公開 2025年06月30日  I 更新 2025年06月30日

ベトナムにおける法定代表者の法的や税務リスクと実務対応 外国人経営者が知っておくべき10の重要ポイント

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ベトナムにおける法定代表者の法的や税務リスクと実務対応 外国人経営者が知っておくべき10の重要ポイント


コーポレート 公開 2025年06月30日  I 更新 2025年06月30日
目次

ベトナムで会社を設立・運営する際、外国人が法定代表者(代表取締役)を務める場合、居住要件、労働許可証、社会保険、個人所得税(PIT)、VNeID、TRCなど多くの法的・税務的な義務とリスクが伴います。 弁護士法人ベトホ/BETOHO LAWFIRMでは、現在30社以上の企業に継続的なリーガルサポートを提供しており、法令遵守と企業運営の実効性を両立するための最適な実務解決策をご提案しています。 本記事では、法定代表者に関する最新の法改正(2025年企業法・社会保険法)を踏まえ、外国人経営者が直面する典型的な課題とその回避策をわかりやすく解説します。

01 - 法人の「法定代表者」とは誰ですか?

 

法定代表者(ベトナム語で「Người đại diện theo pháp luật)とは、企業を代表して第三者との間で法的行為を行う個人のことを指します。具体的には、企業名義で契約を締結したり、訴訟・仲裁・行政手続きなど、企業の権利義務に関わるあらゆる行為を行う法的な代表者です。

この人物は、出資者や、取締役会又は株主総会などによって正式に任命され、ベトナムの法律上「企業の顔」として扱われます。裁判所、仲裁機関、国家機関とのやりとりも、すべてこの法定代表者が前面に立って行う必要があります。

法定代表者の情報は、企業登録時に公的記録として登録され、変更があった場合も速やかに登記変更が義務付けられています。そのため、ベトナムで会社を設立・運営する際には、誰を法定代表者に選任するかが極めて重要な判断事項となります。

 

02 - ベトナムでは、法定代表者の役職は何ですか?

 

ベトナムの法律では、会社の種類によって法定代表者(Người đại diện theo pháp luật)の役職が異なります。以下の通り、それぞれの会社形態に応じた規定が設けられています。

  •     まず、有限会社(TNHH)の場合、少なくとも1名の法定代表者を置くことが義務付けられており、その人物は「社員会会長(Chủ tịch Hội đồng thành viên)」または「社長(Giám đốcTổng giám đốc)」のいずれかの役職でなければなりません。会社定款に明記がない場合、社員会会長が自動的に法定代表者となります。
  •     次に、株式会社(Công ty cổ phần)の場合、法定代表者が1名のみであるときは、「取締役会会長(Chủ tịch Hội đồng quản trị)」または「社長(Giám đốcTổng giám đốc)」のいずれかが法定代表者となります。定款に特別な定めがない場合、取締役会会長がその役割を担います。また、法定代表者が複数いる場合には、取締役会会長と社長(または総支配人)が共に法定代表者となることが定められています。

このように、法定代表者の選任には定款の内容が大きく関係するため、会社設立時または構造変更時には役職の適正性と法的要件を慎重に検討する必要があります。

 

 

03 - ベトナムの企業には法定代表者が複数人いても良いのですか?それぞれの責任や権限はどうなりますか?

 

  •     はい、ベトナムでは有限会社(TNHH)や株式会社(Công ty cổ phần)において、法定代表者を1名または複数名任命することが可能です。この点は、企業の定款によって自由に規定できます。
  •     法定代表者の人数、職位、権限、義務については、定款で具体的に定める必要があります。複数の法定代表者がいる場合、それぞれの責任範囲や代表権の行使方法を明確にすることで、将来のトラブルを避けることができます。
  •     しかし、定款において各法定代表者の役割が明確に区分されていない場合は、すべての法定代表者が企業を完全に代表する権限を持つものと見なされ、第三者に対しては個別に法的効力を持つ行為ができます。また、企業に損害が生じた場合、全員が連帯して責任を負うことになります(ベトナム民法および関連法令に基づく)。

このようなリスクを回避するためにも、法定代表者を複数任命する際には、必ず定款で責任分担を明文化することが強く推奨されます。

 

04 - ベトナムでは、法定代表者には居住要件がありますか?

