近年、ベトナムにおける税務調査はますます厳格化されており、企業が直面するリスクも増大しています。税務調査とは、企業の税務申告や税金の納付状況が適正であるかを確認するために、ベトナム税務当局が実施する監査プロセスです。
ベトナムでは、税務調査が計画的に行われるだけでなく、突発的な調査も増加しています。そのため、企業は適切な対策を講じ、税務コンプライアンスを強化することが求められます。本稿では、税務調査の種類、プロセス、企業が取りうる対応策、そしてリスクを回避するためのポイントを詳しく解説します。
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01 - 税務調査:分類と企業への影響 |
1.1. 税務調査の分類
ベトナムにおける税務調査は、大きく 「行政監査(Thanh tra hành chính)」 と 「専門監査(Thanh tra chuyên ngành)」 の2種類に分かれます。
1.1. 1行政監査(Thanh tra hành chính)とは?
行政監査は、政府機関内部の規則遵守を監視するための調査活動です。主な目的は以下の通りです。
- 政府機関の業務遂行状況を確認する
- 行政決定が法的に適切かどうかを検証する
- 許認可の違反を発見し、不正行為(例:不正な投資許可、賄賂による許認可発行など)を摘発する
👉 企業への影響 実際に、多くの投資プロジェクトや土地使用権取得が、行政監査で発覚した違反により取り消されています。特にM&A(企業買収・合併)を検討する企業にとっては、買収対象の企業が過去に違反していないかを慎重に確認することが重要です。行政監査で発見される行政違反による許認可の取り消しは、M&A後の事業運営に大きなリスクをもたらす可能性があります。 |
1.2. 専門監査(Thanh tra chuyên ngành)とは?
専門監査は、特定の業界や分野ごとの法律・規制の遵守状況をチェックするものです。代表的な専門監査には以下のようなものがあります。
監査の種類 |
内容 |
税務監査(Thanh tra thuế) |
税務申告、納税状況の確認、脱税防止 |
税関監査(Thanh tra hải quan) |
輸出入業務の適法性の監視 |
財務監査(Thanh tra tài chính) |
企業の会計・財務報告のチェック |
環境監査(Thanh tra môi trường) |
環境保護基準の遵守状況の確認 |
労働安全監査(Thanh tra an toàn lao động) |
労働環境と従業員の権利保護の調査 |
👉 企業への影響 専門監査の結果、企業は罰金、税金の追徴、業務停止などの厳しい制裁を受ける可能性があります。特に税務監査の場合、過去数年間の申告内容が遡って精査されるため、適正な納税管理が求められます。 |
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02 - 税務調査の種類とその特徴 |
ベトナムの税務調査には、大きく (1) 計画調査、(2) 定期調査、(3) 突発調査 の3つの種類があります。それぞれの特徴を理解し、企業として適切な対応を準備することが重要です。
2.1. 計画調査(Thanh tra theo kế hoạch)
計画調査とは、税務当局が事前に策定した監査プログラムに基づき実施される調査のことです。この調査は年間計画として立案され、対象企業には事前に通知されることが一般的です。
🔍 特徴
✔ 事前通知あり:企業は事前に税務調査の対象となることを知らされるため、準備する時間が与えられる。
✔ 特定の基準に基づいて選定:企業の財務状況や業種、過去の税務申告履歴などが考慮される。
✔ 税務コンプライアンスが求められる:帳簿や財務報告が正しく記録されているかを重点的に確認。
2.2.定期調査(Thanh tra thường xuyên)
定期調査は、税務機関(税務総局や地方税務局)が定期的に実施する監査活動です。
特に、法人税(CIT)、付加価値税(VAT)、個人所得税(PIT)などの納税状況が確認されます。
🔍 特徴
✔ 業種ごとに異なる頻度:特に監視対象となる業種(輸出入業、建設業、小売業など)では頻度が高い。
✔ データ分析に基づく調査:財務報告、納税申告の整合性が評価される。
✔ 比較的低リスク:大きな違反がなければ軽微な修正で済むことが多い。
2.3. 突発調査(Thanh tra đột xuất)
突発調査は、違反の疑いがある企業や、税務リスクスコアが高い企業を対象に実施される調査です。
