公開 2024年12月27日  I 更新 2025年03月08日

ベトナム進出企業必見!コンピュータープログラム保護と知的財産戦略の全貌

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ベトナム進出企業必見!コンピュータープログラム保護と知的財産戦略の全貌


知財 公開 2024年12月27日  I 更新 2025年03月08日
目次

税関優遇措置や若年層の質の高いIT人材を活かし、ベトナムはソフトウェア開発分野で日本の投資家はじめ、外国投資家にとって魅力的な投資先となっています。この最近、IT分野における日本企業も多数進出し、ベトナムで活発に活動しています。ソフトウェアという無形資産の特性上、この分野は知的財産法規制と密接に関わっています。 本稿では、ベトナムでソフトウェア開発に携わる日本企業が現行の知的財産法に準拠し、リスクを回避するための実務的な法的知識と注意点を詳しく解説します。

01 - 日本とベトナムにおけるコンピュータプログラム保護制度の重要な違い

 

ベトナムで事業を展開する日本企業(特にIT企業)にとって、コンピュータプログラムの保護制度に関して、日本法とベトナム法の間にある根本的な違いを理解することについて注意する必要があります。具体的に、日本や欧州連合(EU)などの一部の国では、コンピュータプログラムが著作権特許の両方で保護されます。しかし、ベトナムの現行知的財産法では、コンピュータプログラムは著作権としてのみ保護されています。

ベトナム法の特徴として、コンピュータプログラムはソースコードや機械コードの形式を問わず、文学作品として認識され、保護の対象となります。一方で、特許としての保護は明確に除外されています。このような領域特有の規定により、日本では特許として登録可能なコンピュータプログラムも、ベトナムでは同じ保護を受けることができません。

注意点:

  • 日本とベトナムでの保護制度の違いを理解することで、知的財産の適切な管理と戦略的な対応が必要となります。
  • 特にベトナム市場におけるコンピュータプログラムの著作権保護は、日本やEUと比べれ、若干異なっていますが、著作者を保護されるだけでも、権利として保護され、かつ企業の競争力を維持するための重要なポイントとなります。

 

02 - ベトナムでのコンピュータプログラムの著作権登録:義務ではないが推奨される

 

ベトナムでは、日本を含む多くの国々と同様に、コンピュータプログラムを含む著作物の著作権は、その作品が創作され、特定の形で固定された瞬間に自動的に発生します。この権利は、内容、品質、形式、使用言語、公開の有無、登録の有無にかかわらず保護されます。言い換えれば、コンピュータプログラムはベトナムにおいて、特定の登録手続を経ずとも自動的に保護の対象となります。

しかし、実際の運用においては、コンピュータプログラムを作成した際に著作権登録を行うことが強く推奨されます。理由として、著作権をめぐる紛争が発生した場合、ベトナムの裁判所や管轄機関は、まず登録された著作権証明書を所有している側に有利な判断を下す傾向があるからです。この証明書を持たない場合、真の著作権者であったとしても、自らの権利を証明するために多大な時間と労力を要する可能性があります。

さらに、ベトナムではソフトウェアの著作権侵害率が非常に高く、2017年の公式調査では70%以上とされ、世界でもトップクラスの水準にあります。このような状況下では、著作権登録は知的財産を保護し、法的リスクを回避するための賢明な戦略となります。著作権登録の手続きはベトナムの著作権局で行われ、必要書類が揃っていれば平均2か月程度で完了します。手続きの費用も安価で、商標や特許など他の知的財産権の登録に比べて迅速かつ経済的です(商標や特許は通常24年かかる場合があります)。

著作権登録の主な利点:

  1.  紛争時の優位性: 著作権証明書は、権利を証明するための重要な証拠となります。
  2.  企業価値の向上: 登録は顧客に対する企業の信頼性を高め、競合他社に対する優位性を確立します。
  3.  M&Aでの活用: 登録されたプログラムは、企業価値を高め、買収や資本提携の際に強力な資産となります。
  4.  ライセンスや譲渡の基盤: 著作権登録は、ライセンス契約や譲渡の際に法的基盤として機能します。

 

03 - コンピュータプログラムの著作権者は誰か?

