ブイ・ホン・ズオン

ベトナム国弁護士・和解調停人・破産管財人・社外監査役

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2. ベトナム契約法務_総論(契約の締結・成立・執行・紛争解決に関する注意点)

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

 

1.  契約交渉段階

 

(1)  ベトナムパートナ企業の基本情報調査

    ① ベトナムでは、飲食店事業での小判鮫商法と同様に、大手企業や有名企業と類似する名前や取引先に誤解させる顔をしているフェイクの企業がいくつか存在しています。そのために、ベトナムのローカル会社と取引(契約)する前に、必ずその会社の基本情報を確認する必要があります。

【基本情報の確認方法】

  •      会社のホームページがあれば、まずホームページで確認
  •      会社の企業登録番号を取得して、以下の企業登録ポータルサイトで確認

企業登録ポータルサイトで確認できる情報は、法人名越語/英語、所在地、法定代表者、会社形態、設立年月日、連絡先電話番号、事業登録内容その他

費用を払えば(1千5百円程度)、より詳細な情報(登記の更新履歴、出資者(又は創立株主)、経理担当者等)を確認することができます。

  (https://dangkykinhdoanh.gov.vn/en/Pages/default.aspx )

  •      会社の正式な企業登録書(登記簿)の開示要求

 

(2) 契約自由の原則

  •      日本では、契約自由の原則は、当たり前に考えるのですが、ベトナムでは、そうでもないです。特に中小企業の場合は、そもそも国際的な契約にアプローチできる機会が少なく、契約の自由原則を理解できない可能性があります。契約内容について、企業法務の担当者と相談しても、「この内容は、どの法律に定められていますか」という質問がある場合もあります。
  •      また、国際的な取引においては、以下の通りに、自由の原則に基づき、当事者の合意で自由に選択することができる項目です。
    1.                              準拠法選択の自由
    2.                             言語選択の自由(※ただし、ベトナム税務局やその他の当局機関に提出する必要がある場合には、その契約のベトナム語版(翻訳版でもよいです)を作成しなければなりません)
    3.                              紛争解決機関選択の自由

   ※国際的な取引とは、次のいずれかに該当するものです。

    1.                              参加する少なくともいずれか一方の当事者が外国の個人、外国人である。
    2.                              参加する各当事国はともにベトナムの公民、ベトナムの法人であるが,当該取引(債権・債務)の確 立、変更、実施、消滅が外国に生じるもの
    3.                              参加する各当事者はともにベトナムの公民、法人であるが、当該取引の対象(売買契約の場合は、その売買対象となる貨物等)が外国に所在する。

 

2.  契約の作成

 

(1)  契約の署名者権限

 

ベトナムでは、「この契約は、無権限者によって署名されたため、契約の効力が生じない」というような主張がまだ多少あります。そのため、契約に署名した者は、権限者であるかどうかをしっかり確認する必要があります。その権限者は、法人である場合、法人の法定代表者、又はその法定代表者の代理人(委任に基づく)です。権限者の確認方法は、以下の通りになります。

         ①  1の(1)に述べた企業登録ポータルサイトを通じて、法定代表者の情報を確認します。

    (https://dangkykinhdoanh.gov.vn/en/Pages/default.aspx )

    ※日本では、会社の定款を重視されていますが、ベトナムでの中小企業の場合は、定款をしっかり管理していない場合が多いです。そのため、会社の実質の状態や、企業登録ポータルサイトに登記している内容を定款に反映しない可能性があります。そのため、定款を要求しても、最新の定款ではないため、確認する意味がないです。

         ②  委任状又は代理人を確認することができる会社の内部意思決定文書の確認

必ず原本の確認をお勧めします。スキャンファイルですと、偽造・変造の可能性があるからです。

※無権限者により、署名した契約の場合は、ベトナム民法に基づき、無権代理又は表現代理の制度を使って、契約の有効を主張できる可能性がありますが、その司法コストや証明義務の負担が大きいです。

 

(2) 債権回収観点からの契約作成

 

ベトナムでの債権回収は、非常に困難です。そもそも司法救済がまだ整備途上でもあり、裁判所や国家機関の支援を期待できないという問題がまだあります。そのため、債権を回収できないリスクの意識をもって契約を作成すべきです。

