公開 2025年05月07日  I 更新 2025年05月07日

ベトナムにおける国際離婚の手続き完全ガイド|解決期間・費用・財産分与まで徹底解説

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナムにおける国際離婚の手続き完全ガイド|解決期間・費用・財産分与まで徹底解説


個人法務 公開 2025年05月07日  I 更新 2025年05月07日
目次

ベトナムでの国際離婚に必要な手続き、解決までの期間、裁判費用、財産分与のルールを詳しく解説。実務上の注意点も紹介します。

離婚とは、裁判所の法的効力を有する判決または決定によって、正式に夫婦関係を終了させる手続きを指します。

その中でも「国際離婚」(外国要素がある離婚)とは、配偶者の一方または双方が外国籍である場合や、当事者が外国に居住している場合に発生する離婚案件を指します。国際離婚は、国内離婚に比べて手続きが複雑であり、適用される法律や手続きもケースバイケースで異なります。

 

01 - 国際離婚とは?

 

ベトナムの「2014年婚姻家族法」第127条により、国際離婚とは以下のケースを指します。

  • ベトナム人と外国人との離婚
  • 外国人同士によるベトナム国内での離婚
  • ベトナム人同士であるが、外国法に基づき成立・変更・終了した婚姻、または国外に関連資産がある場合の離婚

また、同条第2項および第3項では、適用される法律の選択基準についても規定されています。

 

02 - 国際離婚に適用される法律

 

国際離婚では、以下の基準により適用法が決まります。

  • 夫婦ともにベトナム国籍だが、国外に常居所がある場合:その居住国の法律に基づき離婚を解決
  • 共通の常居所がない場合:ベトナム法に基づき離婚を解決
  • 国外に共同所有不動産がある場合:不動産所在地国の法律に基づき財産問題を解決

ベトナム法は、各国の法律や国際私法の原則を尊重しながら、個別事情に応じた法適用を認めています。

 

03 - 国際離婚に関する具体例

 

以下、典型的なケーススタディを挙げて解説します。

例(1

  • ABはいずれもベトナム国籍
  • ベトナムで結婚登録(または結婚記載)済み
  • 現在、日本に居住中

ベトナムの裁判所で離婚手続き可能

【適用法】日本法(日本の民法)

 

例(2

  • Aはベトナム人、Bは日本人
  • 両者ともに日本に居住中
  • ベトナムで結婚登録(または結婚記載)済み

ケースにより、ベトナムまたは日本いずれかで離婚手続きが可能(居住地や双方の合意による)
【適用法】状況により日本法またはベトナム法

 

例(3

  • Aはベトナム人、Bは日本人
  • 両者が異なる国に居住
  • ベトナムで結婚登録(または結婚記載)済み

ベトナムの裁判所で離婚手続き可能
【適用法】ベトナム法

 

例(4

  • Aはベトナム人、Bは日本人
  • 両者が異なる国に居住
  • ベトナムで結婚登録(または結婚記載)済み
  • 共同所有する不動産が日本に存在

ベトナムの裁判所で離婚手続き可能
【適用法】

  • 婚姻関係・子どもに関する事項:ベトナム法
  • 財産分与に関する事項:日本法(不動産所在地法)

 

04 - 国際離婚における管轄裁判所(ベトナム法)

 

ベトナムにおける国際離婚の手続きでは、どの裁判所が管轄を持つかが非常に重要なポイントとなります。この点について、2015年民事訴訟法第469条および第470に基づき、以下のように定められています。

4.1原則:省レベル人民裁判所の管轄

外国要素を含む離婚事件(国際離婚)は、基本的に省レベル(Tỉnh)人民裁判所(Tòa án nhân dân cấp tỉnh)が管轄します。
具体的には、以下のようなケースが対象となります。

  • ベトナム人と外国人との離婚
  • 外国人同士の離婚(ベトナムでの手続き)
  • 国際要素を伴う財産分与、親権に関する争いを含む場合

省レベル人民裁判所が第一審裁判所として審理を行います。

 

4.2.  例外:郡レベル人民裁判所の管轄となる場合

以下の特定条件を満たす場合には、郡レベル(Huyện)人民裁判所(Tòa án nhân dân cấp huyện)が管轄することになります。

  • 当事者(夫婦)および財産がすべてベトナム国内に所在し、国際司法共助(司法共助手続き)が不要な場合
  • 国境地域における特例
    ベトナム人が国境地域に居住しており、同じく国境地域に居住する外国人との間で以下を求める場合:
    • 非合法な婚姻の取消し
    • 離婚
    • 夫婦間または親子間の権利義務に関する争い
    • 養子縁組または後見に関する争い

