公開 2024年09月07日  I 更新 2025年01月20日

ベトナムにおけるコンプライアンスの現状と課題 なぜベトナムでのコンプライアンス(特に不祥事)の問題が多いのか。

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ベトナムにおけるコンプライアンスの現状と課題 なぜベトナムでのコンプライアンス(特に不祥事)の問題が多いのか。


コンプライアンス 公開 2024年09月07日  I 更新 2025年01月20日
目次

ベトナムでは、コンプライアンス問題が依然として多くの企業課題となっています。本記事では、腐敗認識指数(CPI)に基づく現状分析や、利己主義や相対的関係が不祥事を引き起こす背景、管理体制の課題について解説します。

トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International、略称:TI)による2022年の腐敗認識指数(CPI)(注:これは、汚職や腐敗の進行度合いに対する認識のレベルを示す指数です)の調査結果によると、ベトナムは180カ国中77位にランクインしました。2015年頃の調査結果と比較すると、状況はかなり改善されました。しかし、国民全体の法律遵守への意欲やコンプライアンス意識が同じペースで高まっているわけではないと感じています。

また、『ベトナム人の性格について』という有名な本があります。その中には、『万引き』、『汚職』、『ずる賢さ』、『利己主義』などといったベトナム人の性格に関する記述があります。こうした背景がコンプライアンス問題にどのように影響しているかについて、法律の話から少し離れて、本稿で分析していきたいと思います。

 

01 - コンプライアンス違反や不祥事が発生する主な原因

 

コンプライアンス違反や不祥事が発生する主な原因は、以下の3つです。

          ①「動機(欲望、貪欲、上司や同僚への不満、待遇や業務に対する不満、利益団体からの圧力)

          ②  相対的な関係の存在

          ③  上記の①と②を助長する環境の存在

 

 

02 - 動機について

 

          利己主義について

『ベトナム人は利己的だ』という表現を聞いたことがあるでしょうか。もともとベトナム人の性格や習慣等を生み出したのは、封建時代でした。当時、ベトナムの伝統的な産業が農業で地主が農民を奴隷として使用し、たいした価値がないもののみ農民に与える状況でした。その後のフランス植民地、革命時代における農業協同組合の場合も、分配が平等に行われなかったです。そのため、当然ながら農民は、自分を使っている側への信頼を失い、共有財産をできるだけ自分のものにしたいと考えるようになりました。

残念ながらこのような背景の中でベトナム人は成長し、家族や学校教育の影響で現在もそのような考えが残っています。また、社会や雇用主、その他の公的団体や機関が基本的に国民を守ってくれないため、自分で自分を守るしかなく、自己優先的になり、周囲の人々に無関心になる傾向があります。

 

       対立的人間

歴史を見ますと、このベトナムができたのが中国の南にある一部の弱い民族が、中国本体にある北の人たちの支配から逃げ、南の方に移動してきたのです。封建時代には地主の下で奴隷として扱われ、その後はフランスなどの支配下に置かれ、さらに長期の戦争にも直面してきました。つまり、ベトナムが成立したのも、この国が維持されてきたのも、対立する国家の存在があったからです。ベトナムの人が団結できるのは、対立する敵がいるときです。それ以外の場合に、お互い団結して社会のことを一緒に解決するということはほとんどないと思われます。

こうした性格的な動機により、不祥事を引き起こす意識や意図の基本的な要素が形成されることが多いのです。

 

 

03 - 相対的な関係の存在

 

多くの外資系企業において、外国人とベトナム人との間で経済的な相反や情報の非対称性、管理権限の相対化といった相対的な関係が生じています。このような問題により、管理上の裏の体制(暗黙の行動)が形成される可能性が否定できません。しかし、このような環境があると、不祥事を引き起こす環境を作り出します。具体例を以下に挙げます。

     ①  出資者(会社の所有者)と従業員(経営者を含む)との関係

          ②   会社の管理者と業務担当者の関係

          ③   日本人管理者とベトナム人管理者の関係

このような問題があることによって、以下のような管理上の裏の体制(言葉にならず、暗黙での動き)になってしまう可能性を否定することができません。

このような状況によって、会社の生産過程の不良・不効率、労働環境の悪化、不祥事の発生を引き起こす主要な原因となります。

 

04 - 不祥事が発生しうる環境の存在

 

動機や相対的な関係が存在しても、厳しい環境があれば不祥事には至らないかもしれません。逆に、不祥事が発生しうる環境がたくさんあれば、不祥事が発生するはずです。この環境を支える要素としてこの4つのものがあります。

          ①   管理者の姿勢

  •       ベトナム人の性格は利己主義に近いですが、自分の意見・主張をあけすけにする勇気がありません。つまり、臆病で、自分より強い人に従う傾向もあります。そのため、会社のリーダーが十分な権限をもって、それをしっかり行使するれば、従業員に恐怖心が芽生えて従業員の不正行為をコントロールできるようになります。管理者が強い影響力を持つ(権威主義的なリーダーに近い)存在であれば、従業員はそれに従うことが多いです。強すぎるリーダーシップは、会社内部での創意工夫や責任の委譲に悪影響が出ることがありますが、製造業では管理者のリーダーシップが必要とされることが多いです。上司が優しすぎれば、部下はそれを利用して、隠れて色々やってしまうことが少なくないからです。
  •       ベトナム人労働者とのコミュニケーションが不足している管理者が多く見られます。信頼できると考える特定少数のベトナム人管理者だけと話をして、他の従業員を無視するケースもあります。そういった管理者は、多くの場合、ベトナム語やベトナムの文化を理解しようとしていません。そうなれば、ベトナム人従業員を含め社員全体に対して会社の理念や企業文化、管理者の思い等をに伝える機会も少なくなります。

 

            内部統制の整備・運営

よく発生する問題は、以下の通りです。

  •       内部規則・その他意思決定の整備が不十分であること
  •       会社全体の状況を踏まえて内部統制の仕組みを作るべきところ、内部統制体制の整備・運営をベトナム人管理者に任せてしまい、ベトナム人管理者は自らの都合と計算により、内部統制を運営する可能性があること
  •       権限が一部の管理者に集中されていること
  •       内部統制の仕組みやその運用実態を把握する機会や方法が不足していること

 

            不正への対応

よく発生する問題・状況は、以下の通りになります。

  •       不正に対する処分が適法・適正に行われていないこと
  •       業務の適正な実施に対するインセンティブ・制裁が十分に設計されていないこと
  •       コンプライアンスや不正防止策の運用に関するチェック・監査の仕組みがないこと

 

         ④   コンプライアンス等の教育

  よく発生する問題・状況は、以下の通りになります。

  •       法令や内部規則、その趣旨を従業員が十分に理解していないこと。
  •       教育の効果を確認するプロセスが十分でないこと。
  •       社内文化を浸透させる活動が少ないこと

 

ベトナムでのコンプライアンス問題は、企業運営における重要な課題の一つであり、その背景には歴史的、文化的、そして法制度の不備が影響を与えています。それらの原因を正しく理解することにより、効率なコンプライアンス対策を構築することができると思われます。適切な内部統制の整備、従業員との効果的なコミュニケーション、そして法令遵守教育の推進を通じて、不正行為の発生を抑え、企業文化を強化することが可能です。これらの取り組みは、ベトナム市場での長期的な成功を確実にするための基盤となります。企業は、リスクを最小限に抑えつつ、コンプライアンスを競争優位の要素として活用することが求められます。

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