通常、以下のようなケースで実施されることが多いです。
📌 突発調査の主な要因
- 匿名の通報や内部告発(例:従業員や取引先からの報告)
- 不自然な取引が発覚(例:短期間で急激に売上が増減した場合)
- 税務リスク評価の結果が高得点(例:過去に税務違反があった企業)
- 関連企業の調査の一環として対象になる
🔍 特徴
✔ 事前通知なし:企業は予告なしに調査を受けることがある。
✔ 高リスク:税務違反が発覚すると、高額な追徴課税や罰則の可能性がある。
✔ 過去数年間に遡及する可能性:税務監査は通常 過去5年間 の取引まで調査可能。
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03 - 税務調査の手続と企業の対応策 |
税務調査のプロセス |
企業が取るべき対応 |
① 調査計画の立案と承認 |
調査計画が承認されると、担当税務官はすでに企業の税務申告等の情報を把握しています。したがって、税務当局との定期的なコミュニケーションを取ることで、事前に情報を得ることができる可能性があります。 |
② 調査計画の通知・公表 |
調査計画には、調査団(責任者・メンバー)、調査範囲、スケジュールが記載されます。多くの場合、企業はこの段階で計画を把握し、準備を始めるべきです。 |
③ 調査方針の策定と企業への報告要求 |
調査の内容が複雑な場合、税務当局は事前に詳細な調査方針を企業に送付し、報告を求めます。 |
④ 調査決定の正式通知 |
企業に対して調査決定が文書で通知され、正式な調査が開始されます。 |
⑤ 調査決定の公表 |
税務調査の決定は文書化され、企業側の代表者(法定代理人または委任された担当者)が署名する必要があります。 |
⑥ 情報・資料の収集 |
企業側の対応ポイント: |
⑦ 調査の実施 |
現場調査が行われる場合の対応ポイント: |
⑧ 調査結果のまとめ |
企業側の対応ポイント: |
⑨ 調査結果の公表・行政処分の決定 |
重要ポイント:調査結果の公表後、企業は結果に対する異議申し立てを行うことはできません。 |
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04 - 税務調査における企業の権利と活用方法 |
ベトナムにおける税務調査では、企業には一定の権利が認められています。これらの権利を適切に活用することで、公正な調査を確保し、不当な税務負担を防ぐことが可能になります。具体的には以下の通りになります。
📌 企業の権利と実践的な対応策
企業の権利 |
実践的な対応方法 |
① 税務調査に関連する事項について説明する権利 |
税務調査中に指摘された事項について、企業側の正当性を主張し、根拠をもって説明することができます。調査員の解釈が異なる場合、税務専門家(税理士・弁護士)の意見を交えながら、合理的な説明を行うことが重要です。 |
② 税務調査報告書への異議申し立て・意見の保留 |
調査報告書の内容に不服がある場合、企業はその意見を文書で明記し、公式な記録として残すことができます。 |
③ 調査内容に関連しない情報の提供拒否 |
税務当局が要求する情報の中には、調査の範囲外のものが含まれることがあります。 |
④ 不適切な調査手続に対する異議申し立て(行政不服申立て) |
調査の過程で違法な行為があった場合(例: 調査期間の不適切な延長、不当な罰則適用など)、企業は正式に異議を申し立てる権利を有します。 |
⑤ 損害賠償請求権 |
もし税務当局の違法な調査行為によって企業が金銭的損害を被った場合、企業は損害賠償を求めることができます。 |
⑥ 税務調査官の違法行為に対する告発 |
調査官が権限を乱用し、不適切な要求や圧力をかけた場合、企業は監督機関に対して正式な告発を行う権利を有します。 |
📌 企業が税務調査に備えるべきポイント
✅ 事前に税務リスクを分析し、適切な帳簿管理と内部監査を実施する。
✅ 調査範囲を明確にし、不要な情報提供を避ける。
✅ 税理士・弁護士と協力し、企業の立場を法的に保護する準備を整える。
✅ 調査結果に不服がある場合、異議申し立てや適切な法的手続を進める。
企業は、税務調査において受け身になるのではなく、適切な権利を行使することで、公正な調査が行われるよう対策を講じることが重要です。特に、調査中の対応がその後の税務リスクに大きく影響するため、税理士や弁護士と連携しながら慎重に対応しましょう。
