実務の現場から、いかにもベトナムらしいエピソードを一つ共有したいと思います。それは、行政手続で起きる問題の多くが「法律」そのものではなく、「システムの運用」に原因があるという点です。特にベトナム全土でオンライン化が急速に進む中で、この「ベトナムならでは」の課題が浮き彫りになっています。
それを象徴する、ある外国人医師の免許(業務許可)取得に関する実例をご紹介します。
|
|
01 - 「法律上はOK、でも申請ができない」という矛盾 |
私たちのクライアントである医療機関が、外国人医師の免許を申請しようとしていました。当初、別のコンサルティング会社に依頼していましたが、そこからは次のような理由で断られてしまったそうです。 「手続きはすべてオンライン化されましたが、システムが外国人向けに作られていないため、申請そのものが不可能です」
私たちは改めて法律を確認しました。
- ベトナムの法律では、外国人医師の免許取得は明確に認められている。
- ルール上、申請はオンラインで行わなければならない。
つまり、「法律上の障害はどこにもない」のです。
|
|
02 - 問題の正体は「ベトナム人専用」のシステム設計 |
実際に行政のオンラインポータルを操作して、原因が分かりました。
- 申請フォームはあるが、パスポート番号や海外の住所を入力しようとするとエラーが出る。
- システムが「ベトナム人の情報」しか受け付けない設計になっていたのです。
オンラインがダメならと紙の書類を窓口に持っていきましたが、担当官はこう言います。「オンラインで受付番号が発行されない限り、審査は開始できません」
一方で、システムの技術部門に問い合わせても、「入力項目は保健省が決めたことなので、こちらでは修正できません」という答え。 法律は認めているのに、入り口(システム)が閉ざされている。まさに「迷宮」に入り込んだ状態でした。
|
|
03 - 実務的な解決策:システムの「外」で対話する |
このままでは、いつまでも手続きは進みません。そこで私たちは、法の趣旨に反しない範囲で、次のような「柔軟な対応」を取りました。
a. システムを通過させるための仮入力:
まず、オンラインポータルには当社のベトナム人社員の情報を「仮」で入力し、無理やり受付番号を取得しました。
b. 正式な書類での説明:
番号を取得した後、すぐに窓口へ行き、正式な紙の書類一式を提出しました。
c. 率直な状況説明:
システム上の制約で仮の情報を入れたが、こちらが真実の情報である」という説明書を添え、担当官と直接対話を重ねました。
この結果、当局は私たちの対応を「合理的である」と認め、手続きは無事に、そして迅速に完了しました。
|
|
04 - 事例から学べる教訓:柔軟性 = 違法ではない |
この事例から得られる重要な教訓は次のとおりです。ベトナムの行政実務においては、すべての技術的な不整合が直ちに法令違反となるわけではありません。また、すべての形式的な手続きが、法の本来の趣旨を正確に反映しているとも限りません。
重要なのは、以下の通りとなります。
- 手続きの法的本質を正確に理解すること
- 何が法令上の要件で、何がシステム上の制約なのかを見極めること
- 必要に応じて、合理的かつ誠実に説明・修正を行うこと
柔軟な対応がなければ、法的に問題のない事情であっても、実務上は「永久に止まったまま」のような状態に陥る可能性があります。
|
|
実務家からのメッセージ |
|
ベトナムの行政手続をスムーズに進めるためには、「法令遵守」はもちろん、「現場の運用ロジック」を理解することが欠かせません。 「システム上できない」と言われても、そこで立ち止まらないでください。行政機関の担当者と対話し、どうすれば法律の趣旨に沿った形で手続きを完結できるか、解決策を共に探る姿勢が重要です。 時に「柔軟な対応」を取ることは、決してルールを破ることではありません。むしろ、法律を本来の姿で実現するための、最も誠実な方法でもあるのです。 |
|
