公開 2025年06月30日  I 更新 2025年06月30日

ベトナム企業法改正2025 受益所有者の開示義務とノミニー投資への影響

※無断で複製、転載、転用、改変等の二次利用をご遠慮いただきますようお願いいたします。

ベトナム企業法改正2025 受益所有者の開示義務とノミニー投資への影響


コーポレート 公開 2025年06月30日  I 更新 2025年06月30日
目次

弁護士法人ベトホ(BETOHO LAWFIRM)は、外国投資家の出資構造設計・名義株主(Nominee)活用に関する法務リスク分析を多数行っており、2025年改正予定のベトナム企業法草案における最終受益者の開示義務強化にも注目しています。ベトナム人弁護士が、制度変更の背景と実務への影響を丁寧に解説します。 本記事では、「ベトナム 受益所有者 情報開示 義務化」「Nominee構造 リスク」「企業法 改正 2025 公開義務」「外資 出資構造の透明化」「ベトナム 投資家 匿名性 制限」などのキーワードに関心のある方向けに、改正内容の要点、投資スキームへの影響、今後の対応策を実務ベースで解説しています。

2025年のベトナム企業法改正は、受益所有者(実質的支配者)の登録義務を明確化し、ノミニー投資(名義借り)、外国人出資制限、マネーロンダリング防止、企業情報開示義務に大きな影響を与えます。日本人投資家がベトナムで飲食店や小規模ビジネスを展開する際のリスク、企業設立拒否の可能性、コンプライアンス対策を解説。ベトナム進出や法人設立時に重要なポイントを網羅。

 

01 - 「受益所有者」に焦点を当てた2025年企業法改正の背景と意義

 

2025617日、第15期ベトナム国会の第9回会議において、企業法の改正法が正式に可決されました。今回の改正は、全7ページに及ぶ法律文の中で「受益所有者」という用語が実に19回も登場し、文量の約3分の1をこの概念に割いていることからも、その重要性がうかがえます。

さらに、企業登録に関する施行政令でも、「受益所有者」の定義、情報の保存形式、および開示義務に関する具体的な規定が盛り込まれており、同語句は5回登場しています。このように、立法全体が受益所有者の透明性強化を中心に構成されていることは明らかです。

この法改正の背景には、ベトナムの有名な刑事事件である「VAN THINH PHAT事件」の影響が強く表れていると考えられます。当該事件では、1人または少数の関係者が複数の法人・団体を通じて多数の企業を支配し、違法・不正な手段で市場に影響を与えたとされており、社会的な関心と不信感を大きく高めました。

このような事態を受けて、今後は企業の真正な支配者の把握が国家としての課題となり、企業を隠れ蓑とした脱税、マネーロンダリング、経済支配といったリスクを排除する法的枠組みが急務とされてきました。

また、この法改正は、国際的なマネーロンダリング防止(AML)規制との整合性を図る観点からも極めて重要です。FATF(金融活動作業部会)などの国際機関は、受益所有者情報の開示と管理体制の整備を加盟国に強く求めており、ベトナムもその要請に応じて制度設計を強化している状況です。

 

02 - 受益所有者の概念と識別基準(草案段階)

 

企業法改正2025年において、「受益所有者」に関する定義は、従来の草案に見られたような詳細な法的文言が削除され、その定義および識別基準の策定は政府(主に事業登録を管轄する行政機関)に委ねられる形となりました。これは、より柔軟で実務的な運用を可能とするための立法技術的措置と考えられます。

現時点では、企業登録に関する政令の草案(未施行)において、以下のような基準が提案されています。

【第17条:企業の受益所有者】

  1. 受益所有者とみなされる個人は、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

a. 企業の持分資本または議決権付株式の25%以上を直接的または間接的に所有している個人。

b. 企業の経営または組織構造に対して実質的な支配力を持つ個人。たとえば以下の事項に影響を与える権限を持つ者:

