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01 - 首相承認が必要な投資案件の見直し(第31条) |
2025年7月1日から施行される改正投資法において、首相による投資方針承認が必要なケースについて、複数の重要な修正・削除が加えられました。以下はその主な変更点です:
① 港湾建設プロジェクトに関する変更
従来の第31条d項は、すべての港湾区画の建設プロジェクトを対象としていましたが、以下のように修正されました:
「特別港または第一級港に属する港湾区画で、投資規模が2兆3,000億VND(約9,000万USD)以上の新規建設プロジェクト」
これにより、2025年以降は、特別港に属する大規模プロジェクトのみが首相承認の対象となります。
② 世界遺産区域に関する制限の緩和
g1項の修正により、文化遺産保護法に基づき特別国家遺産に指定されている世界遺産区域内での投資プロジェクトについて、次のように変更されました:
「保護区域I(最も厳重に保護される中心部)に位置するプロジェクトに限り、規模に関係なく首相の承認が必要」
これにより、保護区域II(周辺保護エリア)に位置する案件は承認不要となります。
③ 工業団地・輸出加工区のインフラ開発プロジェクトの承認撤廃
以下の規定が削除されました:
「工業団地、輸出加工区のインフラ開発および事業運営プロジェクト」
2025年7月以降は、この種のプロジェクトについては首相の投資方針承認は不要となります。
実務への影響 |
このような見直しにより、大規模・戦略的なインフラ投資に対する国の関与は維持しつつも、民間投資の迅速な意思決定を促す仕組みが整備されたと言えます。 特にFDI企業にとっては、承認プロセスの簡素化によってプロジェクトの立ち上げ速度が向上することが期待されます。 |
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02 - 省人民委員会による投資方針承認の対象拡大と分権化の推進 |
2025年7月の改正投資法により、一部の投資プロジェクトについて、中央政府(首相)から地方政府(省レベル人民委員会)への承認権限の移管が行われました。これにより、プロジェクト承認に要する期間が短縮され、企業の投資実行がよりスムーズになると期待されています。
追加された承認対象(省人民委員会の権限) |
改正法では、以下のプロジェクトが新たに省人民委員会の投資方針承認の対象として明記されました:
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投資承認権限の分権化による実務的メリット |
これまで、上記のような中規模プロジェクトであっても、首相の承認が必要とされており、手続きに多大な時間と行政コストが発生していました。今回の改正により、これらの案件は地方レベルで承認できるようになり、以下のようなメリットが得られます。
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経済的・戦略的意義 |
工業団地・輸出加工区および港湾開発は、いずれも地域経済や国際物流にとって戦略的な位置づけを持つプロジェクトです。
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これらの承認権限が地方に移管されることで、各地方政府はより柔軟かつ戦略的な投資誘致・パートナー選定が可能となり、外資誘致の競争力が一層高まると考えられます。
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03 - 特別投資手続制度の新設:ハイテク・スタートアップ・外資系企業に追い風(第36a条) |
改正投資法(第36a条)により、一部の戦略的分野・地域において、従来の投資手続を大幅に簡略化する「特別投資手続制度」が導入されました。
3.1. 対象となる地域・分野
この制度は、以下のような経済特区・産業集積エリアにおけるハイテクプロジェクトに適用されます。
- 適用エリア:工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中情報技術区、自由貿易区、経済区内の特定機能区域
- 対象分野:
- イノベーションセンター、R&Dセンター
- 半導体(チップ、IC、PE)、電子材料、先端部品の製造
- 政府が指定するハイテク産業における製品の製造
3.2. 制度の概要:15営業日で投資登録完了
この制度の大きな特長は、一連の面倒な投資前手続をスキップできる点にあります。具体的には、以下の手続きが不要となります。
- 投資方針の承認
- 技術評価・審査
- 環境影響評価報告書(EIA)の提出
- 詳細建設計画の立案・建築許可取得
- 消防審査など建設関連認可手続
代わりに、定められた投資登録申請書を提出するだけで、15営業日以内に投資登録証明書(IRC)が発行されます。
IRCの発行後は、そのまま土地賃借・土地利用目的変更の手続きにも活用可能であり、別途の行政手続は不要となります。
スタートアップ・外資系企業にとってのメリット |
この制度は、特に以下のような企業にとって大きな追い風となる制度改革です。
企業は時間・コスト・法的リスクを最小化しながら、スピーディにプロジェクトを開始可能となります。 |
ただし、「事後チェック」は必須
この制度においても、すべての規制が免除されるわけではありません。プロジェクト開始前には、以下の提出が義務づけられます。
- 投資建設に関する「経済・技術報告書」
- 報告書に対する「技術審査結果」
したがって、制度の利点を最大限活かしつつ、実務面でのコンプライアンス管理も重要です。
この「特別投資手続制度」は、ベトナム政府のハイテク分野・イノベーション支援政策の一環として設けられたものであり、FDI誘致・スタートアップ育成の基盤整備として今後ますます活用が広がると予想されます。
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04 - 条件付き投資・事業分野の追加:無人航空機とデータ関連事業が対象に |
2025年改正投資法では、国家の安全保障やデジタル経済の観点から新たに6つの事業分野が「条件付き投資・事業分野(conditional business sectors)」として追加されました。これらの分野では、事前の許可・ライセンス取得や特定の基準への適合が求められます。
以下は、今回新たに追加された6つの条件付き分野です。
番号 |
追加された分野の名称 |
概要 |
1 |
無人航空機・その他の飛行機、航空エンジン、プロペラ、関連装備品の輸入、仮輸出入 |
無人機・空飛ぶ乗り物の国際流通に関する事業 |
2 |
上記機器の販売・リース・商業的運用 |
民間用・商業用ドローンビジネス等を想定 |
3 |
上記機器の研究開発・試験・整備・修理 |
航空機関連の製造・保守・技術サービス事業 |
4 |
データ仲介製品・サービスの提供 |
データブローカー、API提供、連携支援など |
5 |
データ分析・統合製品・サービスの提供 |
ビッグデータ解析、BI(Business Intelligence)系事業 |
6 |
データプラットフォーム(データ取引所)の運営 |
データ流通市場の運営、第三者提供事業など |
なぜこれらの分野が対象になったのか?
これらの業種は、国家安全保障、航空技術、AI・ビッグデータなどの重要産業に関わるため、今後のリスク管理や技術統制の一環として条件付きとされました。
とくにドローン関連事業とデータエコノミー関連事業は、外資企業の参入が多く見込まれる分野でもあるため、制度面での透明性・健全性の確保が急務となっています。
実務上のポイント
- 上記分野で事業を行う場合、関連する専門法やガイドラインを満たす必要があり、個別の事前認可・申請が必要になる可能性があります。
- 外資系企業やスタートアップは、事業登録(ERC)や投資登録(IRC)前に当該分野が条件付きであるかを確認し、専門家や、関係官庁との事前相談を推奨します。