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01 - 契約交渉段階 |
(1) ベトナムパートナー企業の基本情報調査
① ベトナムでは、大手企業や有名企業と類似する名前を用いて取引先をだまそうとする悪徳な企業が一定程度の割合で存在しています。そのために、ベトナムのローカル企業と取引(契約)する前に、必ずその企業の基本情報を確認する必要があります。
【基本情報の確認方法】
- 会社のホームページがあれば、まずホームページで確認をする。
- 会社の企業登録番号を取得して、以下の企業登録ポータルサイトで確認をする。
企業登録ポータルサイトで確認できる情報は、法人名(越語/英語)、所在地、法定代表者、会社形態、設立年月日、連絡先電話番号、事業登録内容等
費用を払えば(1,500円程度)、より詳細な情報(登記の更新履歴、出資者(又は創立株主)、経理担当者等)を確認することができます。
(https://dangkykinhdoanh.gov.vn/en/Pages/default.aspx )
- 会社の正式な企業登録書(登記簿)の開示要求
(2) 契約自由の原則
- 日本では、契約自由の原則(契約内容を当事者の自由な合意により決定できるという原則。)は、契約書作成に当たって当然の前提になっていますが、ベトナムでは、契約自由の原則が十分に理解されていません。特に、ベトナムの中小企業の場合は、そもそも国際的な契約にアプローチする機会がほとんどなく、契約自由の原則を理解できない可能性が高いです。具体的には、契約内容について、ベトナム企業の法務担当者と相談しても、「この内容は、どの法律に定められていますか」という質問が出るなど、法令等に記載がある事項以外を契約書に盛り込めることへの理解がない場合もあります。
- また、国際的な取引においては、次のような事項は、契約自由の原則に基づき、当事者の合意で自由に選択することができる項目です。
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- 準拠法選択の自由
- 契約言語選択の自由(※ただし、ベトナム税務局やその他の当局機関に提出する必要がある場合には、その契約のベトナム語版(翻訳版でもよいです)を作成しなければなりません)
- 紛争解決機関選択の自由
※ 国際的な取引とは、次のいずれかに該当するものです。
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- いずれか一方の当事者がベトナム国外の外国の個人、外国人である。
- 各当事者はともにベトナムの公民、ベトナムの法人であるが、当該取引(債権・債務)の成立、変更、実施、消滅がベトナム国外において生じるもの
- 各当事者はともにベトナムの公民、法人であるが、当該取引の対象(売買契約の場合は、その売買対象となる貨物等)がベトナム国外に所在するもの
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02 - 契約の作成 |
(1) 契約の署名権限
ベトナムでは、「この契約は、無権限者によって署名されたため、契約の効力が生じない。」というような主張が散見されます。そのため、契約締結時には、相手方が権限者であるか否かをしっかり確認する必要があります。法人との契約については、権限者は、法人の法定代表者、又はその法定代表者の代理人(委任に基づく)が該当します。権限者の確認方法は、以下の通りになります。
① 1の(1)に述べた企業登録ポータルサイトを通じて、法定代表者の情報を確認します。
(https://dangkykinhdoanh.gov.vn/en/Pages/default.aspx )
※ 日本では、会社の定款が重視されていますが、ベトナム中小企業の場合は、定款を最新の情報に更新していない場合が多いです。そのため、会社の実質の状態や、企業登録ポータルサイトに登記している内容を定款に反映していない可能性があります。そのため、定款を要求しても、最新の定款ではないため、確認する必要性は低いといえます。
② 委任状又は委任状類似の会社の内部意思決定文書の確認
必ず原本の確認をお勧めします。スキャンファイルですと、偽造・変造の可能性があるからです。
※無権限者により、署名した契約の場合は、ベトナム民法に基づき、無権代理又は表現代理の制度を使って、契約の有効性を主張できる可能性がありますが、その際には司法コストや証明義務の負担が大きいです。
