|
|
01 - ベトナムの労働契約の概要 |
- ベトナムでは雇用契約(労働契約)は労働法に基づく書面での合意であり、給与支払いや労働条件・権利義務を規定します。原則として、労働者が1か月以上就労する場合は、就業開始前に書面で契約を締結しなければなりません。
- 労働契約には「期間の定めのない契約」(無期契約)と「期間の定めのある契約」(有期契約)の2種類があり、後者は契約期間が36ヶ月以内である必要があります。
- 労働契約には、契約当事者の氏名・住所・身分証明書番号、職務内容・勤務地、契約期間、賃金額・支払い方法・支払期日・手当、昇給昇進制度、労働時間・休憩時間・休日、作業上必要な保護具の支給、社会保険・健康保険・失業保険の制度、研修・技能向上などの主要事項を明記する必要があります。これらは労働者の権利を守るために労働法で定められた必須項目です。なお、契約書はベトナム語で作成し、外国人労働者を雇用する場合はその母語訳も併記されるのが一般的です。
|
|
02 - 試用に関する制度 |
2.1. 契約形態
試用は正式雇用契約の前に設定できるもので、ベトナムの2019年労働法第24条により「労働契約に試用条項を設ける形式」又は「別途試用期間用契約を締結する形式」のいずれかが認められています。いずれの場合も、両方の情報、試用期間中の業務内容や労働条件などを契約で明示する必要があります。
2.2. 試用期間
試用期間は職務の専門性・難易度に応じて設定され、同じ職位で複数回設定することはできません。一般的な上限は次の通りです:
- 管理職(例えば企業役員や会社法で定める経営幹部):試用期間は最長180日以内
- 大卒以上の専門性を要する職務:最長60日以内
- 専門学校以下レベルの技術・専門職:最長30日以内
- 上記以外の職務:最長6営業日以内
また、雇用契約期間が1ヶ月未満の場合には原則として試用期間を設定できません。
2.3. 試用期間中の給与
試用期間中の賃金は、双方の合意により定めるものの、本採用後に支払う予定の給与額の85%以上でなければなりません。したがって、企業は試用期間中の給与を本採用時の給与水準と比較して下回らないように注意する必要があります。
2.4. 試用期間の終了
試用期間終了時には、使用者は労働者に対して評価結果を通知する義務があります。評価が適正と判断された場合には、本採用として現行労働契約を継続するか、新たに正式労働契約を締結します。不適当と判断された場合には使用者側が現行労働契約又は試用契約を終了させることができます。なお、試用期間中は使用者・労働者双方が事前通知・補償なしで契約を解除する権利を有しています。
|
|
03 - 正式雇用契約の締結 |
3.1. 締結時期
正式な労働契約は、原則として労働者が業務を開始する前に締結しなければなりません。試用期間を別契約とした場合でも、試用期間の終了後速やかに正式な労働契約を交わす必要があります。
3.2. 必須記載事項
- 労働契約書には前述の主要項目(当事者情報、職務内容、契約期間、賃金・手当、労働時間・休日、社会保険・健康保険・失業保険など)が必須です。特に賃金額や支払方法、支払期日、昇給昇格のルール、各種手当・福利厚生制度、研修制度などは正確に明記し、雇用後のトラブルを防ぎます。これらは法令で列挙された労働契約の基本要素に当たります。
- また、法定の必須事項に加えて、当事者間の合意に基づき、労働契約にその他の条項を追加することも可能です。
- 例えば、労働者が企業の営業秘密または技術上の秘密に直接関与する業務に従事する場合、使用者は労働者との間で、営業秘密の保護、技術秘密の保護に関する内容・期間、権利義務および違反時の賠償責任について文書で合意することができます。
3.3. 契約書の言語
ベトナム法上、労働契約書はベトナム語で作成しなければなりません。外国人従業員を採用する際は、労働者が内容を理解できるように母語又は英語などに翻訳したものを併記するのが一般的です。契約書を多言語で用意しておくことで、労使間の意思疎通を円滑にし、誤解によるトラブルを避けることができます。