その方法は、以下の二つを考えられます。

         ①  担保設定

ベトナムでは、法律上の担保と実質な担保という二つに分けられなます。実質的な担保は、第三者への対抗力がなく、万が一債権を回収できず、先方が破産してしまった場合には、優先権を主張することができません。その際は、あくまで一般的な債務者としての取り扱いになるという点をご留意ください。

法律上の担保は、法的な条件を満たす必要があります。また、外資企業は、抵当権者として不動産の抵当権を設定することができません。

         ②  代金の前払いの設定

売買契約等の際に、納品後に請求するのではなく、所有権の引き渡し前にできれば全額を請求、又はエスクロー口座に代金の全額を入れるという方法を実施できるように交渉することを推薦します。

         ③  債権管理

売掛残高が高額にならないように、管理することや、支払い遅滞のあるものがある場合に、債権回収警告リスクに移転し、しかりと対策を講じるべきです。

 

(3) 契約作成の重点

契約を作成する時に、以下の点を重視することを推薦します。

         ①  両当事者で確定された合意内容が契約に適切に表現されること

         ②  ベトナム法の強行規定に違反していないこと

         ③  万が一紛争になった場合、自らの権利を十分に主張すること(紛争が生じたた時、裁判所や仲裁機関からの司法救済を受ける場合には、裁判官や仲裁人に自らの主張を理解してもらうため、要件事実論を意識した記載とする)

        ④  紛争やトラブルなどの事例を参考し、十分にリスクマネジメントできるようにすること

        ⑤  契約を履行する時の円滑を保障すること

        ⑥  会計上・税務上の適切性

 契約を作成した後、会社の会計・税務処理が必要です。契約の不明点や事実と表現の齟齬がある場合には、会社の会計・税務処理に大きな影響を与えられる可能性があります。例えば、物品販売契約場合は、主には委託方式か、買取方式の方式があります。選択される方式によって、在庫の管理(記録)、 資産計上、レッドインボイス発行タイミング等に大きく影響を与えられます。

そのため、契約作成は、財務・税務も専門とした弁護士や法務専門家にやらせるか。財務・税務の部門・担当者と一緒にチームで動くことをお勧めします。

 

3.  契約の公証認証

     

  •  契約の締結時に、公証役場での認証を受けるケースがあります。それは、絶対に公証役場の認証がないと契約の効力が発生しない場合と、そうではない場合があります。絶対に公証役場の認証がないと契約の効力が発生しないのは、不動産(土地使用権、住宅物件、その他建設物件)の売買・譲渡・贈与に関する契約、夫婦共同財産の分与合意書、不動産取引代理の委任状等といったものを取り上げられます。そうではないものは、公証役場での認証を受けなくても効力が発生しますが、当事者の要望で任意的に認証を受けるケースです。

        公証役場での契約の任意的認定を受ける時のメリットとデメリット

 

メリット

デメリット

  •      高い証明力があること(裁判所や仲裁機関に証拠として提出する時の証明力)
  •      サブ保管

         交渉役まで認証を受けた契約の一部は公証役場で保管する必要があります。万が一、契約の紛失、偽造、変造が発生する場合には、公証役場での写しをもらって、比較することができます。

  •      ベトナムでの公証役場は、契約の内容まで修正する慣行があります。公証人は、契約の自由原則を理解しようとしないため、法律に記載しない内容や公証人が理解できない内容を基本的に拒否される場合が多いです。
  •      ベトナムでは、証拠化手続の代行事務所もあります。裁判所に証拠を提出する際、その証拠の信頼性を証明し、裁判所で検査する必要がありますが、時間がかかるため、裁判所に提出する前に、証拠化手続の代行事務所に依頼して、一部の証拠(事実)を認定してもらう制度があります。契約締結でも同様に取り扱うことができます。重要な契約を締結する時、「本人が十分に契約の内容を確認した上で、契約に署名した」という事実をエビデンスの形で認定してもらいたい場合は、証拠化手続の代行事務所を使うことができます。

 

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                                          写真家 弁護士 レ・ヴァン・ホア

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