(2) 債権回収の観点からの契約作成
ベトナムでの債権回収は、非常に困難です。そもそも司法による救済がまだ整備途上でもあり、裁判所や国家機関の支援を期待できないという問題がまだまだあります。そのため、債権を回収できない可能性を十分に意識したうえで契約書を作成すべきです。
債権回収を担保する方法としては、以下の二つが考えられます。
① 担保設定
ベトナムでは、法律上の担保と実質的な担保という二つに分けられます。実質的な担保は、第三者への対抗力がないため、仮に、債権回収ができず、先方が破産してしまった場合には、優先権を主張することができません。その際は、あくまで一般的な債務者としての取り扱いになるという点にご留意ください。
法律上の担保は、法的な要件を満たす必要があります。また、外資企業は、抵当権者として不動産に抵当権を設定することができません。
② 代金の前払いの設定
売買契約等の際に、納品後に請求するのではなく、所有権の引き渡し前にできれば全額を請求、又はエスクロー口座に代金の全額を入れるという方法を実施できるように交渉することを推薦します。
③ 債権管理
売掛残高が高額にならないように、管理することや、支払遅滞が存在する場合に、債権回収警告リストとして管理し、しっかりと対策を講じるべきです。
(3) 契約作成の注意点
契約を作成時や作成後には、以下の点に注意するべきです。
① 両当事者で確定された合意内容が契約に適切に表現されること
② ベトナム法の強行規定に違反していないこと
③ 万が一紛争になった場合、自らの権利を十分に主張すること(紛争が生じた際、裁判所や仲裁機関からの司法救済を受ける場合には、裁判官や仲裁人に自らの主張を理解してもらうため、要件事実論を意識した記載とする必要があります。)
④ 紛争やトラブルなどの事例を参考し、十分にリスクマネジメントできるようにすること
⑤ 両当事者による契約を円滑に履行することの保証
⑥ 会計上・税務上の適切性
契約を作成した後、会社の会計・税務処理が必要です。契約内容の不明点や事実と表現の齟齬がある場合には、会社の会計・税務処理に大きな影響を与える可能性があります。例えば、物品販売契約の場合は、主には委託方式か、買取方式の方式があります。選択される方式によって、在庫の管理(記録)、 資産計上、レッドインボイス発行タイミング等に大きく影響を与えられます。
そのため、契約作成は、財務・税務も専門とした弁護士や法務専門家に任せるか、又は、財務・税務の部門・担当者と一緒にチームで動くことをお薦めします。
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03 - 契約の公証認証 |
- 契約の締結時に、公証役場での認証を受ける場合があります。それは、公証役場の認証がないと契約の効力が発生しない必要的な場合と、任意で公証役場の認証を用いる場合があります。公証役場の認証がないと契約の効力が発生しない場合とは、不動産(土地使用権、住宅物件、その他建設物件)の売買・譲渡・贈与に関する契約、夫婦共同財産の分与合意書、不動産取引代理の委任状等といったものが上げられます。任意的なものは、公証役場での認証を受けなくても効力が発生しますが、当事者の要望で契約の確実性を高めるために認証を受ける場合です。
公証役場での契約の任意的な認証を受ける時のメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
交渉役場で認証を受けた契約の一部は公証役場で保管する必要があります。万が一、契約の紛失、偽造、変造が発生する場合には、公証役場での写しをもらって、比較することができます。 |
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- ベトナムでは、証拠化手続を代行する事業者もあります。裁判所に証拠を提出する際、その証拠の信頼性を証明し、裁判所で検査する必要がありますが、時間がかかるため、裁判所に提出する前に、証拠化手続の代行事業者に依頼して、一部の証拠(事実)を認定してもらう制度があります。契約締結でも同様に取り扱うことができます。重要な契約を締結する時、「本人が十分に契約の内容を確認した上で、契約に署名した」という事実をエビデンスの形で認定してもらいたい場合は、証拠化手続の代行事業者を利用することができます。