|
|
04 - よくある実務ミス(実際によく起きる失敗) |
① 試用契約を締結していないケース
特に中小規模の企業や採用人数が少ない企業において、試用契約の締結を省略してしまうケースが少なくありません。しかし、試用契約を締結しない場合、以下のような実務上・法的リスクが生じます。
- 試用期間の管理が曖昧になる
- 試用期間中の労働条件・処遇(賃金、福利厚生等)が不明確になる
- 試用終了後の評価方法や本採用・不採用の判断基準が整理されていない
- 試用期間中または終了時の契約終了を巡り、労働紛争に発展しやすい
試用契約は、単なる形式的書類ではなく、試用期間中の権利義務関係を整理し、紛争を予防するための重要な管理ツールである点を十分に認識する必要があります。
② 試用契約・労働契約の「署名権限」を誤っているケース
試用契約も労働契約の一種であり、締結権限の有無は極めて重要です。原則として、労働契約および試用契約は、会社の法定代表者が署名・締結する必要があります。法定代表者が他の者(人事部長、管理部責任者など)に署名権限を委任する場合には、書面による明確な委任状が必要です。
実務上、大企業では人事担当者が代表者に代わって契約書に署名するケースも見受けられますが、試用契約の締結権限まで明示的に委任されていない場合、契約が無効と判断されるリスクがあります。
③ 試用期間の設定期間を誤っているケース
- ベトナム労働法では、職位・業務内容ごとに試用期間の上限が明確に定められています。同一職位について複数回の試用期間を設定することはできず、仮に複数回設定したとしても、法定上限を超えることは認められません。
- 試用期間を柔軟に設定できると誤解し、結果として法定期間を超過してしまうケースは、実務上しばしば見受けられます。試用期間の設定にあたっては、必ず法令上の上限を確認する必要があります。
④ 試用期間と社会保険加入義務の関係を誤解しているケース
実務上、特に混同されやすいのが試用期間と社会保険加入義務の関係です。
- 多くの企業では、労働契約書を最初から締結し、その中に「試用期間2か月」などの条項を設ける運用を行っています。しかし、この場合、試用期間であっても労働契約が成立している以上、契約期間が3か月を超える場合には社会保険加入義務が発生します。
- 一方、試用契約を労働契約とは別に締結した場合には、原則として試用期間中は社会保険加入義務は発生しません。
この違いを理解せずに契約形態を選択すると、社会保険の追徴や行政指導の対象となるリスクがあるため、注意が必要です。
⑤ 試用期間中の賃金条項を不明確に定めているケース
試用期間中の賃金は、本採用後の賃金の85%以上とする必要があります。実務上、試用期間中の賃金が本採用後より低く設定されている場合でも、基本給と各種手当を明確に区別して規定することで、法令違反を回避できるケースがあります。
しかし、賃金条項を曖昧に定めたり、単に「試用期間中は低額」とのみ記載した場合、労働者に有利な解釈がなされ、賃金規定違反と判断される可能性があります。
⑥ 試用期間中の不採用(不適格)対応を誤解しているケース
- 多くの企業では、「試用期間は必ず満了まで継続しなければならない」と誤解しています。しかし、ベトナム労働法では、試用期間中は、使用者・労働者のいずれも、事前通知や補償なく契約を解除することが可能と明確に規定されています。つまり、試用期間の途中であっても、業務適性がないと判断した場合には、契約を終了させることが可能です。
- 日系企業からよく寄せられる質問として、「試用不合格の理由をどこまで説明すべきか」という点があります。実務上、評価結果の概要を共有し、どの点が基準に達しなかったかを説明することは望ましいものの、労働者を納得させる義務や、評価の正当性を立証する義務までは課されていません。試用評価は、あくまで使用者の裁量に基づくものであり、事前に共有された評価基準に基づいて判断されていれば、法的リスクは限定的といえます。