これらの場合、当事者のベトナム人の居住地を管轄する郡レベル人民裁判所が管轄裁判所となります。

 

05 - 国際離婚(一方離婚又は裁判離婚といいます)の流れ

 

国際離婚のうち、単独離婚請求(いわゆる一方的離婚)の場合、ベトナムでは以下の5つのステップを踏んで手続きが行われます。

 

ステップ1:必要書類の準備

国際離婚を申請する際に必要な書類は以下の通りです。

  • 国際離婚申立書
  • 夫婦双方のパスポート、ベトナム国民IDカード(CMND/CCCD)、住民登録簿(ホーカウ)の認証コピー
  • 結婚登録証明書の原本
    • 紛失している場合は、権限ある国家機関による認証コピーを提出し、訴状に詳細な事情を記載
    • 海外で結婚登録を行った場合は、結婚登録の記載手続きを完了させる必要あり
  • 子どもがいる場合は出生証明書のコピー
  • 夫婦の財産権を証明する資料(財産争いがある場合)
  • 一方が海外に出国して居所不明の場合の、地元行政機関からの証明書
  • 外国で結婚登録を行ったがベトナムで離婚する場合
    • 結婚登録証の領事認証
    • 司法局での結婚記載手続きが必要
    • 記載手続きを行っていない場合は、訴状にその理由を明記すること

 

ステップ2:裁判所への申立て

必要書類を準備した後、以下の裁判所に申立てを行います。

  • 単独離婚の場合:被告(相手方)の居住地を管轄する省レベル人民裁判所(Tòa án nhân dân cấp tỉnh

 

ステップ3:裁判所による申請内容の審査

申立書が受理されると、裁判所は以下の対応を行います。

  • 書類の適法性・完全性について8営業日以内に審査
  • 問題がなければ、訴訟費用(裁判費用・手数料)の仮納付通知書を発行
  • 通知を受けた側は、5営業日以内に仮納付を行う必要があります

その後、裁判所は正式に事件受理の決定通知を発行し、検察院および被告に通知します。

 

ステップ4:訴訟費用(裁判費用・手数料)の仮納付

  • 原告は、執行局(Chi cục Thi hành án dân sự)で訴訟費用を仮納付し、仮納付の領収書を裁判所に提出します。
  • 時間的制約がある場合には、弁護士への委任によって仮納付手続きを代行することも可能です(委任状には認証手続きが必要)。

 

ステップ5:裁判手続きの開始と判決

  • 裁判所は、必要な手続を経た後、口頭弁論を開き、証拠と主張を精査します。
  • 関係者は、裁判所で自らの主張や証拠を提出・説明する機会が与えられます。
  • 裁判所は、国際要素を含む複雑な事情も考慮し、財産分与、親権、子の養育費などの問題も併せて審理します。

判決の効力発生時期について(重要な注意点)

国際離婚に関する判決は、裁判所によって言い渡された時点では、直ちに法的効力を持つわけではありません。
ベトナムの民事訴訟法に基づき、以下のような控訴期間が設けられています。

  • ベトナム国内に居住する当事者:判決書送達日から15日以内に控訴可能
  • 国外に居住する当事者:判決書送達日から30日以内に控訴可能

この控訴期間内にいずれの当事者からも控訴が提起されなかった場合、判決は正式に確定し、法的効力が発生します。

よって、判決が下された後も、控訴期間が経過し、正式に確定するまでの間は、離婚が法的に成立したとはみなされませんので注意が必要です。

 

06 - 外国人配偶者との協議離婚手続き(ベトナム法)

 

外国人配偶者との協議離婚は、以下の5つのステップを経て進められます。

 

ステップ1:必要書類の準備

外国人配偶者との協議離婚に必要な書類は以下の通りです。

  • 外国人との協議離婚申請書(夫婦双方が署名すること)
    • 協議が成立しない場合は、単独離婚申立書を作成
  • 結婚登録証明書の原本(紛失の場合は、公的機関が認証したコピー)
    • 海外で結婚した場合は、司法局で結婚記載手続きを完了させること
  • 夫婦双方のパスポートまたはベトナム国民IDカード(CMND/CCCD)の認証コピー
  • 住民登録簿(ホーカウ)または一時滞在証明書/滞在カードのコピー
  • 子どもがいる場合は出生証明書のコピー
  • 財産共有および債務に関する証拠資料(財産紛争がある場合)
  • 一方配偶者が国外にいることを証明する資料(該当する場合)
  • その他関連資料

注意:国外機関が発行した書類については、領事認証(合法化)手続きが必要です。

 