 

  •     はい、ベトナムの企業法(2025年改正企業法 12条第3項)では、企業は常に少なくとも1名の法定代表者がベトナム国内に居住していることを保証しなければならないと明確に規定されています。
  •     法定代表者がベトナムに居住している場合で、国外に出国する際には、ベトナム国内に居住している他の人物に法定代表者としての権限と義務を委任する必要があります。これは、企業の代表機能が常にベトナム国内に存在することを担保するためです。

 

では、「居住する」とはどういう意味でしょうか?
ベトナムの「居住法(2020年法律第68号)」によれば、「居住」とはベトナム国内に生活の拠点となる住所を有していることを意味します。たとえば、一時的な滞在先であっても、正式な住所登録(例えば仮住民登録)があれば「居住」と見なされます。

そのため、会社を設立する際には、法定代表者がベトナム国内で実際に居住していることを示す住所情報の提出が必須条件となります。これを満たさない場合、企業登記申請は却下される可能性があります。

 

05 - ベトナムに一時滞在していない場合でも、法定代表者になることはできますか?

 

いいえ、ベトナムに居住していない場合は、原則として法定代表者(法的代表者)にはなれません。

ベトナム企業法の規定(前述の第12条第3項)により、会社に1人しか法定代表者がいない場合、その人物はベトナムに居住していることが必須条件とされています。ここでの「居住」とは、実際にベトナム国内に生活拠点を有し、滞在許可証やビザに基づいて一時的または長期的な住所登録を行っていることを指します。

したがって、一時滞在登録をしていない外国人は、単独で法定代表者になることはできません。このような場合、少なくとも1名のベトナム居住者を追加で法定代表者として任命する必要があります。

さらに、企業設立時(ERC=企業登録証の申請時)には、法定代表者のベトナム国内住所を証明する必要書類を提出しなければならず、それが欠けていると登録が却下されます。

 

06 - 実際には滞在していない住所でベトナムの一時滞在カード(TRC)を取得した場合、法的に問題はありますか?

 

はい、それはベトナムの居住法に違反する行為であり、行政処分および追加制裁の対象となる可能性があります。

たとえば、ベトナムに一時滞在カード(Temporary Residence CardTRC)を申請し、カード上に登録された住所に実際に滞在していない場合、次のような処分が科される可能性があります:

  • 居住地変更を申告せず、TRCの再発行を行わなかった外国人に対しては、3,000,000 VNDから5,000,000 VNDの罰金が科される(行政違反に関する政令144/2021/NĐ-CP 18条第4項)。
  • さらに重い場合、国外退去(強制送還)の処分もあり得ます(同政令第18条第8項)。

つまり、一時滞在カードに記載されている住所に実際に住んでいない場合、それは「虚偽の申告」と見なされ、厳しい処分を受ける可能性があります。

そのため、もし現在TRCを保有しているが、実際には登録住所に滞在していない場合は、自主的にTRCを返納するなどの対応を早急に取るべきです。ベトナムでは出入国管理や外国人の滞在管理が厳格化されており、ビザ・居住ステータスの不備は会社経営・法定代表者の資格にも大きく影響します。

 

07 - 外国人がベトナム企業の法定代表者になる場合、企業識別コードの取得には何が必要ですか?