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05 - 税務調査の対象企業はどのように決まるのか?リスク評価の仕組みを解説 |
企業にとって税務調査は回避したいイベントの一つですが、すべての企業が調査の対象となるわけではありません。ベトナム税務当局は、 リスク評価基準 に基づき、税務違反の可能性が高い企業や長期間調査を受けていない企業を優先的に選定します。具体的に、税務当局が税務調査の対象企業をどのように決定するのか、その基準や評価方法について以下の通りに解説します。
5.1.税務調査は「事後監査」の一環
税務調査は、企業が自己申告した納税情報の正当性を 事後的に検証 するために行われます。しかし、すべての企業を調査するのは現実的ではないため、税務当局は リスクスコアリング に基づいて調査対象を決定します。
📌 調査対象となる主なケース:
✅ 税法違反の可能性が高い企業
✅ 長期間調査を受けていない企業
✅ 財務指標や税務データに異常値が見られる企業
5.2. 税務調査のリスク評価基準(9つの主要指標)
税務当局は、企業のリスクレベルをスコアリングするために、 9つの評価指標 を使用しています。これらの指標に基づき、スコアが高い企業は 計画的調査 または 突発調査 の対象になります。
🔎 リスク評価の9つの主要指標
No |
評価基準 |
リスクの見極め方 |
1 |
期限を過ぎた税務申告 |
申告期限を超えて税務書類を提出した企業はリスクが高いと判断される |
2 |
企業の業態・業種分類 |
業種によってリスクの高低が異なり、高リスク業種(例: 金融、不動産、輸出入業など)は優先調査対象となる |
3 |
法人税(CIT)の変動率 |
過去数年の法人税率を比較し、大きな変動がある企業は調査対象になる |
4 |
付加価値税(VAT)の変動率 |
過去のVAT申告と比較し、大幅な増減がある場合は要注意 |
5 |
営業利益率(営業利益 ÷ 売上高) |
利益率が業界平均と比較して著しく異なる場合、粉飾決算の可能性があるとみなされる |
6 |
EBITDA(税引前利益+利息費用)÷ 売上高 |
高いまたは低い異常値がある企業は詳細調査の対象になる可能性 |
7 |
純利益 ÷ 自己資本 |
自己資本に対する利益率が異常に低い、またはマイナスの場合、調査対象となる |
8 |
売上原価 ÷ 売上高 |
原価率が業界平均と大きく異なる場合、税務調査のリスクが高まる |
9 |
販売費 ÷ 売上高 |
販売管理費の割合が不自然に高い企業は、税務上の問題がある可能性がある |
5.3.税務リスクのスクリーニング手順
税務当局は 多段階の審査プロセス を経て、調査対象企業を選定します。
🔍 1. 企業データのチェック
✅ 税務システムに登録された企業情報が適切に入力されているかを確認
✅ 申告データに欠落がないかを精査
🔍 2. 異常値の検出
✅ 企業の財務データを分析し、通常の範囲を大きく逸脱する数値がないか確認
✅ 極端に低い、または高い税額申告がないかチェック
🔍 3. 企業の急激な変動を分析
✅ 収益や納税額に突然の増減が見られる企業をピックアップ
✅ 企業がその変動を合理的に説明できるかどうかを評価
🔍 4. 企業の財務健全性を評価
✅ 自己資本を超える赤字がある企業は、税務操作の可能性があると判断される
✅ 長期的に赤字を計上している企業は、架空取引の疑いがかけられることも
🔍 5. 外部情報の活用
✅ 税務当局は、 外部のデータソース からも情報を収集して調査対象を選定
📌 情報収集先:
✔️ 財務省(税関、国庫、金融監査機関)
✔️ 監査機関(会計監査、国税庁監査)
✔️ 業界団体・報道機関(新聞、ラジオ、TVなどの報道)
✔️ 告発情報(内部通報、第三者からの通報)
📢 まとめ
ベトナムにおける税務調査は、企業にとって避けられないプロセスの一つですが、適切な準備と対応を行うことでリスクを最小限に抑えることが可能です。本記事では、税務調査の種類やプロセス、企業のリスク評価基準、対応策について詳しく解説しました。
企業が税務調査に備えるためには:
✅ 定期的な内部監査を実施し、税務リスクを可視化する
✅ 事前に税務専門家(税理士・弁護士)と連携し、適切な対応策を準備する
✅ 調査の通知を受けた際には冷静に対応し、不要な情報を提供しない
✅ 調査結果に不服がある場合は、異議申立てや法的措置を検討する
税務調査は企業の経営に大きな影響を与えるため、リスクを軽減するための戦略的なアプローチが必要です。今こそ、税務コンプライアンスを見直し、万全な対策を講じましょう!