2025年12月11日、ベトナム国会は投資法第143/2025/QH15号(以下「投資法2025」)を可決しました。本法は2026年3月1日より施行され、2020年投資法と比べて、手続の簡素化、投資実行の柔軟性向上、そして新たな投資環境に対応した法的枠組みの整備が図られています。
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01 - 投資登録証明書(IRC)の取得前に会社設立が可能に |
投資法2025では、外国投資家が、投資登録証明書(IRC)の新規取得または変更手続を行う前に、先に経済組織(会社)を設立することが認められました。ただし、その前提として、会社設立時点において、外国投資家に適用される市場参入条件を満たしていることが必要となります。
これは、原則として「投資プロジェクトの存在」を会社設立の前提としていた投資法2020からの大きな転換と言えます。
この改正により、外国投資家は早い段階でベトナムにおける法人格(ERC)を取得することが可能となり、以下の点で実務上の利便性が大きく向上します。
- 投資準備段階における各種業務(事務所賃貸、雇用、契約準備など)を合法的に進めやすくなる
- プロジェクト準備段階で発生する費用を、法人名義で透明かつ適切に会計処理できる
- 投資スケジュールをより柔軟に設計できる
その結果、外国投資家は、会社設立を先行させるか、従来どおりIRC取得後に設立するかを、事業計画に応じて選択できることになります。
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02 - 条件付投資事業の36業種削減、新たに15業種を追加、27業種を見直し |
投資法2025における注目すべき改正点の一つが、条件付投資事業(条件付事業分野)の大幅な見直しです。本改正では、36業種が条件付事業の対象から削除されており、投資環境の簡素化に向けた大きな改革と評価されています。
これまで、人材紹介サービス、労働者派遣、建築、エステ・美容関連サービスなど、比較的広範なサービス分野が厳格な条件規制の対象となっていましたが、投資法2025により、これらの分野は条件付事業リストから除外されました。この見直しにより、市場参入までの時間短縮、コンプライアンスコストの軽減、事業運営の柔軟性向上が期待されており、特に外国投資家がベトナムでサービス事業を立ち上げ、拡大する際の実務負担が大きく軽減されることになります。
一方で、投資法2025は、社会・経済環境の変化を踏まえ、新たに15の条件付投資事業分野を追加しています。主な追加分野としては、個人データ処理サービス、データ取引プラットフォーム運営、データ仲介サービス・製品の提供などが挙げられます。これらは、2026年1月1日施行の個人データ保護法および関連政省令との整合性を図るものであり、データが企業活動の中核となる現在の事業環境を反映した改正と言えます。
実務上、個人データ保護規制への違反は極めて高い法的リスクを伴い、実際に、Zalo社が8億1,000万VND、TikTok社が8億8,000万VNDの行政罰を科された事例も公表されています。このような状況を踏まえ、弁護士法人ベトホ(BETOHOLAWFIRM)では、個人データ・デジタル分野に関する法改正動向を継続的にフォローし、日系企業を含む外国企業に対して、早期のリスク認識と実務に即したコンプライアンス体制構築を支援しております。
さらに、投資法2025では、既存の27業種について条件内容の修正・明確化も行われています。
これらの修正は、制度の実務運用をより明確にし、解釈のばらつきを抑えることを目的としており、企業にとっては「条件の有無」だけでなく、「どこまでが規制対象なのか」を正確に把握することが一層重要となります。
👉 条件付投資事業の削減・追加・修正の詳細一覧については、別途こちら (https://betoho.vn/post/%e3%83%99%e3%83%88%e3%83%8a%e3%83%a0%e6%8a%95%e8%b3%87%e6%b3%952025%e5%b9%b4%20%e6%9d%a1%e4%bb%b6%e4%bb%98%e3%81%8d%e4%ba%8b%e6%a5%ad%e5%88%86%e9%87%8e%e3%81%ae%e5%bb%83%e6%ad%a2%e3%83%bb%e8%bf%bd%e5%8a%a0%e3%83%bb%e6%94%b9%e6%ad%a3%e4%b8%80%e8%a6%a7-20260305) にてご確認ください。
留意点
投資法2025自体は2026年3月1日施行ですが、条件付投資事業リスト(附録IV)は2026年7月1日から適用されます。これは、関係当局による下位法令の整備および、企業側の見直し・調整期間を確保するための移行措置です。
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03 - 投資プロジェクトの事業期間を増減調整できる制度の導入 |
投資法2025では、投資プロジェクトの実施期間について、事業実施中であっても増減の調整が可能であることが明確に規定されました。ただし、その期間は法令で定められた最長期間を超えないことが前提となります。
これは、投資法2020との大きな相違点です。従来は、プロジェクトの事業期間が満了した後にのみ、延長の可否が検討される仕組みであり、実施途中での柔軟な調整は認められていませんでした。
例えば、当初30年間の事業期間で認可されたプロジェクトについて、事業計画の変更や経営戦略の見直しが生じた場合、投資家は以下のような対応を選択できます。
- 事業期間を20年に短縮する
- 法定上限の範囲内で事業期間を延長する
これらの調整は、プロジェクト終了時まで待つことなく申請可能となります。これに対し、投資法2020の下では、期間を延長したい場合は満了時まで待つ必要があり、また、早期に終了したい場合には、投資プロジェクトの終了手続を正式に行う必要がありました。
