公開 2024年12月27日  I 更新 2025年03月08日

ベトナム新政令で進化する標準契約 透明性と消費者保護の強化

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ベトナム新政令で進化する標準契約 透明性と消費者保護の強化


契約 公開 2024年12月27日  I 更新 2025年03月08日
目次

経済の発展と取引形態の多様化により、標準契約(Hợp đồng theo mẫu)の使用は、特に必需品やサービスを提供する事業者においてますます一般的になっています。しかし、ベトナムで事業を展開する外国企業の多くは、標準契約に関する法律規定への理解が不足しており、必要な手続きを十分に実施していないケースが見受けられます。これに対応するため、2024年5月16日、ベトナム政府は「2024年政令55号(No.55/2024/NĐ-CP)」を公布しました。この政令は、消費者保護法の一部規定を具体化するものであり、2024年7月1日から施行されます。政令55/2024では、標準契約に関する共通要件にいくつかの重要な修正が加えられています。

01 - 標準契約(Hợp đồng theo mẫu)とは何か

 

ベトナム民法第405条によれば、「標準契約(Hợp đồng theo mẫu)」とは、一方の当事者が提示する標準的な条項を含む契約であり、相手方が合理的な期間内に回答を行い、承諾した場合、提示された契約内容全体を承諾したものとみなされる契約形態を指します。この定義に基づき、商品やサービスを提供する企業が、契約内容を一方的に定め、それを変更することを許さずに適用する場合、その契約は「標準契約」と分類されます。

このような標準契約は、特に大量の取引や消費者向けのサービスを提供する企業において、効率性や一貫性を確保するための手段として広く利用されています。ただし、標準契約の利用には、消費者保護法を含む関連法規に従う必要があり、不適切な条項が含まれる場合、契約の効力が無効化されるリスクがあるため注意が必要です。

 

02 - 標準契約の原則

 

標準契約を適用する際には、以下の重要な原則が適用されます。

2.1.   公開の原則

標準契約は、提案を受ける相手方がその内容を知ることができる、または知るべき状態で公開されなければなりません。
企業や事業者は、以下の方法で契約内容を公開する義務があります:

  • 事業所や営業拠点の見やすい場所に掲示すること。
  • ウェブサイトやアプリケーション(該当する場合)に掲載し、消費者が契約締結や事前支払いの前に契約内容を確認できる状態にすること。 

2.2.   消費者有利の原則

  •       不明確な条項の解釈: 標準契約において不明確な条項がある場合、その条項の解釈は消費者に有利な方向で行われます。
  •       不公正条項の無効性: 標準契約における以下のような条項は無効とされます
    •       事業者の責任を免除する条項。
    •       消費者の正当な権利を制限または排除する条項。
  •       使用言語の規定: 消費者との契約、標準契約、取引条件にはベトナム語が使用されなければなりません。さらに、双方の合意に基づき、ベトナムの少数民族言語または外国語も追加で使用できます。異なる言語間で矛盾がある場合、消費者に有利な言語版が優先されます。

2.3.  登録の原則

以下の商品やサービスを提供する事業者は、標準契約を使用する前に、国家消費者保護機関に登録する義務があります:

  1.  生活用電力の供給
  2.  生活用水の供給
  3.  有料テレビサービス
  4.  地上移動体通信サービス(通話、メッセージング、インターネット接続)
  5.  地上固定通信サービス(通話、インターネット接続)
  6.  航空旅客輸送
  7.  鉄道旅客輸送
  8.  分譲マンションの売買

これらの登録対象品目は、2024年首相決定第07/2024/QĐ-TTg号で指定されています。

 

03 - 標準契約の基本内容

 

