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01 - 契約の締結における代表者の確認 |
通常、企業の法定代表者が契約の締結者として署名します。しかし、実務では、法定代表者以外にも契約締結者となるケースが多々あります。具体的には、営業部長、地域マーケティングマネージャー、副社長、計画・購買部門長、さらにはチーフアカウンタントや企業の上級アドバイザーなどが署名者として登場する場合があります。
法定代表者が他の者に契約締結の権限を委任することは、合法であり一般的な慣行です。しかし、企業はリスクを避けるため、必ず以下の点を確認する必要があります:
- 委任状の確認: 契約締結者から正式な委任状を取得し、その内容を確認する。
- 委任範囲の適合性: 委任状の有効性と権限範囲が契約内容と一致しているか確認する。
よくあるリスク:
- 委任状が存在しない、または有効期限が切れた状態で契約が締結されるケース。
- 大企業において、契約締結の権限が分野や契約金額によって細分化されているケース(例:商業契約は法定代理人が、内部運営契約は別の担当者が署名する)。高額な契約では法定代表者が直接署名し、小額の契約は営業部長や副社長が署名する規定がある場合。
これらの規定を超えた範囲で契約が締結されると、双方間で紛争が発生し裁判所で争われた場合、契約が無効とされるリスクがあります。
対策と推奨事項:
契約締結時に委任状を確認する手続きは簡単かつ迅速です。日本企業がベトナムでリスクを回避するためには、契約締結前に以下を徹底することが重要です。
- 委任状の有効性と範囲を確認する。
- 契約金額や契約の種類によって締結権限が適切に割り当てられているか確認する。
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02 - 契約金額条項に関する注意点 |
商取引の契約では、「本契約の総額はYYYである」という形式の一括記載(lumpsum)が一般的に見られます。この形式は、当事者間の自由な意思に基づいており、ベトナム法にも抵触しません。しかし、より賢明なアプローチとして、契約の総額を記載するだけでなく、各項目に分けて詳細に金額を記載する方法が推奨されます。
具体的な記載例:
- 物品供給契約: 商品ごとの価値や各ロットごとの価値を明確に分ける。
- 物品とサービスの組み合わせ契約: 商品価値とサービス価値(設置、展開、検証など)を分ける。
- サービス契約: 各サービス(コンサルティング、設置、保守など)の価値を個別に記載する。
このような詳細な記載は、特に商品やサービスを提供する立場の企業にとって有利です。例えば、一部の商品やサービスに問題が発生した場合でも、その他の完了部分についての検収と支払いを確保することで、契約全体が行き詰まるリスクを回避できます。
国際契約における特別な考慮点:
日本企業がベトナムで事業を行う場合、商品やサービスの提供は国内取引に限定されず、日本や他国との国際取引となるケースも多いです。このような場合、以下のリスクに対する配慮が重要です。
- 為替レートの変動: 為替リスクを考慮し、契約金額を柔軟に調整する条項を盛り込む。
- 税金や通関費用: 輸出入税や通関費用の発生に備え、負担者を明確に規定する。
- 初期コストの見積もり: 契約締結前に必要なコストを見積もり、事業計画や顧客への見積もりに反映させる。
推奨事項:
- 契約書には、上記のようなリスク要因を事前に盛り込むことで、予想外のコスト増加や損失リスクを軽減できます。
- さらに、適切な条項を設けることで、取引先との不要な紛争を回避することが可能です。
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03 - 支払スケジュール条項に関する注意点 |
商業契約における支払条項では、支払スケジュールがしばしば規定されます。このスケジュールは、双方の財務状況や計画に応じて自由に決定でき、法律の介入を受けることはありません。しかし、ベトナムでの契約実務を確認すると、多くの場合、一括(lumpsum)での支払金額やスケジュールが規定されており、項目ごとに独立した性質を持つ場合でも細分化されていない場合が見受けられます。また、支払スケジュールが過度に長い場合もリスクを伴います。
