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01 - ベトナムにおける「資本」の種類とその違いについて |
ベトナムで企業を設立・運営または投資プロジェクトを実施する際、複数の「資本」に関する用語が登場します。これらは似ているようで異なる意味を持ち、正確な理解が求められます。本稿では、主に使用される5つの資本用語の違いについて、法律専門家の観点から分かりやすく解説いたします。
1.1.登録資本金(Vốn điều lệ)
登録資本金とは、会社定款および企業登録証明書に記載された資本額を指します。これは出資者(株主)によって実際に拠出されるべき資金であり、会社の活動資金として用いられます。現地法人の資本金として、日系企業が最初に設定することの多い資本です。
1.2. 法定資本(Vốn pháp định)
法定資本とは、特定の規制業種において事業活動を行うために必要な最低限の資本金額を指します。たとえば、人材派遣業、銀行業、証券業などの特定分野では、法律により最低資本金額が定められており、それを満たさなければライセンスの取得ができません。
1.3. 投資資本(Vốn đầu tư)
投資資本とは、投資登録証明書(IRC)に記載される、投資プロジェクトの実施に必要な総資本額を指します。これは以下の2つの構成要素から成り立ちます:
- 出資金(vốn góp)=通常、これは会社の登録資本金と一致します
- 調達資金(vốn vay)=第三者からの借入など
外国投資家が現地法人を設立してプロジェクトを実施する場合、この出資金部分がそのまま「登録資本金」となります。
1.4. 借入資本(Vốn vay)
借入資本とは、投資プロジェクトのため、あるいは事業運営資金の補填のために、金融機関や関連会社など第三者から調達する資金です。
1.5. 調達資本(Vốn huy động)
調達資本とは、新株発行や社債発行などを通じて会社が資本を追加で調達する場合に使用される用語です。増資やファイナンスに関連する資金調達活動を指すことが多いです。
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02 - 各資本区分に関連する主な法的留意点 |
ベトナムの企業運営や投資活動において、それぞれの「資本」には異なる法的規定や手続が適用されます。以下では、代表的な5つの資本に関する法的留意点について整理します。
■ 登録資本金(Vốn điều lệ)に関する法的ポイント
- 登録資本金は、会社定款および企業登録証明書(ERC)に明記する必要があります。
- 資本金に変更があった場合は、企業登録内容の変更手続きを行う必要があります。
- 登録資本金は以下の2つに分類されます:
✅ 初期資本金の変更には当局の「承認」が必要ですが、追加資本金の場合は「企業からの通知に基づいて反映」されます(事後報告型)。
- 外資系企業においては、登録資本金は「直接投資用口座(DICA)」を通じて出資する必要があります。間接投資の場合は、間接投資口座を通じて出資する場合もあります。
- 出資期限に遅延した場合、行政処分(罰金)の対象となる可能性があります。
■ 法定資本(Vốn pháp định)に関する法的ポイント
- 規制業種において要求される法定資本は、事業活動期間を通じて常に維持する必要があります。
- 法定資本を下回ると、ライセンスの取消しや営業停止のリスクが生じます。
■ 投資資本(Vốn đầu tư)に関する法的ポイント
- 投資資本は、投資登録証明書(IRC)に記載されなければなりません。
- 出資金(vốn góp)は、プロジェクトの進捗に応じて分割出資することも可能です(特に大型プロジェクトで一般的)。
- プロジェクトにおける借入資本(vốn vay)も、IRCに事前登録する必要があります。
■ 借入資本(Vốn vay)に関する法的ポイント
- 中長期借入は、原則としてIRCに明記することが義務付けられています。
- 一方、短期借入の登録要否については明確な法解釈が存在していません。
- 実務では、金融機関ごとに異なる対応があり、ある銀行は許可しますが、別の銀行は否定的です。
- したがって、事前に取引銀行に確認することが重要です。
- 外貨建て借入の場合は、国家銀行への事前報告や登録手続きが必要になることがあります。
■ 調達資本(Vốn huy động)に関する法的ポイント
- 株式の追加発行や社債発行などによる資本調達を行う場合、以下の要件を満たす必要があります:
- 会社法(Luật Doanh nghiệp)および関連専門法の要件を遵守
- 株主総会の決議
- 適切な報告・登記手続き
- 特に外国企業が資本調達を行う場合、投資登録内容との整合性の確認や、証券・金融関連法との整合も必要となります。
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03 - よくあるご質問(Q&A) |
Q1. ベトナムでは登録資本金の最低額に関する規定がありますか?
A:
原則として、法定資本が要求されない業種については、登録資本金の最低額に関する法的な規定は存在しません。
ただし、各地方自治体では、独自の審査基準を設けている場合があります。
例えば、ハノイ市では以下のような運用が見られます:
- 単一業種・小規模な事業の場合:最低2億VNDの資本金を求められることがある
- 複数業種・中長期的な投資を伴う業種の場合:事業計画書や財務計画の提出を求めた上で、適切な資本金額を当局が判断する
✅ よって、会社設立や投資登録を検討する際は、事前に現地当局または弁護士に確認することが重要です。
Q2. 出資期限を過ぎてしまった場合、出資する権利は失われますか?
A:
いいえ、出資義務は出資期限を過ぎても消滅しません。
出資は単なる権利ではなく、会社法上の義務とされており、たとえ90日の期限を過ぎても、出資者は引き続きその出資義務を負います。
- 出資の遅延は、行政罰(金銭的ペナルティ)の対象となりますが、国家機関が出資実行のための猶予期間も与えます。
- ただし、出資が未実行のままの場合、出資予定者は株主(出資者)としての権利を持ちません。
法律実務からのアドバイス
各資本に関する法的規制は、企業の設立段階だけでなく、運営や資金調達、投資計画変更の場面にも影響を及ぼします。誤った分類や手続の不備は、ライセンスリスク、行政罰、あるいは送金・借入制限につながる可能性があるため、専門家の助言を受けながら計画的に対応することが重要です。