という観点から大きな利便性をもたらす一方で、投資家としては、投資プロジェクトが承認されない場合、IRC取得手続が長期化する場合、拒否される場合、または法定期限内に完了できない場合に発生し得る法的リスクを慎重に検討する必要があります。
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02 - 提出書類に関する規定間の不整合 |
上記の問題に加え、この制度は実務上一定の柔軟性をもたらす一方で、提出書類の構成に関しても大きな問題が生じています。その主な原因は、関連する法令間で規定が十分に整合していない点にあります。
具体的には、2020年企業法によれば、外国投資家が設立する企業については、企業登録申請書類の中にIRCを含める必要があります。これに対し、2025年投資法では、IRCを取得していない段階でも企業を設立することが認められています。
このような規定の不一致により、制度適用の初期段階において、次のような実務上の困難が生じています。
- 企業登録機関が、申請書類の受理および処理において対応に迷うこと。
- 企業側も、どの方針に従って申請書類を準備すべきか明確に判断できないこと。
実際にも、ERCを先に取得する制度に基づいて申請書類を提出したにもかかわらず、提出書類にIRCが含まれていないことを理由として、受付機関から修正・補足を求められた事例があります。
このことは、制度上の規定がすでに設けられているとしても、その実施については、実務上の統一が図られるまでなお一定の時間を要することを示しています。
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03 - 国家機関による問題解消のためのガイダンス |
上記2で述べた不都合を解消するため、2026年4月29日、財務省は、外国投資家による経済組織の設立登記に関する公文書5427/BTC-DNTNを発行しました。この文書の注目すべき点は、新制度を適用する場合の企業登録申請書類について、IRCの提出を要求しないことを明確にした点にあります。
この規定により、投資家は「ERC先行・IRC後続」の制度に基づいて申請書類を準備する際、より安心して手続を進めることができるようになります。また、次の点にも寄与すると考えられます。
- 各法令間における解釈および適用方法の統一
- 企業にとって、より明確な法的根拠の形成
- 新制度の実務上の早期実施の促進
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04 - 新制度の実務上の適用状況 |
現時点の実務においては、すでに一部の事業者がERCの先行取得を進めています。弊所のコンサルティング実務においても、一部の外国投資家がこの新制度を適用していることを確認しています。特に、次の分野での適用が見られます。
- サービス業
- 商業
これらの投資家の主な目的は、次の点にあります。
- ベトナムにおいて早期に法的プレゼンスを確保すること
- 人材およびオフィスの準備を進めること
- IRCが発行された後、速やかにプロジェクトを実施できる状態を整えること
もっとも、この傾向は、現時点ではまだ広く普及しているとはいえません。多くの投資家は、依然として従来の方法、すなわちIRCを先に取得する方法を選択しています。その理由としては、主に次の点が挙げられます。
- 12か月以内にIRCを取得できないリスクへの懸念
- IRCを取得するまでの間、企業活動が制限されること
- 地域によって適用方法に差異があること
- 実施スピードよりも法的安定性を優先する傾向があること
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05 - 重要な留意点 |
新制度の適用を選択する場合、投資家は、ERCが先に発行されたとしても、それは直ちに投資プロジェクトの実施が認められることを意味するものではない点に特に留意する必要があります。すべての投資活動は、企業がIRCを取得した後に初めて適法なものとされます。また、この制度における重要な点として、外国投資家に対する市場アクセス条件に関する規定があります。原則として、ERCの取得申請時点においても、投資家はこれらの条件を満たしている必要があります。
もっとも、企業設立登記の段階では、企業登録機関は実質的な審査を行うのではなく、主として登録申請書類における投資家の誓約内容に基づいて判断することになります(公文書5427/BTC-DNTN第3項)。
言い換えれば、これは「先に誓約し、後で審査する」仕組みであり、十分かつ実質的な評価は、投資家が次の段階でIRCの取得手続を行う際に実施されることになります。そのため、投資家が実際には市場アクセス条件を満たしていない場合、そのリスクは当初の段階では直ちに顕在化せず、後の段階、すなわちIRCの取得手続を行う時点で発生することになります。さらに、実務上の観点から見ると、この新制度については、外国投資家による定款資本の払込期限に関しても、重要な問題が生じ得ると考えられます。
具体的には、通達06/2019/TT-NHNNおよび実務上、企業はIRCを取得した後でなければ、直接投資資本口座(DICA)を開設することができません。また、外国投資企業において、外国からベトナムへの定款資本の払込みは、原則として、外国為替管理規制に基づきDICAを通じて行わなければなりません。
一方で、2020年企業法は、社員または株主に対し、ERCの発行日から90日以内に出資を完了することを求めています。問題となるのは、新制度の下では、投資家はERCの発行日から最長12か月以内にIRCの取得手続を行うことが認められている一方で、定款資本を全額払い込む義務は、企業設立日から90日以内に発生するという点です。このため、企業には企業法上の出資義務がすでに発生しているにもかかわらず、IRCをまだ取得していないため、実務上は外国投資家からの出資金を受け入れるためのDICAを開設できないという状況が生じ得ます。
したがって、投資家が上記90日以内にIRCの取得手続を完了できない場合、企業は定款資本の払込み遅延の状態に陥り、現行規定に基づく行政処分のリスクに直面する可能性があります。
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06 - 提言 |
弊所の見解では、この新制度は、すべての場合に共通して適用できる一般的な解決策ではなく、むしろ個別の状況に応じて慎重に検討し、適切に利用すべき選択肢であると考えられます。
適用を検討すべき場合としては、次のようなケースが考えられます。
- プロジェクトの内容がある程度明確であり、IRCが発行される可能性が高い場合
- 投資家が事業活動の準備のため、早期に法的プレゼンスを確保する必要がある場合
- 12か月以内にIRCを取得するための明確な計画がある場合
一方で、次のような場合には、適用を慎重に考えるべきです。
- プロジェクトに不確定な要素が多い場合
- 投資予定分野の条件が複雑である場合
- 管轄当局の承認に大きく依存する場合
IRCの取得前に企業設立を認めることは、ベトナム投資法における注目すべき前進であり、改革および国際統合に向けた努力を明確に示すものです。しかし、これはあくまでも条件付きの開放的な制度であり、すべての場合に簡単に適用できるものではありません。
そのため、投資家は、この制度に慎重に向き合い、明確な方向性を持ち、このモデルの法的限界を正しく理解する必要があります。これにより、実施過程で発生し得るリスクを抑えることができます。実施に先立ち、法務コンサルティング機関の意見を参照することは、選択する方針が実施時点において適切かつ効果的なものとなるよう確保するために必要であると考えられます。