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01 - BCC契約の概念 |
ベトナムにおいて、ビジネス協力契約(以下、「BCC契約」と言います)とは、複数の投資家が共同で事業を実施し、利益や成果物を分配することを目的とする契約を指します。
この形態では、新たな法人(会社)を設立することなく、契約ベースで事業活動を行います。
1.1. BCC契約の基本定義
- BCC契約は、少なくとも1名のベトナム法人を含む投資家間で締結されます。
- 投資家同士が、資金または物的資産を出資し、役割分担やリスク負担を明確に定めた上で、共同で事業を推進します。
- 事業活動から得られる利益や成果物は、出資比率または当事者間の合意に基づいて分配されます。
✅ BCC契約は、法人格を持たないジョイントベンチャー型のビジネススキームと言えます。
1.2. BCC契約を利用した具体的な投資例
- オフィスビルの建設・運営プロジェクト
- 日本食レストランの開業・運営
- 日本語教育センターの設立・運営
このような事例において、投資家たちは新会社を設立することなく、契約に基づき共同で資金調達・運営・利益分配を行います。
1.3. BCC契約の特徴まとめ
項目 |
内容 |
法人格 |
なし(契約ベースで事業実施) |
出資方法 |
現金または現物 |
役割分担 |
契約により明確化 |
リスク負担 |
契約に基づき共同負担 |
利益分配 |
出資比率または合意による |
手続き |
BCC契約の締結と投資登録(必要に応じて) |
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02 - BCC契約のメリット・デメリット |
BCC契約(ビジネス協力契約)は、柔軟な投資手法として注目されていますが、以下の通りに、特有のメリットとデメリットも存在します。
2.1. BCC契約のメリット
メリット |
内容 |
法人設立不要 |
新たに法人を設立する必要がなく、運営負担や手続きコストを軽減できる |
高い柔軟性 |
ベトナム投資法により、事業遂行中に形成された資産を活用して、新たに法人を設立することも可能 |
出資方法の自由度 |
現金だけでなく、不動産、技術ノウハウ、技術資産などによる出資も認められる |
✅ これらの特徴により、初期段階のリスクを抑えつつ柔軟な事業運営が可能となります。
2.2. BCC契約のデメリット
デメリット |
内容 |
運営代表の負担 |
法人格を持たないため、事業運営において一方の当事者が代表者となる必要があり、その責任が重くなる |
管理・会計の曖昧化リスク |
高い自由度を持つ反面、運営・会計・財務管理に関する明確な合意がないと、感情的対立やトラブルが発生しやすい |
取引実施時の不便 |
法人格がないため、取引実行時にはいずれかの当事者法人を利用する必要があり、売上管理・税務・印章管理が曖昧になると、関係破綻に繋がるリスクがある |
✅ 特に、共同管理体制の設計やリスクヘッジの仕組みを契約段階で慎重に構築することが極めて重要です。
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03 - BCC契約を活用すべきケースとは |
BCC契約は非常に柔軟な投資スキームですが、適切な場面で活用することが成功の鍵となります。ここでは、弁護士としての実務経験に基づき、BCC契約の積極的活用が推奨される典型的なケースをご紹介します。
【BCC契約を活用すべき代表的なケース】
① 条件付き投資分野への参入時
- ベトナムでは特定分野において、外国投資家に対して投資条件(資格要件)が課される場合があります。
- 外国投資家単独では条件を満たせない場合、ベトナム側パートナーとBCC契約を締結することで、
条件をクリアしつつ間接的に資金供給・事業参加が可能となります。
② 出資比率規制を回避して影響力を確保したい場合
- 分野によっては、合弁会社(ジョイントベンチャー)またはBCCのいずれかでの参入が求められます。
- BCC契約であれば、出資比率の制限が設けられていない場合も多く、外国投資家が実質的なプロジェクト支配力を高めることが可能です。
③ 期限付きプロジェクトへの投資時
- プロジェクト期間が限定されている場合、BCC契約を利用すれば、プロジェクト終了時には外国投資家のBCCオフィス(代表事務所)の閉鎖手続きのみで済みます。
