2025年は、ベトナムにおけるM&A(合併・買収)市場にとって、大きな変動とともに新たな機会が広がる一年となりました。一時的な減速期を経て、M&A取引は、政策調整・法制度改革・投資環境の透明性向上を背景に、次第に力強い回復傾向を見せています。供給面(売り案件側)から見ると、市場では自然淘汰ともいえる選別が進みました。
厳しい局面を乗り越え、なお事業を継続できている企業は、
- 事業基盤が実質的であること
- 財務体質がより健全であること
- 中長期的な経営視点を有していること
を示しています。
そして、成長フェーズに入ったこれらの企業は、海外資本の導入だけでなく、
- ガバナンス体制
- リスクマネジメント
- ブランド戦略
といった分野で、国際的なノウハウを積極的に取り入れたいというニーズを強めています。一方で、経済統合の進展に伴い、ベトナム企業の間では、「海外へ打って出る」M&A戦略も台頭しています。
M&Aはもはや資金調達手段にとどまらず、
- 海外市場への橋頭堡
- ブランド価値向上
- グローバル・バリューチェーンへの本格的参入
を実現する重要なパスポートとなりつつあります。
|
|
01 - 2025年のベトナムM&A市場 |
【回復が明確に表れる一年】
2025年のベトナムにおけるM&A市場は、年初の停滞局面を乗り越え、年央以降にかけて力強い回復基調が確認されました。
取引件数だけでなく、取引規模および戦略的重要性も大きく拡大し、ベトナム市場が、
- 多国籍企業
- 投資ファンド
- 事業会社投資家
にとって、一層魅力的な投資先となっていることを示しています。
特に、外国投資家による、
- 企業・プロジェクトの買収
- 支配権取得
- 戦略的提携
- 長期的パートナーシップ
が増加したことは注目すべき動きです。
以下では、2025年のM&Aを牽引した5つの主要分野を整理します。
|
(1) 医療・ヘルスケア 広がりと深化の両面で拡大
|
医療・ヘルスケア分野は、引き続き最も活発な領域の一つです。 投資の方向性は多岐にわたり、
などが見られます。 多くの案件に共通するのは、医療サービスの質向上と市場アクセスの拡大を目指す姿勢であり、これは外国投資家が非常に重視するポイントです。 |
|
(2) 不動産 再編と新たなチャンス |
不動産市場が再編プロセスにあるなか、M&Aは次のような目的で広く活用されています。
新規開発を一から行うよりも、既存プロジェクトの取得によるリスク低減と時間短縮を狙う投資家が増えています。 |
|
(3) 金融 金融センター構想を先取り |
ホーチミン市およびダナンでの金融センター構想を背景に、金融分野のM&Aも活発化しました。 主な投資対象は、
などであり、外国投資家は、法制度整備の進展を見据えた先行ポジション確保を狙っています。 |
(4) テクノロジー・小売デジタル化が牽引
|
テクノロジーおよび小売分野のM&Aは、
といったテーマを中心に展開されています。 目標は、オペレーション効率の最大化と統合的サービスエコシステムの構築です。 |
|
(5) 消費財 内需拡大を取り込む |
急速に拡大するベトナム消費市場は、
の強い関心を引きつけています。 多くの投資家は、既存の流通ネットワークを持つ企業を買収し、そこから自社ブランド商品を展開する戦略を採用しており、これにより、市場参入までの時間を大幅に短縮しています。 |
|
|
02 - M&Aを後押しする法制度要因 |
2025年の回復、そして2026年のさらなる成長を展望するうえで、少なくとも5つの法制度・政策要因が、ベトナムのM&A市場において決定的な役割を果たしていると考えられます。
2.1. 透明性と予見可能性の高い法制度へ
ベトナムは現在、M&Aおよび関連規制の明確化が進む段階に入っています。規定の標準化、
運用ガイダンスの改善、そして透明性の向上により、
- 国内投資家と外国投資家が同一のルールにアクセスできる
- 解釈の差異が縮小される
- 交渉や取引実行における行き詰まりリスクが軽減される
といった効果が生まれています。
まだ法制度が完全に整ったとは言えないものの、2025年に導入された新政策は、
- コンプライアンスコスト
- 法務リスク管理コスト
を大きく引き下げ、結果としてM&Aの魅力を高める要因となっています。
2.2. 資本市場・IPO改革の加速
IPOおよび資本市場に関連する改革も進展しています。主な取り組みとしては:
- IPO手続の簡素化
- 外国人持株比率に関する透明性の向上