 

202571日以降、ベトナムではほとんどの企業が企業識別コード(企業コード)を用いて行政手続や税務申告を行うことが義務化されます。これは政府が推進するデジタル・トランスフォーメーション(DX)政策の一環であり、企業の正式なデータ管理を効率化するための措置です。

企業識別コードを取得するためには、企業の法定代表者がVNeID(電子識別システム)による「レベル2電子識別アカウント(Mức 2)」を取得していることが前提条件となります。

【外国人法定代表者の場合の課題と対応方法】

現在、外国人向けのVNeID登録システムはまだ完全に整備されておらず、実際の手続は各地で進捗に差があります。ただし、今後本格運用が開始されれば、外国人であってもベトナム企業の法定代表者である場合は、必ず「レベル2電子識別アカウント」の取得が義務付けられます。

この手続を行わないと、代表を務める企業は企業識別コードを取得できず、税務手続や行政手続が一切できなくなるため、事業活動に重大な支障をきたします。

 

❓外国人が電子識別アカウントを取得するには何が必要ですか?

レベル

提出必須事項

レベル1(初期登録)

  •    有効なパスポート番号または出入国用の身分証明書
  •     ベトナムの通信会社で登録された携帯電話番号またはメールアドレス(名義は本人または勤務先でも可)
  •     顔写真
  •     VNeIDシステムが要求するその他の情報

レベル2(完全登録)

※外国人本人が出入国管理局(公安省または省レベルの公安)に直接出向き、手続きを行う必要があります。

  •     必要情報の提供(連絡先、統合希望データなど)
  •     顔認証と指紋登録(生体情報の提供)

その後、「レベル2電子識別アカウント」の発行を受け、企業識別コードの申請が可能となります。

 このように、外国人がベトナム企業の法定代表者として活動するには、電子識別アカウントの取得が不可欠となっており、今後さらに法制度が厳格化されることが予想されます。

 

08 - ベトナム企業の法定代表者に就任する外国人は労働許可証が必要ですか?

 

はい、原則として必要です。ベトナムの労働法において、企業の法定代表者(法定代表者が1人のみの場合)は、同時に会社の管理職(たとえば、取締役、会長、代表取締役など)を兼任するため、「管理者(Nhà quản lý)」として扱われます。

この「管理者」に該当する外国人がベトナム国内で法的行為を行う場合、原則として労働許可証(ワークパーミット)の取得が必要です(根拠:2020年施行の政令152/2020/NĐ-CP 3条第4項)。

 

労働許可証が不要な例外はありますか?

はい、次の要件をすべて満たす場合は、労働許可証の取得が免除されます:

  • 管理者、経営責任者、専門家、技術者としてベトナムに入国する
  • 1回あたりの勤務期間が30日未満である
  • 年間の勤務回数が3回以下である

このようなケースでは、労働許可証の取得は不要ですが、「労働許可証が不要であることの確認書」を取得する必要があります。

 


実務上の注意点とは?

  • 労働許可証の取得には比較的時間がかかる(約22.5か月)ため、

新規設立企業においてERC(企業登録証明書)の取得申請を行う際や、法定代表者の変更手続を行う前には、並行して法定代表者となる外国人に対する労働許可証の取得準備を進めることが望ましいです。

  • 労働許可証を取得していない場合、

労働者(法定代表者を含む)に支払われる給与やその他の費用は、法人税計算における損金として認められないリスクがあります。

  • 労働契約の有効性にも注意が必要です。

実務上、労働許可証の有効期間と整合しない労働契約について、無効と判断された裁判例も存在します。したがって、労働契約を締結または更新する際には、労働許可証の有効期限と一致させる必要があります。


 

09 - 法定代表者は社会保険への加入義務があるのか?

 

202571日より施行される改正ベトナム社会保険法(第41/2024/QH15号)によると、企業の経営者(法定代表者を含む)は、給与の有無にかかわらず、強制社会保険に加入しなければならないと規定されています。

外国人法定代表者の場合は?