      •     取締役会、理事会、法定代表者、社長、または総支配人の任命・解任を主導できる
      •     定款の改定、会社組織の再編、解散等の意思決定において支配的な立場を有する
  1. 間接的な所有とは、他の法人や団体を通じて25%以上の出資比率を実質的に所有している状態を指します。

なお、この定義はあくまで草案段階にあるため、今後の正式な政令公布において内容が変更される可能性がありますが、仮にこのまま採用された場合、以下のような個人が「受益所有者」として認定されることになります:

  • 直接又は間接に20%以上の資本を保有する個人
  • 実質的に企業の意思決定に介入できる支配力を持つ個人

 

 

03 - 企業に課される受益所有者に関する義務

 

企業法および関連政令(草案)に基づき、企業には「受益所有者」に関して明確な義務が3つの側面から課されています。すなわち、国家機関への情報登録・更新、情報の収集・保存、関係当局への情報提供です。

 

登録・申告・更新義務(情報開示)

企業は、設立時点で「受益所有者」に関する情報を事業登録申請書に記載し、事業登録機関に提出しなければなりません。その際には、以下の情報を含む「受益所有者一覧表」を添付する必要があります:

  • 氏名、生年月日、性別、国籍、民族
  • 連絡先住所
  • 所有割合または支配権の内容
  • 法的身分を証明する書類に関する情報

また、企業の受益所有者に関する情報に変更が生じた場合には、速やかに事業登録機関に対して変更届を提出し、情報を更新しなければなりません。

情報の収集・保存義務(記録保持)

企業は、自社の受益所有者に関する情報を自ら収集し、随時更新・保存する責任があります。特に、企業の法定代表者は、企業の清算・破産が確定した後も、受益所有者に関する情報を最低5年間保管する義務があります(草案規定による)。

このような長期的な情報保持義務は、事後的な調査・監査において受益所有者の所在や関係性を追跡できるようにするための制度的基盤です。

情報提供義務(国家機関への対応)

企業は、税務、警察、金融監督当局などの国家権限機関からの要請があった場合、速やかに受益所有者に関する情報を提出しなければなりません。これは、脱税、資金洗浄、企業買収による市場支配といった違法行為を防ぐための重要な監視手段となっています。

 

04 - 移行措置と制裁に関する規定

 

  •     企業法改正2025年は、すでに存在する企業に対する行政手続き上の負担軽減および企業登録機関への一時的な集中負担の回避を目的として、受益所有者に関する情報更新を即時義務化することを避ける内容となっています。
  •     具体的には、以下のような移行措置が設けられています。

【登録済み企業に対する柔軟な対応】

本法の施行前に登録された企業については、受益所有者に関する情報の追加・更新は、企業が次回、登記内容の変更登録または変更通知を行うタイミングで同時に提出すればよいとされています。ただし、企業が自主的に早期に情報を追加したい場合には、任意での提出も可能です。

これにより、全企業に一斉に情報提出を義務付けることによる混乱を避けつつ、段階的かつ計画的な情報収集・整備が可能な運用が見込まれています。

  •     登録機関による照会対応の仕組み

一方で、政府から国会への法律案提出時の説明文書には、受益所有者情報の提出が未了である企業に対しても、関係当局が必要に応じて個別に情報提供を要請できる仕組みを政令により構築する方針が明記されています。これにより、情報未提出企業が調査・監督の回避手段として制度を悪用することを防ぐことができます。

  •     行政制裁措置の導入方針

さらに、同じ説明文書において、投資および企業活動分野における行政違反に対する政令ベースの罰則規定の導入が検討されていることも明らかにされました。具体的には、受益所有者に関する情報を適切に申告・更新しなかった企業に対して、行政罰や金銭的制裁などの制裁措置が適用される可能性があります。

これらの制度は、今後施行される政令や行政通達により詳細が定められる予定です。

 

05 - ノミニー投資への影響:受益所有者制度と名義借りのリスク

 

ノミニー投資(いわゆる「名義借り」による投資手法)は、外国人投資家に対する投資制限のある業種や、小規模かつ当局の監視が及びやすいビジネスモデル(飲食店、宿泊施設、娯楽サービス等)において広く用いられている実態があります。実際、現在でも多くの日本人投資家が、ベトナム人個人や現地法人の名義を借りる形で飲食業を展開しているケースが存在します。

