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01 - ベトナム電子取引法(2023年改正版)における電子契約の法的な効力とは(改正店) |
1.1.電子契約の基盤となる「データメッセージ」の法的価値
2023年の改正電子取引法において最も注目すべき点の一つは、「データメッセージ(電子データ)」が法的に有効な書面と認められることが明文化された点です。特に第9条から第11条にかけて、以下の要件を満たす場合、電子的に作成された契約書は紙媒体と同様の効力を持つと明記されています。
- 完全性の確保(改ざんされていないこと)
- アクセス可能性(必要に応じて閲覧・利用可能であること)
たとえば、PDF形式で作成・保存された契約書が上記の条件を満たしていれば、それは単なる「電子ファイル」ではなく、契約書の原本として法的効力を有すると判断されます。
1.2.紙と電子の相互変換に関する新たな要件
第12条では、紙の契約書と電子文書(例:PDF)の相互変換についても明確に規定されました。具体的には以下の要件が定められています。
- スキャン等により変換された電子ファイルが原本と同等の完全性を保つこと
- 必要に応じて閲覧・再利用が可能であること
- 変換が実施されたことを示す識別記号や実施機関名の記載があること
この規定により、従来のように「紙の原本がなければ契約書として認められない」といった解釈は否定される方向に明確化され、実務上も大きな安心材料となります。
改正の実務的インパクト:PDF契約締結の促進へ これまでベトナムでは、PDFなど電子形式の契約書の証拠力や原本性について不安視する声が多く存在しました。しかし、今回の改正により、一定の技術的・運用的条件を満たせば、PDF契約も紙の契約書と同様に扱われることが明示されました。これは、電子契約のさらなる普及と業務効率化の推進に繋がる重要な進展です。 |
1.3.今後の実務対応に向けた留意点
改正法を踏まえ、以下の対応が求められます。
- 契約書の電子保存時は、完全性確保のための電子署名やハッシュ化技術の導入を検討
- スキャンデータの管理には、識別記号や変換記録の付与が必要
- 社内規程や契約管理フローを、電子契約対応型にアップデート
1.4.電子契約の締結プロセス
基本的に、電子契約の締結プロセスは以下の流れで行います。
その中で、ステップ②は必須ではありません。両当事者の間で、契約書を直接送付し、メールで確認・署名する方法(PDFスキャンデータをメールで送信)を選択することも、又は電子契約プラットフォーム(FPT.eContract、VNPT eContract、MISA eSign、Adobe Sign、DocuSignなど)を利用することも可能です。この場合、両当事者は契約書を電子契約システムにアップロード(ステップ②)し、双方が電子署名を行った後、システムが電子署名の認証及びタイムスタンプ(timestamp)の付与を実施します。これにより、契約の完全性(署名後に改ざんが不可能)が確保され、また、タイムスタンプによって契約締結の時点が証明され、契約の検索や検証が容易かつ透明性の高いものとなります。
多くの場合、タイムスタンプの付与、データメッセージの証明、電子署名の証明などの信頼サービスを利用することが推奨されており、これにより契約の真正性と完全性が確保されます。また、「信頼サービス」(CeCA - Certified eContract Authority)は、2023年電子取引法において新たに導入された規定の一つです。
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02 - PDF契約が「グレーゾーン」から脱却:2023年電子取引法がもたらす実務的変化 |
2.1. PDF契約が正式に「法的効力あり」と明記された意義
改正電子取引法の施行により、PDFファイルによる契約締結が法的に明確に承認されました。第9条から第12条までの規定に基づき、PDF形式の契約書が一定の技術的条件を満たせば、紙の契約書と同様の法的効力を持つと判断されます。
この明確化により、企業間での契約手続きがより安全かつ効率的になり、郵送による書類紛失や手続きの遅延といったリスクを回避できるようになります。特に国際商取引においては、時間・コストの削減や、迅速な契約プロセスの実現という点で大きなメリットがあります。
2.2. 従来の課題と新法による解消
2005年の旧電子取引法下では、PDF契約も原則として有効とされていましたが、法的根拠が不明確で、以下のような懸念が多く挙がっていました:
- スキャンした署名は法的に有効か?
- 電子署名は必須か?
- メール送付での同意は契約成立とみなされるのか?
- 裁判で証拠として提示できるのか?
2023年法ではこれらの曖昧な論点が明文化され、たとえば「クリック契約」(ウェブ上で同意ボタンを押す形式)も合法と明記されました。これにより、電子契約がグレーゾーンではなく、正式に認められた手段となりました。
2.3. PDF契約の実務上のメリットと課題
PDF契約は、システムコストが不要で、メールを介した簡便な手続きが可能という利点があります。WordやPDFで契約書を作成し、署名済みのファイルをやり取りするだけで締結が完了するため、中小企業やベトナム現地法人にとって導入しやすい手段です。
ただし、従来は署名画像を挿入するだけの形式が主流であり、真正性(本人が署名した証拠)や完全性(改ざんの有無)の保証が不十分でした。そのため、PDF契約は改ざんや偽造のリスクを伴うものとされ、法的効力に疑念を持たれることもありました。
2.4. 電子署名・認証サービスによる信頼性の強化
2023年法では、PDF契約に対し、電子署名(デジタル署名)や認証サービス(信頼サービス)の活用が推奨されています。電子署名を使用することで、以下のような法的保護が強化されます:
- 契約文書がロックされ、改ざん不可能
- 署名者の情報が電子証明書で認証される
- 契約締結時点のタイムスタンプが付与される
また、認証サービスを活用することで、署名済みPDFに認証コードを付与し、第三者機関の安全なシステムで保管できます。これにより、万が一の紛争時に、契約の真正性と締結日時を客観的に証明でき、訴訟対応や監査にも有効です。
2.5. PDF契約は「未管理型契約」から「信頼型契約」へ進化
このように、PDF契約はもはや単なる「簡易的な手段」ではなく、法的に裏付けられた信頼できる契約形態へと進化しました。特に以下のような場面では、PDF契約と認証サービスの組み合わせが強く推奨されます:
- 多国籍企業間でのクロスボーダー契約
- 複数当事者による複雑な契約スキーム
- 不動産・金融・ITなどの高リスク取引
電子契約の次のステップは「信頼性の設計」 2023年電子取引法の施行により、PDF契約は「簡便」だけでなく「安全」な手段として、ビジネスの現場において信頼される選択肢となりました。今後は単なるPDFの送受信にとどまらず、電子署名・認証サービスと組み合わせた契約フローの設計が、企業法務における新たなスタンダードとなっていくでしょう。 |