公開 2026年01月23日  I 更新 2026年01月23日

ベトナム 賃金テーブル作成ガイド 法的義務・作成手順・罰則リスクを解説

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナム 賃金テーブル作成ガイド 法的義務・作成手順・罰則リスクを解説


労務 公開 2026年01月23日  I 更新 2026年01月23日
目次

本記事では、ベトナム労働法に基づく「賃金テーブル」の法的義務、作成目的、構築手順、最低賃金との関係、労働組合との協議プロセス、違反時の罰則リスクまで、日系企業の人事・経営層が押さえるべき実務ポイントをわかりやすく解説しています。ベトナム進出企業がコンプライアンスを確保しつつ、公平で持続可能な給与制度を構築するための実践ガイドです。 弁護士法人ベトホ(BETOHO LAW FIRM)は、在ベトナム日系企業を中心に、人事・労務体制の構築、賃金制度設計、就業規則整備、労働組合対応、労働監査対応までワンストップで支援してきた豊富な実績を有しています。ベトナム法令の最新動向を踏まえ、実務に即したアドバイスとリスク管理を通じて、企業の安定的な経営をサポートしています。

01 - 賃金テーブルとは何か?企業に作成義務がある理由

 

賃金テーブル(給与体系)とは、企業内の職務や職位ごとに賃金等級(グレード)を定め、それに対応する基本給額を体系的にまとめたものを指します。簡単に言えば、社員の役職や技能に応じた社内の給与の「ものさし」です。賃金テーブルには各職種・職位ごとの給与等級が階段状(グレード別)に設定されており、従業員の採用・配置や昇給の際、このテーブルを基準に給与水準を決定します。例えば、一般社員はグレード15、管理職はグレード68といった形で賃金の階層を設け、各グレードに具体的な月給金額を割り当てます。

法的義務として、ベトナムの労働法第93条は「使用者(企業)は賃金テーブルおよび労働基準を作成しなければならない」と明確に規定しています。これは企業規模や従業員数に関係なく適用され、外国投資企業(FDI企業)も例外ではありません。かつては従業員数が一定以上の場合に賃金テーブルを所轄労働当局へ登録する必要がありましたが、2019年労働法の施行(20211月)以降は当局への届け出義務は撤廃されました。したがって現在は各企業が内部で賃金テーブルを策定し、保管しておけば良いことになっています(労働監査等で要求があれば提示・説明できるように準備)。

 

なぜ賃金テーブルの作成が必要かについて、その理由は主に以下の通りです。

  • 法令遵守と基準の明確化: 賃金テーブルは労働契約に基づく賃金支払いの基準となり、従業員の募集・雇用時にも活用されます。これにより企業は最低賃金など法定要件を満たした給与体系を整備し、公平で一貫性のある賃金支払いを担保できます。
  • 従業員の権利保護と公平性の確保: 賃金体系を明示し透明性を保つことで、従業員は自らの給与水準を理解し、不当な低賃金や差別的取扱いを避けられます。これは従業員の権利を守り、社内の公平性を高める効果があります。
  • 信頼関係と人材確保: 給与体系の透明化は企業と従業員の信頼関係構築にも寄与します。特に外資系企業では、現地従業員との間で給与決定プロセスの透明性を示すことが、優秀な人材の確保・定着に繋がります。
  • 労使関係の安定: 賃金テーブルを事前に定め労働組合と協議することで、労使間の摩擦を減らしスムーズな協力体制を築けます。また、適切な賃金体系は労働争議の予防にも有効です。

 

02 - ベトナム法に基づく賃金テーブル構築の手順

 

ベトナムにおける賃金テーブルの構築は、法律上いくつかのステップを踏む必要があります。以下に賃金テーブル策定の一般的な手順を示します。

 

     社内職務の整理と賃金等級の設計

まず企業は自社の職務内容や職種・職位ごとに必要なスキル・責任範囲を洗い出し、賃金等級(グレード)を設定します。各等級には対応する給与レンジを決めます。この際、最も低いグレードの基本給が法定の最低地域別賃金(最低賃金)を下回らないことを厳守します。最低賃金額は政府によって地域(第IIV類地域)ごとに定められており、毎年または数年ごとに見直されます。

 賃金テーブル(給与表)の作成

職位や職種の等級ごとの具体的な給与額を一覧表(給与表)にまとめます。例えば、等級ごとの給与昇給幅を定め、グレードが上がるごとの昇給率・金額を決定します。現在の法律では等級間の昇給幅(等級差)について最低何%という規定はありません(旧法では5%以上の差額が必要とされていましたが2021年以降この規定は撤廃)。そのため各企業の実情に応じて柔軟に昇給幅を設計可能です。一般的には社歴・能力に応じた昇給カーブを描けるよう、等級が上がるにつれ一定割合で給与が増える体系とする企業が多いです。

