2025年4月29日、ベトナム国家銀行は、「通達第03/2025/TT-NHNN号」(以下、「通達03/2025」)を公布し、ベトナムにおける間接投資活動のための投資資本口座(IICA)の開設および利用に関する新たなガイドラインを定めました。本通達は、2025年6月16日より施行され、従来の「通達第05/2014/TT-NHNN号」(2014年3月12日公布)を正式に廃止・置換するものです。
通達03/2025は、外国人投資家にとってより明確でアクセスしやすい法的枠組みを提供しており、IICAの開設・利用に関する手続きが整理・簡素化されています。とりわけ、用語の定義、対象となる投資形態、資金移動の条件、口座運用の範囲などが明確に規定されており、外国投資家が安心してベトナム市場に参入できる環境が整えられています。この改正は、ベトナムにおける間接投資制度の透明性と一貫性を高め、外国人投資家にとっての利便性と信頼性を向上させる重要な一歩といえます。
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01 - 用語変更と適用範囲の明確化 |
- 通達03/2025では、用語および適用範囲に関する重要な変更が行われました。具体的には、「間接投資資本口座(IICA)」という従来の名称が、「間接投資口座(IIA)」に変更され、投資活動における口座管理および運用の簡素化と明確化が図られました。この名称変更は、実務上の理解を容易にし、外国人投資家にとって制度へのアクセス性を高める意図があります。
- また、本通達の適用対象は、ベトナムにおける非居住の外国人投資家とされており、具体的には外国法に基づいて設立された法人および外国国籍を有する個人が含まれます。
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02 - IIA(間接投資口座)の開設および利用に関する規定 |
通達03/2025では、外国人投資家による間接投資口座(IIA)の開設および利用に関して、明確かつ厳格な新しいルールが導入されました。
- 外国人投資家は、原則として1つの認可銀行に対して1つのIIAしか開設できません。ただし、外国証券会社、複数の投資ポートフォリオを持つ外国投資ファンド、外国政府系の投資機関、国際金融機関などの特別なケースについては例外が認められています。
- 今回の改正では、IIAを共同名義(複数名義)で開設することが明確に禁止されました。
以前は複数名義による口座開設が可能であり、そのために名義や委任取引に関するトラブルが多く発生していました。本規定は、外国人投資家の権利保護を目的としていますが、反面、投資家本人がベトナムに常駐していない場合、店舗での取引(資金移動や口座解約など)が困難になるという実務上の制約も生じる可能性があります。
- さらに、すべての資金移動に関して、送金命令書にはその目的を明確に記載することが義務付けられています。
これは、銀行側が適正な資金の流れを確認し、書類を適切に保管・照合するための重要な措置です。実務上、多くの銀行ではすでにこの要件に従って運用されており、送金元資金の証明や証券取引の明細書の提出が求められてきましたが、今回の通達によりこれらの実務慣行が法的に制度化されました。
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03 - IIA開設手続の簡素化と書類要件の緩和 |
通達03/2025は、外国人投資家にとって実務上の負担を軽減するため、IIA(間接投資口座)の開設手続および提出書類に関する複数の簡素化措置を導入しています。
- 注目すべき点は、領事認証(領事の合法化)を原則として不要とした点です。これにより、外国語で作成された書類や外国の権限ある機関が発行した文書について、煩雑な認証手続きを省略できるようになりました。
- または、IIA開設時に提出する書類の中で、外国語文書または外国機関発行文書については、提出日から12ヶ月以内にベトナムまたは外国の法令に基づき公証または認証されていれば有効とされます。ただし、ベトナムの他の関連法令において公証を義務付けられている場合、または受入れ銀行や監督当局が通達03/2025の規定を「公証義務」と解釈する可能性もあるため、実務上は事前に確認が必要です。
- さらに、通達03/2025では、すべての外国語書類について翻訳は必須ではないと明記されています。ただし、銀行側が通達に基づいて必要な情報を正確に取得できる場合に限り、翻訳省略が認められるとされています。この点においても、翻訳の要否は銀行と顧客との個別の合意に委ねられるため、事前に協議しておくことが推奨されます。
これらの緩和措置は、ベトナムにおける間接投資制度の国際化および利便性向上を象徴するものであり、外国人投資家にとって大きなプラス要素となります。
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04 - 外資企業における口座転換の規定と出資比率の見直し |
通達03/2025では、外国人投資家による出資比率に基づく企業の分類および、必要な投資口座の種類に関する新たな規定が導入されました。
- 具体的には、外国人投資家が出資する企業が「外国直接投資企業(FDI企業)」と見なされるための基準が、従来の51%以上から50%以上に引き下げられました。これにより、外国人持株比率が50%を超える企業は、直接投資資本口座(DICA)の開設が義務付けられることになります。
- 該当する企業(外国人投資家の保有比率が50%以上51%未満)の場合、2025年6月16日から起算して12ヶ月以内にDICAを開設する必要があります。この移行期間中、これらの企業に対して出資を行う外国人投資家は、既存のIIA(間接投資口座)を使用して資本参加または株式取得を行うことが認められています。
🔹外国人投資家および市場への具体的な影響🔹 |
通達03/2025の施行は、外国人投資家、商業銀行、さらにはベトナム全体の金融市場に対して多面的な影響を及ぼすと予測されます。 ✅ 外国人投資家にとってのメリット
✅ 商業銀行に求められる対応
✅ ベトナム金融市場への影響 さらに、通達03/2025/TT-NHNNは、ベトナム証券市場をフロンティア市場からエマージング市場へと格上げするための重要な法的枠組みの一つと見なされており、国際的な投資家基準に近づくための一歩といえます。 |