ステップ2:裁判所への申請

  • 申請者(原告)のベトナム国内の戸籍登録地を管轄する省レベル人民裁判所(Tòa án nhân dân cấp tỉnh)に提出します。
  • 書類提出は、郵送または代理人(弁護士・知人)による直接提出が可能です。

 

ステップ3:裁判所による審査・受理

  • 申請受領後、裁判所は8営業日以内に管轄および申請書の適法性を審査します。
  • 問題がなければ、訴訟費用(手数料)の仮納付通知書を発行し、原告に5営業日以内の納付を求めます。
  • 仮納付が完了すると、裁判所は正式に事件を**受理(案件登録)**し、解決に向けた手続きを開始します。

時間に余裕がない場合、仮納付やその他の手続きを弁護士に委任することが可能です(委任状には公証が必要)。

 

ステップ4:裁判所による協議離婚の審理(和解手続き)

  • ベトナム法においては、離婚時の和解手続きは原則として義務とされています。
  • ただし、一方または双方が正当な理由で出廷しない場合、和解手続きは省略され、裁判所は審理を続行します。

 

ステップ5:協議離婚認定決定の発行

  • 裁判所は、必要な審理手続を経て、協議離婚認定決定(Quyết định công nhận thuận tình ly hôn)を発行します。

判決の効力発生時期について(重要な注意点)上記の通り

 

07 - 国際離婚における解決期間

 

国際離婚における裁判所の解決期間は、離婚の種類や各案件の具体的な事情によって異なります。一般的な目安は以下の通りです。

  • 協議離婚(外国人を含む場合):約34か月
  • 単独離婚(外国人を含む場合)
    • 第一審(初審):約46か月
    • 被告の不在、財産争い、親権争いがある場合はさらに延長されることがあります。
    • 控訴審(第二審):約34か月(控訴がある場合)

被告が国外に居住している場合

  • 司法共助手続き(国際送達)が必要となるため、解決まで約24か月以上かかるケースもあります。

実務上の留意点

  • 上記期間はあくまで目安であり、案件の複雑さ、被告の所在、資産・子どもの争いの有無によって大幅に変動する可能性があります。

 

08 - 国際離婚における裁判費用・手数料(ベトナム)

 

ベトナムでは、国際離婚に関する裁判費用は以下の通り規定されています(根拠:2016Nghị quyết số 326/2016/UBTVQH14)。

裁判費用の基本

  • 協議離婚(外国人を含む場合):300,000VND
  • 単独離婚(外国人を含む場合):300,000VND
  • 財産争いを伴う場合:
    • 基本費用300,000VND 財産価値に応じた追加費用
    • 財産価額6,000,000VND以上の場合、追加手数料が発生します。
  • 司法共助手数料(国外送達):200,000VND

財産価額別の追加費用

  • 6,000,000VND未満:300,000VND
  • 6,000,000400,000,000VND:財産額の5%
  • 800,000,0002,000,000,000VND36,000,000VND+超過部分の3%
  • 2,000,000,0004,000,000,000VND72,000,000VND+超過部分の2%
  • 4,000,000,000VND超:112,000,000VND+超過部分の0.1%

協議離婚において、財産分与に関する争いがない場合は、追加費用は発生しません。

 

09 - 国際離婚における財産分与

 

ベトナム国内に居住し、不動産や現金等の資産を保有している場合、財産分与はベトナム法に基づいて行われます。

原則:夫婦間の合意を優先

  • 夫婦が自発的に資産分与について合意した場合、その合意に従って処理されます。

合意が成立しない場合の裁判所の判断基準

  • 法定財産制が適用されます(婚姻中に形成された財産は共同財産と推定)。
  • 夫婦間に財産契約(財産管理契約)が存在する場合は、契約内容に基づいて処理されます。
  • 財産契約が無効または不明確な場合は、2014年婚姻家族法第59条~第64条の規定に基づいて判断されます。

財産分与における考慮要素

  • 夫婦それぞれの家庭環境・個別事情
  • 財産形成・維持・発展に対する寄与度
  • 離婚後の生計確保、職業・事業活動への配慮
  • 夫婦の義務違反に関する過失の有無

財産の分け方

  • 原則は折半分与ですが、事情に応じて偏りが認められる場合もあります。
  • 分割できない資産は、価額評価に基づき一方が代償金を支払う方式で分与します。
  • 各自の特有財産(個人資産)は帰属維持します。ただし、特有財産が混合されている場合は、寄与割合に応じた分割となります。

子ども・弱者保護への配慮

  • 未成年者、成年後見対象者(精神障害者等)の利益を最優先に配慮することが求められます。

 

 

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。