3.1.    標準契約に必要な基本内容

標準契約には以下の基本的な内容を含める必要があります

a)   契約当事者の情報:氏名、住所、電話番号、その他の連絡手段(該当する場合)。

b)   販売・提供される製品、商品、サービスに関する情報。

c)   測定方法、数量、重量、品質、効用、価格、および最終価格の構成要素(関連法で公開が義務付けられている場合)。

d)   支払方法および期限。

e)   製品、商品、サービスの販売・提供における時間、場所、方法。

f)   当事者の権利および義務(関連法規の遵守を確保するため)。

g)   消費者情報の保護に関する責任。

h)   契約の履行終了および終了に伴う責任。

i)    不可抗力の場合の対応(法律の規定に基づく)。

j)    紛争解決の方法。

k)   契約の締結時点および契約期間。

3.2.   標準契約に含めてはならない禁止条項

標準契約には以下のような禁止条項を含めることはできません。
a) 
消費者保護法で規定された責任を制限または排除する条項。
b) 
消費者の苦情や訴訟の権利を制限または排除する条項。
c) 
事業者が一方的に契約内容や取引条件を変更できる条項(消費者が契約終了を選択できない場合)。
d) 
価格を一方的に変更または設定できる条項(例外的に法律で認められる場合を除く)。
e) 
第三者に責任を転嫁する条項(消費者の同意なしに)。
f) 
消費者に不利な罰則や契約終了条件を含む条項。
g) 
消費者情報の収集・利用を契約条件とする条項(法律で認められる場合を除く)。
h) 
善意の原則に反し、当事者間の権利と義務のバランスを消費者に不利な方向に傾ける条項。

 

3.3.   実務上の重要性:

標準契約は消費者との信頼関係を構築し、法的リスクを回避するための重要なツールです。不適切な条項や禁止事項を含む契約は、法的効力が無効とされる可能性があるため、事業者は契約作成時に細心の注意を払う必要があります。

 

04 - 標準契約に関する主な変更点

 

4.1.多言語対応の標準契約

2024年政令55号(NO. No.55/2024/NĐ-CPは、標準契約においてベトナム語の使用を必須としつつ、双方の合意に基づき他言語の併用を認めています。以前の2011年政令99号ではベトナム語のみが許可されていました。この変更は、国際商取引の実情に対応し、当事者間のより明確な意思疎通を促進するための措置です。

 

4.2.登録手続きの変更

  • 登録義務: 2024年政令55号は、事業者に対し、標準契約を使用する前(すべての標準契約について必要)に権限機関への登録を義務付けています。また、消費者から前払金、保証金、または担保を受け取る前にも登録が必要です。
  • 新しい書式の導入: 登録手続きを簡略化し、効率的に進めるための新しい申請書式が導入されました。
  • 審査期間の延長: 複雑な案件の登録審査を確実に行うため、審査期間が従来の20営業日(政令99/2011)から最大60営業日に延長されました。
  • 公開義務: 商業施設や営業拠点、およびオンライン上で登録完了の通知を公開する義務が事業者に課されています。

4.3.    標準契約の取消および修正

  • 2024年政令55号は、消費者保護団体に対し、標準契約の取消または修正を求める権限を付与しています。
  • 修正版の通知義務: 事業者は、修正または取消された契約を公開し、消費者に新しいバージョンを通知する義務があります。

4.4.   標準契約に対する監督権限

2024年政令55号は、中央および地方当局間での協力体制を明確化し、標準契約の管理・監督における責任分担を具体的に規定しています。

 

実務上の重要性:
これらの変更により、標準契約の透明性が向上し、消費者保護が強化されました。一方で、事業者にとっては契約作成および登録プロセスにおいてより慎重な対応が求められるようになります。

 

標準契約は、特に商品やサービスを多くの消費者に提供する事業者にとって、効率的かつ一貫性を持った取引形態を実現する重要なツールです。しかし、2024年政令55号による新しい要件や手続きの導入により、事業者には法的遵守と透明性の確保がより一層求められるようになりました。これらの規定を適切に理解し実行することで、企業は消費者との信頼関係を強化し、法的リスクを回避しながら持続可能なビジネスを展開することが可能です。

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