公開 2025年01月13日  I 更新 2025年01月20日

ベトナムビジネスに潜むキックバック問題

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナムビジネスに潜むキックバック問題


コンプライアンス 公開 2025年01月13日  I 更新 2025年01月20日
目次

ベトナムでは、キックバックがビジネスや日常生活で広く浸透し、時には当然視される状況にあります。この慣行は、その倫理性が疑問視される一方で、一部の人々にとってはキックバックで収入を増やすのが誇りや成功の象徴とみなされています。その影響で、キックバックを受け取る機会が多い職種やポジションを競い合う風潮さえ存在します。本記事では、この「見えない文化」がビジネス環境や社会に与える影響について深掘りし、課題を認識するために、ご紹介します。

01 -「キックバック」と暗黙のルールという問題

 

ある日、私の故郷で隣人のおじさんが遊びに来て、彼の息子について話してくれました。その息子さんはある会社の購買部門で働いており、基本給は数千万ドン程度だそうですが、「柔軟な収入」、つまりキックバックが非常に多く、毎年テト(旧正月)には大量の贈り物を車いっぱいに積んで帰ってくるそうです。親族一同がその恩恵に預かっているとのこと。おじさんは誇らしげに話し、「親が教育を施し、人生が賢さを教えた結果だ」「賢さがあってこそ柔軟に立ち回れる」等と言っていました。

 

【キックバックが暗黙のルールとして受け入れられる現状】

キックバックは、非常に基本的な場面から広がっています。たとえば、観光ガイドが旅行客を店舗に案内し、商品やサービスの売買が成立すると、ガイドが店主から事前に合意した割合のキックバックを受け取るといったものです。これは世界中の観光業で一般的な「暗黙のルール」であり、通常は双方に利益をもたらします。しかし、ベトナムでは一部のガイドがその率を30%40%にまで引き上げるケースがあり、サービスの質に悪影響を与え、事業者にとって大きな負担となっています。

企業内では、文房具や定期健康診断、イベントの企画、短期人材派遣などの小規模な契約から、オフィスや車両のリース、材料調達、食事提供などの定期契約に至るまで、購買部門の従業員がキックバックを受け取ることは珍しいことではありません。このような慣行は「当然」とされ、「そのポジションにいれば誰でもそうする」と考えられがちです。そのため、キックバックが汚職事件に発展しない限り、社会的に批判されることはあまりありません。

 

特に問題が顕著なのは入札案件です。イベント企画や旅行手配、資材調達の供給業者を選定する際、担当者が10%前後のキックバックを受け取るのが一般的です。場合によっては、その率が15%20%に達し、中堅企業にとっては契約利益を上回る負担となります。このような状況では、税金やその他の追加費用をカバーするための対応を迫られることが少なくありません。もし企業がキックバックの支払いを拒否した場合、契約を失い、他の供給業者に取って代わられることがほぼ確実です。

 

アメリカ、ヨーロッパ、日本などの企業は、長年にわたり「キックバックを排除する」という慣行を守り続けています。これらの国では、賄賂の提供者も厳しく処罰されるため、ベトナム国内であってもキックバック文化に従うことは難しいのです。その結果、入札で優れた提案や技術、経験、サービス品質を持ちながらも、契約を得ることができず、手ぶらで撤退せざるを得ないケースが多々あります。

 

02 - キックバックの具体例

 

日常生活におけるキックバックの例

  •      タクシー運転手の紹介:
    乗客が「どのレストランが良いか」「どのお土産店が良いか」と尋ねると、運転手は「提携」している店舗を熱心に勧めます。乗客を案内した後、店舗側から感謝のしるしとしてキックバックを受け取ります。
  •      医師による処方:
    医師が薬や健康補助食品を処方する際、製薬会社と契約済みの商品を優先的に勧めます。その見返りとして、製薬会社からキックバックを受け取ります。

ビジネス関係におけるキックバックの例

  •      企業支援組織の管理職:
    企業支援を行う組織の管理部門に勤務する人物が、顧客企業の困難を聞き取り、適切なサービス提供会社を紹介します。紹介の結果、顧客がサービス提供会社と契約を結ぶと、その会社からキックバックを受け取ります。

企業内部におけるキックバックの例

  •      購買部門のキックバック:
    購買部門の担当者が取引先から金銭や物品の提供を受け取ります。具体的には、契約金額の10%前後の金銭的キックバック、贈り物、接待、サービスバウチャー、航空券、旅行パッケージなどです。
  •      入札における情報提供の見返り:
    企業Aが工場建設の設計・施工に関する入札を行う際、担当者が入札情報を事前に業者に提供し、その見返りとして金銭や贈り物を受け取ります。
  •      M&A交渉における関係構築:
    企業Xがベトナム企業の工場を買収する計画を検討している際、財務困難に陥った工場の経営者が、企業Xの担当者に高価な贈り物を頻繁に贈り、良好な関係を構築しようとします。また、「M&Aが成立すれば、契約額の1%をキックバックとしてお礼をします」という提案も積極的になされます。これは、担当者が企業Xの上層部に好意的な情報を伝えることを期待して行われます。

 

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。