外国人が法定代表者を務める場合では、以下のいずれかに該当する場合には、強制社会保険の加入対象外とされています:

        ① 労働契約の期間が12か月未満の場合

        ② 社内異動(企業内転勤)である場合

        ③ 労働契約締結時点で既に定年年齢に達している場合

 


実務上の注意点は?

現在ベトナムで労働許可証(ワークパーミット)を保有している外国人の法定代表者で、給与を受け取っていないことを理由に社会保険に加入していない場合は、注意が必要です。

  •     ワークパーミットの記載内容を再確認し、自身が「社内異動者」として認定されているかを確認しましょう。
  •     もし「社内異動」ではない形で許可を受けている場合は、ワークパーミットの修正、または強制社会保険への加入手続を行う必要があります。

 

10 - 法定代表者はベトナムで全世界個人所得税を納める必要がありますか?

 

ベトナムにおいては、企業の法定代表者(法定代理人)は企業のあらゆる取引行為において法人を代表する立場にあり、重要な法的・税務的責任を負います。特に、外国人が子会社の法定代表者を務めるケースでは、「実際にベトナムに居住していないが、企業設立のために一時的にベトナムで一時滞在証(TRC)を取得した」事例が少なくありません。このような状況下での「居住」ステータスと納税義務について、どのように判断されるのでしょうか?

 

【ベトナムにおける「居住者」とは?】

ベトナム個人所得税法に基づき、以下のいずれかに該当する者は「居住者」とされ、ベトナム国内外の全ての所得に対して課税対象となります:

    ① 1年間で183日以上ベトナムに滞在した場合
滞在日数は入出国日を1日として計算され、12ヶ月連続して滞在する場合も含まれます。

    ② ベトナムに「常時居住地」がある場合
常時居住地には以下が含まれます:

    • 一時滞在証または永住証に記載された住所
    • 合計183日以上の賃貸契約(ホテル滞在・社宅含む)を有する住居

ただし、常時居住地があるものの、実際の滞在日数が183日未満であり、かつ外国に居住している証明(例:日本の居住証明書)を提出できる場合には、「非居住者」として扱われることもあります。

 

【居住ステータスと税務リスクの整理】

条件

ステータス

ベトナムに183日以上滞在

居住者

183日未満滞在かつ常時居住地なし

非居住者

 常時居住地あり・他国の居住証明あり

非居住者

 常時居住地あり・他国の居住証明なし

居住者

このように、「TRCに記載があるから」といって自動的に非居住者とはなりません。その実態や証明書の有無によって取り扱いが変わります。

 

【法定代表者に求められる法的居住要件との矛盾】

ベトナム企業法第12条第3項により、企業には「少なくとも1名の法定代表者がベトナムに居住していること」が義務付けられています。したがって、唯一の法定代表者が実質的にベトナムに居住していない場合、

  • 企業法の要件に違反する可能性がある
  • 税務当局から「居住者」とみなされ、全世界所得課税を受ける可能性がある

というジレンマが生じるのです。


実務上の注意点とアドバイス

  • ベトナムで法定代表者になる場合、TRCの取得前に税務上の影響を精査すべきです。
  • 「居住者」として課税されたくない場合は、法定代表者を2名体制にし、実際に居住する者を1名含める構成も有効です。
  • TRCに住所記載があるにもかかわらず、実際に居住していない場合は、虚偽申告とみなされるリスクがあるため、適切な対策(返却または情報修正)を講じるべきです。

 

法定代表者を任命する前に考慮すべき実務上のポイントとは

ベトナムにおける法定代表者の役割は、単なる会社の名義人ではなく、企業の法的・税務的・行政的リスクを直接背負う重要な責任者です。そのため、以下の観点から事前に計画を立てることが推奨されます:

  • 滞在資格・住所・税務居住性の整合性
  • ワークパーミット・社会保険・税務番号の取得スケジュール
  • TRCの取得有無と内容の確認
  • 日本との租税条約(居住証明)の準備
  • 役職分散(複数代表者制)によるリスク分散

 

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