- 新たな法人を設立している場合に比べて、清算・解散手続きの手間とコストを大幅に削減できます。
④ 財務出資型投資を行いたい場合
- 外国投資家が、事業運営への積極的関与ではなく、主に資金供与(ファイナンシャルインベストメント)を目的とする場合にも、BCC契約は有効です。
- 経営権を持たずに、リスクを抑えた柔軟な形で資金を投じることが可能となります。
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04 - BCC契約の重要事項 |
以下は、具体的なプロジェクト(住宅建設・賃貸・売却を含む)を対象としたBCC契約雛形の一例です。
順 |
条項 |
提案内容 |
1 |
当事者 |
甲:ベトナムパートナー 乙:ベトナムの会社 |
2 |
経緯 |
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3 |
契約の目的 |
甲は、本件土地使用権を現物出資として出資し、乙は、現金で出資し、互いの力で本件プロジェクトを実施するものとする。本件プロジェクトから得た利益は、それぞれの出資割合に基づき、甲乙で分担する。 |
4 |
定義及び契約の解釈 |
〇〇 |
5 |
事業内容 |
甲乙は、法人を設立しないBCC契約の形によって、本件プロジェクトを実施するために互いに法的な書類の整備、必要各種手続きの実施を行うことに協力する旨を合意しる。本件プロジェクトの詳細は、以下の通りになる。
- 使用目的 - 建設面積 - 使用面積 - 階数 - 構造
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6 |
事業の期間及び契約期間 |
本件プロジェクトの実施期間:本件土地使用権証明書に記載する使用期間の残りの期間 契約期間:本契約は、署名した日から〇〇年間の効力を有する。 |
7 |
出資 |
1. 甲乙両方による出資額は、〇〇ベトナムドンであり、本件プロジェクトの総投資額の〇%を占めるものとする。 2. 出資の形式及び割合
3.出資のスケジュール 甲乙の出資は、本BCC契約を計画投資局にて登記証明書を取得した日から〇日以内に行わなければならない。 |
8 |
資金調達 |
1. 本件プロジェクトを実施する際に、必要を応じて、資金を調達することができる。しかしながら、すべての場合において、資金調達は、甲に責任がある。甲は、融資者及び法律の前に自らで責任を負う。 2. 乙の出資額から形成した財産に対して抵当権を設定する場合、乙の書面による合意を得る必要がある。 |
9 |
役割分担 |
1.甲の役割
2.乙の役割 建設、開発、本件プロジェクトの運営において、必要である技術アドバイスを行うこと。 |
10 |
プロジェクト管理委員会 |
甲乙は、〇メンバーを構成するプロジェクト管理委員会を設置する。プロジェクト管理委員会のメンバーの内、〇名が甲から任命し、〇名が乙から任命するものとする。本件プロジェクトに関する各事項の裁決を行う場合において、多半数で議決する。裁決を出すことができない場合、最終的な決定は、プロジェクト管理委員会の委員長の判断に任せるものとする。 |
11 |
事業計画・事業のスケジュール |
投資、建設の準備段階: 建設段階: 開発、事業段階: メンテナンス: 事業計画
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12 |
経費管理 |
費用の計算 |
13 |
利益及び利益分担 |
甲乙は、本件プロジェクトから取得する収益は、以下の通りに分担するものとする。 1. 甲は、出資した〇%の利益分を受け入れることができる。この利益分は、本件プロジェクトの実際の収入に応じて、それより高い金額若しくは低い金額を受ける可能性がある。 2. 乙は、出資した〇%の利益分を受け入れることができる。この利益分は、固定であり、本件プロジェクトの実際の収入に依存するものではない。 3. BCC契約の当事者を代行して、甲が、ベトナム国家機関に対して納税義務を行った後、納税後の利益を分担するものとする。乙が受け取る利益が固定金額であるため、優先的に受け取るものとする。 |
14 |
会計計上、その他税務申告・納税義務 |