本改正により、投資家は事業環境や市場状況の変化に応じて、より柔軟にプロジェクト期間を管理することが可能となり、投資効率の最適化やリスク管理の観点からも実務上大きなメリットがあるといえます。
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04 - 投資主張承認(投資方針承認)対象プロジェクトおよび決定権限の明確化 |
投資法2025では、投資主張承認(投資方針承認)の対象となるプロジェクト(第24条)について、より明確な整理が行われました。これにより、投資家はプロジェクト準備段階から、自身の案件が承認対象に該当するか否かを正確に判断しやすくなっています。
さらに、本法では、工業団地(KCN)、輸出加工区(KCX)、ハイテク区(KCNC)、経済区(KKT)内で実施されるプロジェクトについて、省人民委員会主席の権限に属する案件であっても、当該区域の管理委員会が投資主張承認を行う権限を有することが新たに規定されました。
投資法2020では、投資主張承認の権限は、国会、首相、省人民委員会に限定されていましたが、投資法2025では、権限委譲・分権化がさらに進められています。この見直しにより、行政手続の簡素化、審査期間の短縮、プロセスの透明性向上が期待されます。加えて、投資法2025は、投資主張承認の決定権限が「省人民委員会」ではなく、「省人民委員会主席」に帰属することを明確にしました。
この点も、従来規定との重要な違いであり、実務上の判断主体がより明確になることで、手続の一貫性向上につながると考えられます。
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05 - 投資主張承認の変更手続が不要となるケースの整理・簡素化 |
投資法2025では、従来は投資主張承認の変更手続が必要とされていた一部のケースについて、その要件が見直され、手続義務が廃止されました。具体的には、以下のような変更については、原則として投資主張承認の変更を要しないと整理されています。
- まず、総投資額が20%以上増減し、結果としてプロジェクト規模が変動する場合であっても、その変更がプロジェクトの本質的内容や投資方針に影響を及ぼさない場合には、改めて投資主張承認の変更を求められません。
- また、投資主張承認の取得過程において既に審査・意見聴取が行われた技術内容の変更についても、同様に変更承認手続の対象から除外されています。
これらの見直しは、プロジェクトの性質や方向性に実質的な変更がないにもかかわらず、形式的な理由で再度承認手続を求めることによる負担を軽減することを目的としています。投資家にとっては、事業実施段階における柔軟性が高まり、実務に即した制度設計と評価できます。
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06 - 投資主張承認済みプロジェクトにおける進捗調整期間の拡大 |
投資法2020の下では、プロジェクトの実施進捗が当初計画より12か月を超えて遅延する場合、投資主張承認の変更手続が必要とされていました。これに対し、投資法2025では、この基準が24か月に拡大されています。
すなわち、進捗の遅れが24か月以内であれば、原則として投資主張承認の変更手続を行う必要はありません。この改正により、建設遅延、資金調達の調整、市場環境の変化など、投資家の意思だけではコントロールしきれない要因によるスケジュール調整について、より現実的な対応が可能となりました。
結果として、不要な行政手続が減少し、プロジェクト運営の柔軟性が大きく向上しています。
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07 - 対外投資における禁止業種の追加 |
投資法2025では、電子たばこおよび加熱式たばこの製造・販売に関する事業が、対外投資(海外投資)における禁止業種として新たに追加されました。
これにより、海外投資が禁止される業種数は、従来の10業種から11業種へと増加しています。本改正は、健康政策および社会的影響を踏まえたものであり、対外投資を検討する企業にとっては、投資計画立案の初期段階で業種該当性を慎重に確認する必要性が一層高まったといえます。
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08 - 一定の場合における対外投資登録証明書(IRC)の免除 |
投資法2020では、原則として、海外投資プロジェクトを実施する投資家は、対外投資登録証明書(IRC)の取得が求められていました。これに対し、投資法2025では、以下の3つのケースについて、IRCの取得が不要と明確に規定されています。この場合、投資家は外為取引の登録手続のみを行えば足りることになります。
- 政府が定める一定の小規模投資額未満であり、かつ対外投資に条件が付されていない業種のプロジェクト
- ベトナム政府と外国政府との間の合意に基づき、国防・安全保障に関連して実施される対外投資プロジェクト
- 国有企業グループ、総公社、または法令で定められた経済組織による対外投資プロジェクト
この改正により、対外投資に関する手続負担は大きく軽減され、実務上のスピードと効率性が向上すると評価できます。
【まとめ:移行期間における投資家の権利保護】
投資法2025は、多くの重要な改正を通じて、新規投資家にとって魅力的な環境を整備しています。一方で、既に投資プロジェクトを実施している投資家に対しても、移行期間における法的安定性が十分に確保されています。
具体的には、本法施行前に適法に取得された投資許可や条件は、その有効期間満了まで引き続き有効とされ、既に享受している投資優遇措置も維持されます。このような経過措置は、投資家の正当な権利・利益を保護し、ベトナムにおける投資活動の予測可能性と法的安全性を高める重要な要素となっています。