- 国際格付機関の基準を踏まえた制度運用
などが挙げられます。
これにより、ベトナムの規制は国際慣行により近づき、外国投資家にとって理解しやすく、リスク評価がしやすい市場へと進化しています。これは、大型M&A案件の増加につながる重要な土台です。
2.3. 民間経済の再編支援
党中央の第68号決議は、民間経済を経済成長の中核として位置付けました。
この方針の下で、政府は次のような政策を推進しています。
- 安定した事業環境の構築
- 企業再編の促進
- M&Aを経営効率化のツールとして活用
その結果、いわゆる「自然淘汰」がより明確に進み、
- 基盤の強い企業はさらに成長
- 脆弱な企業は市場から退出
しつつ、健全なM&A案件の供給源が形成されています。
M&Aは、「支配権を失う取引」というイメージから、ビジネスモデルを再生し、拡大するための戦略的手段へと、認識が変化しつつあります。
2.4. コーポレートガバナンスの高度化
激しい市場変動(特にポスト・コロナ期)を経たことで、多くの経営者は次の課題に直面しました。
- 法務プロセスの標準化
- リスク管理体制の強化
- M&A前後の準備・管理の高度化
これらの取り組みにより、企業は国際的な投資家と対話しやすくなり、M&A後の統合プロセスにおいてもより円滑で効率的な運営が可能となっています。
2.5. コンプライアンス意識の向上
注目すべき変化として、企業の間で法令遵守と透明性に対する意識が明確に高まった点が挙げられます。M&Aはもはや単なる金融取引ではなく、
- 体制整備
- ガバナンス強化
- 長期成長に向けた基盤づくり
のプロセスであると認識され始めています。
この意識変化こそが、ベトナムをより魅力的なM&A市場へと押し上げる重要な要素となっています。
|
|
03 - 2026年のベトナムM&A |
【大きなチャンスと、避けて通れない試練】
2026年に向け、ベトナムのM&A市場は、2025年に形成された回復基調を維持し、さらなる成長が続くと期待されています。
2025年は、件数・規模・取引品質のいずれにおいても、市場拡大の確かな基盤を築いた一年と言えます。
【法制度・政策が引き続き追い風に】
2025年の法制度改革、政策調整、市場変動は、引き続き企業に新たな投資機会をもたらします。
- 外国投資家との協業ニーズ
- 企業再編の必要性
- 事業規模拡大に向けたM&A活用
はいずれも、2026年に一段と高まると予測されます。
同時に、世界経済の不確実性が続くなかで、ベトナムは、比較的安定し、長期成長が見込める投資先として、日本企業を含む多くの国際企業から高い注目を集め続けています。
【試練:ポストM&Aの「結果」が問われる】
もっとも、2026年はチャンスだけの年ではありません。取引件数が増えるほど、市場は次第に、過去に成立したM&Aが本当に成功しているのかという「結果」を見始めます。
成功する案件もある一方で:
- 期待ほど成果が出ない
- 統合過程で撤退する
- 買収後に利害対立が表面化する
といったケースも、一定程度避けられません。
こうした経験は、投資家の心理や将来の投資判断に大きな影響を及ぼすことになります。
いま求められるのは「戦略的アドバイザー」
このような状況のなか、ベトナムに投資する企業には、単なる案内役ではなく、
- 戦略アドバイザー
- 法務アドバイザー
- 市場アドバイザー
としての役割を兼ね備えた、実務経験豊富なパートナーが必要になります。
信頼できる伴走者は、単にトレンドを説明するだけでなく、過去の成功と失敗から「何を学ぶべきか」を読み解き、最適なタイミング・スキーム・リスク管理を提案できる存在でなければなりません。
「自称専門家」が増えるリスク
M&A市場が活発になると同時に、自らを“専門家”と称するアドバイザーも増加します。
しかし中には、
- 目先の利益だけを強調し、
- 法務・商務の基礎理解が不十分なまま、
- 投資家に過度の期待を抱かせる
ケースも少なくありません。
誤った選択は、
- チャンスの逸失
- 不要なコスト負担
- 買収後に顕在化する法務リスク
といった結果を招きかねません。
2026年に重要性が増す「パートナー選び」
したがって、2026年に向けたM&A戦略では、ベトナム法制度を深く理解し、実際の投資案件を伴走してきたアドバイザーを選ぶことが、ますます重要となります。
それこそが、不確実性の高い環境の中でも、
- 適切な判断
- 持続的な成長
- リスクの最小化
を実現するための鍵となります。