本件プロジェクトに関する会計計上、税務申告・納税、その他ベトナム国家機関への対応、取引先への対応などのすべては、甲が代行して行うものとする。 |
15 |
秘密保持義務 |
1.秘密情報 本契約で規定される秘密情報は、本契約の業務に関する情報、甲乙間の内部協議内容、経営上の秘密・のれんに関する情報、財務・人事・計画・技術データ、価格、経営・生産の方式やマニュアル、各リスト、研究成果、その他知的財産権等、甲が乙に対して文書、電子文書、手紙、口頭発言等によって提供した情報、もしくは本契約の履行に関して乙が知ったその他情報(以下、「秘密情報」という)とする。 2.秘密保持義務
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16 |
契約終了 |
1.本合意書は以下の場合において終了するものとします。 a. 本件プロジェクトが完了した場合 b. 各当事者が合意した期限の前に終了することに書面で同意した場合 c. 何れかの当事者が、相手方に書面で本合意書の実施を終了する通知をした日付からの30日後 d. 何れかの当事者は適当な期限を延長したが相手側が合意書による割り当ての役割、責任を実施しない/実施が遅いとき、その当事者から本合意書の実施を終了する要求がある場合; 2.本合意書の9.1項b号の規定により本合意書が終了した場合: a. 両当事者は終了による結果について協議します。 b. 両当事者は、直ちに本合意書により秘密文書として指定される如何なる又は書類の使用を停止し、或いはそれらを停止、引き続き使用しないことを保証します。 c. (必要であれば)所轄機関へのプロジェクト提案実施終了の通知手続を一緒に実施します。 3.第9.1項のc、d号による終了において: a. 合意した期限の前に終了した当事者は本合意書からの如何なる権利、利益を要求することはできません。 b. 残りの当事者はプロジェクトから達成した結果を受け取り、自分の意志でプロジェクトの実施を続けるか、又は停止することができます。 c. 期限の前に終了した当事者は直ちに本合意書により機密文書として指定される如何なる又は書類を停止し、或いはそれらを停止、引き続き使用しないことを保証します。 |
17 |
不可抗力 |
1. 一方当事者の事務を実施することが、天災又は事故を含むがそれに限らない不可抗力事件によって影響を受け、他方当事者に影響を与える際、他方に対して遅滞なく、当該不可抗力事件の本質及び影響範囲について通知しなければならない。 2. 本契約書のその他の条項にかかわらず、不可抗力事件の影響を受けた当事者は、本契約書の義務を遅滞する又は債務を履行しない行為に対して、本契約書の債務違反としてみなさないものとする。当該義務を遅滞する又は債務を履行しない行為は、不可抗力事件によって発生し、影響を受けた者は、相手に対して通知し、かつ当該義務を適切に延長させた場合に限る。 |
18 |
損害賠償及び契約違反罰 |
1. 一方当事者が契約に定められた義務を履行しない、もしくは不完全に履行することにより契約に違反し、他方当事者に(直接的又は間接的に)損害を与えた場合は、違反した一方当事者は全ての損害を賠償しなければならない。被害者は違反した当事者の違反行為から生じた損害について証明する責任を有する。 2. 前項に定める損害賠償義務に関わらず、一方当事者が本契約上の重要な義務に深刻に違反した結果、契約の目的が達成できなくなった場合には、契約を違反した当事者は、損害賠償に加え、違反を受けた他方当事者に対して契約の合計価値の8パーセントに相当する違約罰金を支払わなければならない。その他の違反が生じた場合には、違反した当事者は、違反を受けた当事者に違反した義務の価値の8パーセントに相当する違反罰金を支払わなければならない。 |
19 |
準拠法及び紛争解決 |