 

ベトナムでのソフトウェア開発事業を支えるために、多くの日本企業は、優秀なベトナム人技術者を雇用しています。この雇用形態は、労働契約、業務委託契約、または専門家によるノウハウ提供契約の形で行われることが一般的です。ベトナムの知的財産法では、コンピュータプログラムを直接作成した技術者は「著作者」として認められ、プログラムに関連する人格的権利(命名権や著作者名の表示権など)が法的に保証されます。

一方で、ベトナムの知的財産法は、「特別な合意がない場合」、創作の任務を与えた雇用者や契約者が著作権の「所有者」として認められると規定しています。具体的には、次のケースが該当します:

  • 労働契約: 雇用者が従業員に創作の指示を与えた場合。
  • 業務委託契約/専門家によるノウハウ提供契約: 企業が個人にソフトウェア開発を委託する場合。

この規定に基づき、例えば日本企業がベトナム人技術者と労働契約や業務委託契約を結び、その技術者が開発したコンピュータプログラムについては、日本企業が著作権の所有者として認められます。また、所有者として以下の重要な財産的権利を保持します:

  • 公表権: プログラムを公開する権利。
  • 配布権: プログラムを配布または販売する権利。
  • 貸与権: プログラムをリースまたは貸し出す権利。

実務上のポイント:

  • 契約書には著作権の所有権に関する明確な規定を含めることが推奨されます。
  • 著作権の帰属が曖昧な場合、紛争のリスクが高まるため、契約段階での法的な準備が重要です。

 

04 - コンピュータプログラムの改修・アップグレードに関する法的留意点

 

ベトナムの現行知的財産法では、著作者はその作品の「完全性」を保護する権利を持ち、他者による改変や修正を認めないと規定されています。しかし、この規定はコンピュータプログラムには必ずしも適合しません。なぜなら、ソフトウェアは企業や顧客の実際の課題を解決するために開発されるものであり、完成後も現実の変化に対応するため、エラー修正、機能追加、バージョンアップが必要になるケースが多いからです。この規定をそのまま適用すると、プログラムが時代遅れとなり、競争力を失う恐れがあり、また所有者の経済的価値の活用を制限する可能性があり、そもそも著作権として保護されることと実態が一致しないことが発生します。

この課題を解決するため、ベトナムの2022年改正知的財産法では、コンピュータプログラムに関する新たな規定が導入されました。具体的には、著作者と著作権所有者が文書による合意を行えば、プログラムの修正やアップグレードが可能となります。この規定により、所有者は著作者の人格権を侵害することなく、プログラムをアップデートできるようになります。重要なポイントは、この合意が文書によって正式に締結される必要があることです

実務上の提案:
ベトナムでソフトウェア開発を行う日本企業は、以下の点を考慮し、文書による合意を早期に準備することが推奨されます。

  1. 契約の明確化: 労働契約、業務委託契約、専門家によるノウハウ提供契約に、プログラムの改修・アップグレードの権利を含む条項を追加します。
  2. 契約締結のタイミング: 合意は可能な限り早期(雇用関係の開始時やプロジェクト開始前)に締結することが重要です。
  3. 長期的な視点: プログラムを開発した従業員が他企業、特に競合企業に転職した場合、このような合意を得るのは非常に困難です。そのため、契約内容を事前に固めることがリスク回避の鍵となります。

 

ベトナムでのコンピュータープログラムの保護に関する法律と実務の理解は、日本企業にとって競争力を維持し、リスクを回避する鍵となります。著作権登録、契約の明確化、アップグレードの権利交渉など、具体的な対応策を講じることで、知的財産を最大限に活用できます。本記事で紹介した実践的なポイントを活用し、ベトナム市場での成功を手にしてください。

 

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