リスクの具体例:
特に契約の金額が大きく、提供者側(商品またはサービス)が相手からの回収を行う場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 検収困難: 特定のサービス項目または商品のロットに問題が発生した場合、契約全体の検収や支払いが滞る可能性。
- 資金回収の遅延: 一部の問題が原因で、契約全体の資金回収に遅れが生じるリスク。
推奨されるアプローチ:
これらのリスクを軽減するため、特に高額契約や複数の項目に分割できる契約において、以下の方法が推奨されます:
- マイルストーンに基づく分割: 契約の重要な実施段階(milestone)に応じて支払スケジュールを設定。
- 成果物ベースの支払い: 納品物(deliverable)ごとに支払いを分割。
このようなスケジュールの分割により、特定の項目やロットに問題が発生しても、それが他の納品や支払いの進捗に影響を与えることを防げます。特に商品やサービスを提供する立場の企業にとっては、取引先からの回収リスクを大幅に低減する効果があります。
日本企業への提言:
ベトナムで事業を展開する日本企業は、契約書作成時に支払スケジュールの分割について以下を考慮することが重要です:
- 各段階の納品や検収に対応する適切な支払スケジュールを設定する。
- 問題が発生した場合のリスクを最小限に抑えるため、項目ごとに独立した支払計画を策定する。
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04 - 損害賠償と違約金条項の取り決めに関する注意点 |
商取引の契約において、損害賠償および違約金に関する条項は一般的に見られますが、これに関連する誤りがしばしば発生します。主な問題点は以下の2点です:
- 損害賠償と違約金を混同すること。
- ベトナム現行法で定められた枠組みや原則を超えた金額を規定すること。
損害賠償と違約金の違い:
これらはどちらも契約違反が発生した場合に適用される法的責任であり、被害を受けた当事者の正当な権利と利益を保護する目的があります。しかし、原則や適用方法が異なる独立した制度です。
- 損害賠償: 被害者の損失や享受すべき利益を回復し補填するための賠償です。契約に明記されていなくても適用可能です。
- 違約金: 契約違反が発生した場合、違反者に罰金を支払わせる制度で、契約で事前に明確に規定されている場合にのみ適用されます。
損害賠償に関する注意点:
国際商取引契約、特に欧米の法的主体が関与する場合、「予定損害賠償額(liquidated damages)」が規定されることがあります。例えば、商品の品質が契約に基づく基準を満たさない場合、販売者が購入者に固定金額(例:ZZZ)または商品価値の3倍を賠償する、という取り決めです。しかし、ベトナムの現行法では、損害賠償額は実際の直接損害に基づいて算定されます。このため、予定損害賠償額の条項が契約に含まれている場合、裁判所で争われると認められない可能性が高く、実際の適用が困難です。
違約金に関する注意点:
ベトナム法では、違約金の上限は「違反した契約部分の価値の8%」と規定されています。しかし、契約全体の価値と違反部分の価値を混同することがよくあります。例えば、商品を複数回に分けて納品する契約で、最終ロットの納品遅延が発生した場合、購入者が請求できる違約金は、契約全体の価値ではなく、遅延した最終ロットの価値の8%に限定されます。この上限を超えた違約金が規定されている場合、裁判所で争われた際に認められず、法的上限が適用されるリスクが高いです。
実務上の提言:
- 損害賠償と違約金の違いを明確に理解し、契約条項に適切に反映させる。
- ベトナムの法的枠組みに準拠した上限を超えないように条項を作成する。
- 国際契約の場合、予定損害賠償額の実効性について慎重に検討する。
契約条項の設計とリスク管理は、商業契約の成功に欠かせない要素です。本記事で提示したアプローチを活用することで、ベトナムでの事業展開におけるリスクを最小限に抑え、紛争の発生を防ぐことが可能です。特に、日本企業は、契約の適切な構築と精査を通じて、ビジネスの安定性と競争力を向上させることが期待されます。