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01 - ベトナムにおけるM&Aの現状と日本企業の関与 |
近年、ベトナムは外国投資家にとって有望なM&A(買収・合併)の進出先として注目を集めており、日本企業はその中でも主要なプレイヤーの一つとなっています。RECOF社のデータ(recof.co.jp)によると、2014年を除き、過去10年間にわたり、ベトナムは日本企業によるM&A案件数で東南アジアのトップ3に常にランクインしています。
このように高まる関心とビジネスチャンスの一方で、実務上の大きな課題となっているのが、ベトナムにおけるM&A手続きの煩雑さです。複数の調査結果においても、行政手続きの複雑性は、外国投資家にとって最大の投資リスクの一つとして挙げられています。
円滑なM&Aを進めるためには「法令理解」と「実務対応力」が鍵
日系企業がベトナムでM&Aを成功させるためには、ベトナム法令の体系的理解に加え、実務上のボトルネックや申請プロセスの落とし穴への具体的な対応策を知ることが重要です。
以下では、当職が日系クライアントを多数支援した経験をもとに、ベトナムM&A実務において特に注意すべきポイントを分かりやすくご紹介いたします。
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02 - M&Aにおける投資登録手続と外資規制の確認ポイント |
M&A(出資・株式譲渡・持分取得)を検討する外国人投資家は、まず第一に、当該取引が「M&A承認(出資・株式取得承認)」の対象に該当するかどうかを確認する必要があります。
これは、ベトナム投資法2020年第26条第2項に基づき、以下のいずれかに該当する場合、事前に投資登録を行わなければ、株主・出資者の変更が認められないためです。
✅ 外国人投資家が投資登録義務を負う3つのケース
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上記3つのいずれにも該当しない場合、外国人投資家は事前の投資登録を省略し、企業法に基づく株主・出資者の変更登記のみで手続きを完了します。
⚠ 実務上の留意点:区別が曖昧なケースに注意
ただし、実際には「外国人持株比率」や「土地の所在地」「事業内容の分類」などが明確に判断できないケースも多く、本来登録が必要な取引を見落としてしまうリスクもあります。
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03 - ベトナムM&A手続における実務上の課題 |
法令上、M&Aに関する手続は比較的明確に定義されていますが、現場では法解釈や運用が地域や担当官によって異なるケースも多く、日系企業を含む外国人投資家が実務上の混乱に直面することが少なくありません。
以下に、特に注意すべき代表的な実務上の課題とその対応策をまとめます。
① 規定と地方実務の乖離
法律上、M&A承認不要とされる取引でも、地方の管轄機関によっては「事前承認」を求められるケースが存在します。
📌 事例: 外資100%企業が、40%の持分を他の外国投資家へ譲渡するケースでは、持株比率に変動がないため、本来は承認不要です。しかし、実務上は一部の地方でM&A登録を要求されることがあります。
② 手続の主体に関する誤解
投資法第26条第2項では「外国人投資家が登録する」と記載されているため、実務では「外国投資家自身が申請者である」と誤解されるケースが多く見られます。
📌 正しい解釈: 政令31/2021/NĐ-CP に基づくと、申請主体は「外国人出資を受けるベトナムの企業」となります。
つまり、ベトナムの対象企業が、外国人の出資・株式取得に対する承認申請を行う必要があります。
③ 書類の形式と「原則合意書」に関する実務的な問題
基本的な提出書類は、出資登録申請書、各当事者の法人書類、合意文書等ですが、「M&Aに関する合意文書」の形式に関して、行政側の期待と実務が乖離する場面があります(ハノイや、ホーチミンの当局機関は、基本的に理解しているのですが、地方の当局機関は、かなり固いです)
📌 ある案件では、すでに最終的な株式譲渡契約(SPA)を締結し、それを添付書類として提出しようとしますが、管轄機関が「正式契約は時期尚早」として受理を拒否する事例があります。
④ 審査期間とスケジューリングの課題
法律上、審査期間は15営業日と定められていますが、実際にはそれを超過する事例も多く見受けられます。
特に、以下の場合は審査機関が追加の照会を行うため、期間が延びる傾向にあります:
- 対象企業が**敏感地域(土地が国防・安全保障上の重要エリア)**に土地使用権を有している
- 投資対象が条件付き業種に該当する
📌 これらのケースでは、管轄機関が公安省や国防省に照会を行い、その回答が出るまで審査が保留されることがあるため、結果として20営業日以上かかるケースもあります。
※ダナンや、その周辺の省でのM&A承認手続の際に、必ず管轄機関から公安に、書類を提出して、公安からの精査を受けてから、その結果に基づき、M&Aの承認を判断することになります。そのため、ダナンやその周辺の省でのM&A承認を行う際には、必ず余裕のスケジュールを立つ必要があります。
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04 - 日系企業向け:ベトナムM&A手続きを成功に導くための実務的アドバイス |
ベトナムにおけるM&Aをスムーズに進めるためには、法令だけでなく、実務慣行や現地文化への理解も不可欠です。以下は、日系企業が検討すべき具体的な対応策です。
① 法令・市場環境のリサーチを徹底する
M&Aを行う前に、対象企業の業種が外国投資家にとって条件付きの分野に該当するかどうかを確認することが重要です。
例えば、銀行・保険・通信等の特定業種では「追加許認可」や「地場パートナーとの協業義務」などの条件が課されることがあります。
M&Aは投資法・企業法に加え、場合によっては以下の法律も関係するため、包括的に検討すべきです:
- 競争法(2018年版): 大型取引では事前に独禁法上の審査が必要な場合あり
- 土地法: 不動産を所有する企業への出資により、土地の使用目的や所有構成が変わる場合の影響を要検討
➡ 事前にこれらの条件を把握し、最適な出資構成・契約スキームを構築することが、後々のリスクを最小化すべきです。
② 書類準備を正確に、万全に行う
言語や文書制度の違いにより、**日本側が誤解しやすいのが「申請書類の整備」**です。
➡ 書類不備は再提出を招くため、初回から正しい書式で提出することが時間短縮に直結します。
③ 現地パートナー・当局と早期に連携する
行政手続きは地方差が大きく、「同じ法律でも解釈が異なる」場合があります。そのため、出資先のベトナム企業や現地担当者と連携し、管轄機関と事前に協議を行うことが効果的です。
➡ 文書による問い合わせや訪問相談を通じて、行政の期待値や必要書類を明確化し、不要な誤解を防ぐことができます。
④ 信頼できる現地法務パートナーを活用する
法律の違い・言語の壁を越えるには、経験豊富なベトナム現地の弁護士・法務顧問をパートナーにすることが有効です。
- 書類の作成・翻訳・提出サポート
- 管轄官庁との交渉・意見照会
- 他案件の実例からのノウハウ共有(例:審査官の傾向、非公式な運用ルールなど)
日系企業がベトナムでM&Aを成功させるために ベトナムは、成長性の高い新興市場として多くのビジネスチャンスを提供する国です。 ただし、制度的な壁や手続きの煩雑さを乗り越えるには、以下が不可欠です: 📌 法令・実務の理解 📌 現地パートナー・行政との信頼関係の構築 📌 リーガルアドバイザーとの連携による適切な実務運営 ➡ これらの対応が、確実で円滑なM&A実行と、長期的なビジネス成功の土台を形成します。 |