 

しかしながら、今回の企業法改正と新たな受益所有者情報の登録・開示制度の導入により、このような投資モデルは今後、次第に制約を受ける可能性があります。

ノミニー投資モデルを採用している企業も、他の通常企業と同様に、以下の義務を履行しなければなりません

  • 受益所有者の情報を申告・登録すること
  • その情報を保管・更新すること
  • 要請があれば当局に開示すること

このとき、「実質的に企業の意思決定に関与する支配力を持つ者」が誰であるかが問題となり、名義人ではなく真の出資者・コントロール権者が受益所有者として記載されるべきことになります。

 

【影響の評価】

義務を適切に履行した場合

既存企業で、受益所有者情報の登録・更新を行っていない場合でも、次回の登記変更時に情報を補足すればよく、大きな支障は生じにくいと考えられます。

一方で、新たに設立される企業が、最初から外国人(または外国法人)を受益所有者として登録する場合、登録機関が「なぜベトナム法人であるのに実質的所有者が外国人なのか」について疑義を持つ可能性があります。その際に、実質的関係性や資本構造を合理的に説明できなければ、「これは名義借りによる偽装取引であり、企業法第16条第4項(虚偽の申請禁止)に違反する可能性がある」と判断され、設立申請が拒否されるリスクがあると推測できます。

 

義務を履行しない場合

一方で、受益所有者情報の登録義務を怠った場合、次のようなリスクが考えられます:

  • 行政罰(罰金・登記取消し等)の対象となるリスク
  • ノミニーとの間でトラブルが生じた際、真の出資者の法的地位が不明確となり、権利保護が受けられないリスク(例:財産権の主張が困難)

 

これらの制度は、現時点では運用が始まったばかりであり、行政実務の対応や審査基準がどのように形成されるかは、今後の実務運用に委ねられる部分もあります。

しかしながら、制度の方向性としては、ノミニー投資は明らかに厳しく監視・制限される時代に入ったといえます。従って、名義借りによる投資を検討する際は、慎重な判断とともに、リスクを最小限に抑えるための法的対策(契約書の設計・受益所有者情報の正確な管理等)が必要です。

 

今回の企業法改正により、ベトナムでは透明性とコンプライアンスの強化が加速しており、すべての企業が受益所有者(実質的支配者)の情報を把握・管理する義務を負うことになります。これは脱税・資金洗浄・偽装取引への対策であると同時に、企業ガバナンス強化と国際基準への適合を目指すものです。

ノミニー投資のような名義借りを利用した投資モデルについては、引き続き高いリスクが伴うため、以下のような対応が推奨されます:

  • 投資前に受益所有者の開示義務を正確に理解し、適切な法的助言を受けること
  • 設立時に提出する登録書類の記載内容や資本関係の整合性を確保すること
  • 実質的支配者に関する契約・委任・資金流れを透明に文書化すること

ベトナムでの事業展開を成功させるためには、形式的な名義ではなく、実質的なコンプライアンス体制の構築が不可欠となります。法改正の背景と目的を正しく理解し、長期的に安全な投資・経営ができるよう、事前準備とリスクマネジメントを徹底することが重要です。

 

【責任免除事項】

本ウェブサイトに投稿している記事は、記事作成時点に有効する法令等に基づいたものです。その後の法律や政策等の改正がある場合は、それに伴い、記載内容も変更する可能性があります。法の分析、実務運用のコメントの部分については、あくまで直作者の個人的な経験や知識等から申し上げたことで、一般共通認識や正式な解釈ではないことをご了承ください。

また、本ウェッブサイトに投稿している内容は、法的助言ではありません。個別相談がある場合には、必ず専門家にご相談ください。専門家の意見やアドバイスがなく、本ウェブサイトの記載内容をそのまま使用することにより、生じた直接的、間接的に発生した損害等については、一切責任を負いません。

Duongbui@betoho.vn 0967 246 668