③  労働組合との協議

賃金テーブルの案ができたら、社内の労働者代表組織(労働組合など)に意見を聴取します。具体的な協議プロセスは政令145/2020/ND-CP41条で規定されており、企業が協議内容を書面で通知労組側が従業員の意見を取りまとめ回答労使で話し合いを実施(議事録を作成し署名) → 合意内容の社内共有という流れが示されています。労働組合がない企業ではこの協議プロセスは不要ですが、従業員の声を反映させる努力は望ましいでしょう。

④  社内での公表・実施

労組との協議を経て最終決定した賃金テーブルは、適用開始前に職場で公表する義務があります。

 

03 - 賃金テーブル構築時の留意点と違反時の法的リスク

 

  • 最低賃金の遵守(グレード1の設定): 賃金テーブルの最下層にあたる等級1の基本給額は、必ず地域別最低賃金以上に設定しなければなりません。最低賃金は政府の政令によって毎年改定され得るため(直近では20247月に引上げ)、改定があった場合は速やかに賃金テーブルを見直し調整する必要があります。最低賃金を下回る水準で従業員を雇用すると重い罰則の対象となるので注意してください(後述)。
  • 等級数と昇給幅の設定: ベトナム法は賃金等級の段階数(スケール)に上限を設けていませんが、最低でも2等級以上は設定する必要があります。極端な例ですが「全社員一律同じ給与」というのは認められず、少なくとも新人とベテランで給与に差をつける等級体系が求められます。一般的には515等級程度の細かいグレードを設けている企業が多いです。また前述の通り、等級間の差(昇給率)は企業が自主的に決定可能です。自社の業種・人材戦略に即した昇給ペースとなるよう検討しましょう。
  • 旧ルールとの相違点(技能手当の扱い): 2021年以降の新労働法では、技能労働者に対する「最低賃金+7%」の賃金保証義務が廃止されています。そのため、新たにテーブルを作成する際は技能資格や学歴のみを理由にした一律上乗せルールは不要です。ただし、各企業が独自に技能手当や職務手当を設けることは禁止されていないため、優秀な人材に報いる制度設計は各社の裁量で行えます。重要なのは最低賃金さえ下回らなければ、賃金体系に一定の柔軟性が認められているという点です。
  • 労働組合等への意見聴取社内に労働組合(従業員代表組織)が存在する場合、賃金テーブル策定時に必ずその意見を聞くようにしてください。労組の意見を全て受け入れる義務はありませんが、法律上「意見を参考にする」プロセスを経ないと罰則対象となります。労組がない企業ではこの義務は生じませんが、従業員のモチベーションや納得感を得るため、非公式でも従業員代表の声を聞く姿勢が望まれます。
  • 職場での公表と周知徹底作成した賃金テーブルは施行前に社内で公表し、全従業員に周知させる必要があります。具体的には、社内掲示や通知書の配布などで給与体系の内容を透明化します。公表を怠ることは労働法違反となり、後述の罰金対象です。特に多国籍企業では、現地スタッフに自社の給与制度を理解させる良い機会にもなるため、単なる掲示にとどまらず説明会を開くなど工夫するとよいでしょう。
  • 賃金テーブルの保管と当局対応前述の通り、現在ベトナムでは賃金テーブルの行政への登録義務はありません。しかし社内で文書をきちんと保管し、労働局などから調査要請があれば即座に提出・説明できる状態にしておくことが肝要です。特に製造業など当局の労務監査が定期的に入る業種では、賃金テーブルのファイルや関連決裁書類を整備しておきましょう。
  • 違反時の罰則賃金テーブルの作成・公開に関する義務に違反した場合、ベトナム法は懲罰的な罰金を科しています。具体的には、政令12/2022/NĐ-CP17条の規定により以下の違反それぞれに対し企業(法人)には 10,000,00020,000,000ドンの罰金が科されます:
    • 賃金テーブルや給与体系を策定していない場合
    • 賃金テーブルを実施前に職場で公表しなかった場合
    • 労働者代表組織があるのにその意見を参考しなかった場合

 

また、賃金テーブル違反とは別に、もし従業員への実際の支払い賃金が最低賃金を下回った場合には非常に重い罰則があります。政令No.12/2022によれば、最低賃金違反を行った場合の罰金額は労働者数に応じて企業(法人)に40,000,000150,000,000ドンにも達し得ます。最低賃金違反は企業の評判や従業員士気にも重大な悪影響を及ぼすため、絶対に避けなくてはなりません。

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。

Duongbui@betoho.vn 0967 246 668