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01 - 就業規則とは何か?法令上、必ず含まれる主要項目とは? |
就業規則とは、企業内での労働条件や秩序を定めた社内規定のことです。労働法や関連法規の枠内で、使用者(企業)が定め、労働者(従業員)に周知すべき規則です。
ベトナム法では、就業規則に必ず含めるべき主要な項目が具体的に規定されています。主な内容は以下のとおりです。
- 労働時間・休憩時間(勤務時間、休憩・休日、シフト勤務などに関する規定)
- 職場における秩序(勤務先での遵守事項や行動規範)
- 労働安全衛生・防火に関する規定(安全衛生対策や火災防止策、保護具の使用方法など)
- 職場におけるセクシュアルハラスメントの防止と対処手続(職場での性的嫌がらせ防止規定、及び発生時の処理手順)
- 企業の資産・秘密情報の保護(財産、営業秘密・技術秘密、知的財産の保護に関する規定)
- 雇用契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合(労働者を一時的に他の職務に配置転換できる場合や条件)
- 懲戒の対象行為と処分の形式(労働者の違反行為の種類及び適用する懲戒処分の種類)
- 物的損害に対する従業員の賠償責任(従業員が企業に損害を与えた場合の賠償責任に関する規定)
- 懲戒処分を行う権限者(誰が懲戒処分を決定・実施できるかの権限)
以上のように、労働時間・休暇から懲戒処分まで網羅した詳細な規定を就業規則に盛り込む必要があります。これらの内容はベトナム労働法2019年第118条及びその細則となる政令145/2020/NĐ-CPで規定されており、就業規則が法令に適合した内容であることが求められます。万一、法に反する内容が含まれていると登録が認められません(後述)。
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02 - すべての企業が就業規則を作成・登録しなければならないのか? |
就業規則の作成・登録義務はすべての企業に一律に課されているわけではありません。
ベトナム労働法第118条1項によれば、常時10名以上の労働者を使用する企業は、就業規則を書面で作成しなければならない、また、この就業規則は所轄の労働管理機関への登録が必要になります。
一方、10名未満の場合、必ずしも別途の就業規則を文書化する必要はなく、代わりに雇用契約書の中で労働条件や懲戒・賠償責任について取り決めることが想定されています。ただし、10名未満企業であっても任意に就業規則を別途制定することは可能であり、制定した就業規則を労働管理機関に登録することも任意ですが、登録しなくてもその規則は企業内で有効とされています。
まとめると、「従業員が10名以上」の場合は就業規則を書面作成し労働管理機関に登録することが必須となり、それ未満の場合は法定の義務ではないということです。貴社の従業員規模に応じて、就業規則の整備義務があるかご確認ください。
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03 - 就業規則の登録手続きの流れ(4ステップ) |
ベトナムで就業規則を登録する際は、以下のステップに従います。
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04 - 登録しなかった場合の行政処分・制裁・リスク |
法律で登録義務が定められている場合、就業規則の未登録という事態になったとき、企業は以下のような行政処分やリスクに直面します。
- 行政処分(罰金等): 就業規則を作成すべき企業が就業規則を作成していない場合又は作成した就業規則を所定の当局に登録していない場合、各行為につき10,000,000~20,000,000VNDの罰金が科されます。また、就業規則を全従業員に周知しなかった場合、または職場の必要な場所に主要な内容を掲示しなかった場合は、2,000,000~6,000,000VNDの罰金が科される可能性があります。(政令12/2022/NĐ-CP第19条1及び2項)
- 労務管理上のリスク: 登録義務を持っている企業にとって、労働法の規定上、登録を経ていない就業規則は正式に発効していない状態となります。これにより、企業が就業規則に基づいて従業員を懲戒処分しようとしても、その懲戒の有効性が法的に担保されないリスクがあります。たとえば、従業員を重大な違反で降格する場合でも、就業規則が未登録だと、その降格理由が社内規則違反であることを法的に主張しにくくなり、労働争議になった際に企業側が不利になる可能性があります。
- 信頼・コンプライアンス上の問題: 就業規則の未登録は、企業のコンプライアンス体制の不備と見なされかねません。労働当局の調査や監査で指摘を受けると、企業イメージの低下や是正勧告につながります。特に日系企業の場合、現地従業員や取引先から「日本企業なのにベトナムの労働法を順守していない」と捉えられると信頼関係に影響します。現地の法令遵守は企業の社会的信用を守る上でも重要です。
以上より、従業員が10名以上いる企業は必ず就業規則を作成し、労働当局への登録を適切に行うことが肝要です。万が一登録を怠った場合は速やかに是正手続きを行いましょう。また、登録完了後も定期的に就業規則の内容を見直し、法改正(例えば労働法や政令の改定)や実態に合わせて必要な改定・再登録を行うことが望ましいです。就業規則の整備と適切な運用は、労使双方の権利義務を明確にし、トラブルを防止するための重要な土台となります。