公開 2024年09月06日  I 更新 2025年01月20日

ベトナムでのM&Aによる撤退:方法、流れ、成功のための注意点

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ベトナムでのM&Aによる撤退:方法、流れ、成功のための注意点


撤退・清算 公開 2024年09月06日  I 更新 2025年01月20日
目次

ベトナムからの撤退において、M&Aは最も効果的な選択肢の一つです。本記事では、事業譲渡や株式・持分譲渡を含むM&Aによる撤退方法、通常のM&Aと異なる点、プロセスの流れ、そして合弁会社特有の注意点を詳しく解説します。さらに、ローカル企業との連携方法や譲渡候補の見つけ方など、撤退をスムーズかつ成功させるための実務的なポイントを紹介します。

01 - M&Aによる撤退の方法

 

M&Aによる撤退には、①事業譲渡、または②会社の持分・株式の譲渡という二つの方法があります。

【ベトナムからの撤退方法について】で述べたように、M&Aによる撤退は、最も有効な手段とされています。ただし、譲受者候補を見つけるためには、少なくとも以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  •       会社の事業に改善性や将来性があること
  •       特殊な資産や権利を保有していること(例:取得が困難な個別ライセンスや優秀な人材を保有していること)
  •       開拓の可能性がある未活用の資産が存在すること(例:不動産やその他の動産)
  •      大きな不正行為や法的な問題を抱えていないこと
  •       他の会社と比較して、何らかの優位性があること(例:ブランド価値など)

M&Aにより撤退する側は、通常のM&Aにおける売り手として考えられます。ただし、撤退目的の場合、通常のM&Aとは少し異なる位置づけとなります。撤退を前提としたM&Aでも、通常のM&Aプロセスを参考にすることができますので、【M&Aのプロセス】をご確認ください。

撤退を前提としたM&Aと通常のM&Aの最大の違いは、以下の通りです。

  •      通常のM&Aでは、両当事者が対等な立場で交渉を進めることができます。一方、撤退を目的とする売り手は事業や法人の売却が優先であり、交渉上、弱い立場に置かれることが多いです。
  •      また、通常のM&Aと比較して、売り手は事業の運営コスト等の関係で、M&Aを決定するまでの時間を待つ余裕がない場合が多く、プロセスを短縮し、可能な限り早く完了させようとする傾向があります。
  •      通常のM&Aでは、会社や事業の価値評価を基に市場価格で交渉が行われますが、撤退を前提とする場合、売り手は価格設定において不利な立場にあり、買い手の判断に依存することが一般的です。

 

02 - 付随的な方法

 

M&Aの相手を探すことや、事業撤退の方法を決定するには時間がかかる場合が多いですが、経営が悪化している場合、これ以上維持することで日々の運営コストが発生します。こうした状況に対処するため、以下の方法を検討することができます。

(1)会社の一時的な休眠

            休眠に向けて、雇用関係の整理や、賃貸契約の解除など、流動資金の削減策を実施できます。

          (2)撤退の判断と撤退方法の検討

            事業を継続するか、撤退するかの判断を行い、撤退する場合の具体的な方法を検討します。

          (3)次のステップへ進む

            決定した撤退方法に基づき、実際の手続きを進めます。

“注意事項”

  •       休眠期間は、一回の申請で最大12か月です。この期間が終了すると、更新が必要です。
  •       休眠期間中は、税務申告を行う必要はありませんが、休眠前の会計監査を受ける必要があります。
  •       休眠後に会社を清算する場合は、清算手続きを別途実施しなければなりません。
  •       休眠中でも銀行口座は機能しており、入金が可能です。しかし、会計や税務上の処理が必要な場合があります。

また、会社分割や合併などの会社再編によって会社を消滅させる方法も検討できます。この場合、通常のM&Aプロセスを参考にすることができます。

 

03 - M&Aによる撤退流れ

 

   (1) 会社内部の意思決定

会社の種類(有限会社か株式会社か)や定款の規定により、意思決定の手続きは異なります。一般的な流れは以下の通りです。

  • 有限会社の場合: 社員総会や出資者の合意に基づく決定
  • 株式会社の場合: 株主総会による決定

   (2) 買手候補者への申し入れ

  •      出資者レベルで撤退する意思決定をしても、会社の利害関係者に心配をかけないように撤退を秘密にする会社が少なくありません。そのため、買手候補者への申し入れの方法や、秘密保持についても、真剣に検討、対応する必要があります。
  •      基本的に会社の意思決定が出てから買手候補者に申し入れることができますが、以下の【3.合弁会社のM&Aによる撤退の注意点】をご確認ください。
  •      日本の技術や何等かのノウハウを使った事業ですと、会社自体が赤字であっても、ローカル企業が、その事業・会社を譲り受けてから、管理体制の改善等によって、経営状況を改善できるケースが多くあります。そのため、ベトナムローカル企業に声をかけた方が効率的だと思われます(同じ外資ですと、同じ問題が再発する可能性があるので、あまりお勧めできません)。ベトナムローカル企業を探したければ、ベトナムローカル銀行や法律事務所等に問い合わせしたほうが効率的です。

   (3)  譲渡条件等の交渉、譲渡契約の締結

通常のM&Aプロセスを参考に、交渉を進めますが、撤退を前提とした場合の特殊な要件を考慮しながら進める必要があります。

   (4)  クロージング手続

通常のM&Aプロセスを参考に進めます。

 

04 -  合弁会社のM&Aによる撤退の注意点

 

合弁会社のM&Aによる撤退の場合は、以下の点を注意する必要があります。

  •      合弁契約が最優先されますので、撤退に伴なう条件、各種調整やそれに関連する手続きについて、合弁契約に従って実施する必要があります。

     (合弁契約と会社の定款の齟齬がある場合には、出資者同士の関係と、出資者と会社との関係を分けて、整理する必要があります)

  •      合弁会社は、二人以上有限責任会社又は株式会社です。そのため、買手の候補者を探す前に、以下の内部的な手続き・調整が必要です。
    1.                       二人以上有限責任会社の場合:他方の出資者に対して持分割合に応じた同じ条件での売却を申し入れなければなりません。売却の申し出をした日から30日以内に、先方の出資者から同意する回答がないときは、同じ条件で第三者への譲渡の申し入れることができます。
    2.                      株式会社の場合:発起株主が企業登記証明書(ERC)取得日から3年間は自己の持株を、発起株主でない者へ譲渡する場合には、株主総会にて株式の譲渡の承認を得る必要があります)

 

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