1. 本契約はベトナム法を準拠法とする。 2. 本契約の存在・効力・終了、本契約の違反又は本契約の終了に関係ある損害を含む、本契約から発生した紛争、もしくは本契約に関係がある紛争の全て(以下「紛争」という)は、両当事者の協力、相互尊重に基づいた交渉・和解により解決されるものとする。 3. 両当事者が合意に至らない場合、紛争はシンガポール国際仲裁センターにおいて、当該仲裁センターの規則「SIAC規則」に基づいて解決される。仲裁判決は終局的であり、両当事者を拘束する。 4. 紛争の解決・判決及び仲裁訴訟手続の実施が完了するまでの時間において、甲は、プロジェクトの運営事業を中止しないものとする。 5. 両当事者は、あらゆる紛争の本質、あらゆる交渉の状態又は条件、提案又は最終的解決方法、合意、和解、判決もしくは他の訴訟手続きの状況や手続、すべての声明、報告、予報、その他関係する情報を含む、本条に基づくあらゆる紛争に関係を有する問題の秘密は絶対的に保持されなければならないことに同意する。各当事者は、他方当事者の事前の同意がある場合を除き、紛争情報をメディアやその他の第三者又はその他の実体に漏洩しないことを保証する。本契約が終了した場合においても、本条が定める義務の効力は継続する。両当事者は紛争情報に関係があるあらゆる公開声明について、文書、口頭、その他の公開方法を問わず、互いに協力する。 |
20 |
一般条項 |
1. 権限 両当事者は、各当事者を代表して本契約に署名する者がその署名に関して十分な権限又は代表権を有するものであることを保証する。 両当事者は、各当事者の定款が定める本契約の承認に関する内部手続(あれば)を十分に行った。 2. 修正 両当事者による文書による合意と実行がある場合を除き、本契約の各条項は修正又は補充されない。 3. 拒絶 一方当事者が、他方当事者に対して、本契約の定める義務の履行を要求しないことは、それがいかなる時点におけるいかなる義務に関することであれ、その後の時点における義務の履行を要求する権利を妨げない。 4. 譲渡禁止 両当事者は、一方当事者による書面による事前の同意がない限り、本契約に関するいかなる権利や義務を第三者に譲渡、移転してはならない。 5. 慎重な検討及び部分的効力 a) 両当事者は、各当事者が本契約の各条項、各条項がもたらす影響、各当事者間の利益・リスクの分担にいて慎重に検討し、理解したことに同意し、確認する。各当事者は、独立した法律顧問から意見を聴取し、本契約の各条項について 分析、評価し、交渉する機会を有した。 b) いずれの条項かであるかに関わらず、本契約の各条項が法律の規定に基づき無効、違法、又は実施不能と確定された場合、本契約の残りの条項の全ては依然として効力を有し、実施される。その場合、両当事者は、無効、違法、実施不能な当該条項を、合理的で適法、かつ実施可能な条項に変えなければならない。新しい条項はは無効、違法、又は実施で不能とされた条項の趣旨に合致していなければならない。 6. 契約言語 契約は、同様の法的効力を有するベトナム語版2部と日本語版2部を含む4部を作成し、各当事者はベトナム語版1部と日本語版1部を保有する。ベトナム語版と日本語版との間に差異が発生した場合、ベトナム語版が優先的に使用されるものとする。 |
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05 - BCC契約に関連する手続き |
BCC契約を活用してベトナムにおいて事業を行う場合、特定のケースでは登録手続きやオフィス設立手続きが必要になります。
5.1 BCC契約の登録が必要な場合
次のいずれかに該当する場合、BCC契約の登録手続きが必要となります。
- 外国投資家が、出資比率の50%超を保有している場合
- 外国人パートナーが過半数を占めるパートナーシップ型の組織が関与している場合
- 上記に該当する外国資本系組織が出資比率の50%超を保有している場合
- 外国投資家と外国資本系組織の合計で出資比率が50%超に達している場合
✅ このような場合には、BCC契約を所轄の投資登録機関(計画投資局等)に登録する必要があります。
5.2 BCC契約に基づく外国投資家の「オペレーションオフィス」設立
外国投資家は、BCC契約に基づき、ベトナム国内において**オペレーションオフィス(事業執行拠点)**を設立することが認められています。
【主なポイント】
- オフィス所在地は、外国投資家が事業遂行上の要請に応じて自由に決定可能
- オフィスは独自の印章、銀行口座開設、労働者雇用、契約締結権限を有する
- 活動範囲はBCC契約及びオペレーションオフィス設立登録証明書に明記された範囲に限定される
【設立手続きの流れ】
- 投資登録機関(オフィス予定地を管轄)に対して、オペレーションオフィス設立登録申請書類一式を提出
- 提出書類には以下を含む:
- 設立申請書(オフィス名・所在地・活動内容・責任者情報を記載)
- 外国投資家によるオフィス設立決議
- オフィス責任者の任命決定書
- BCC契約書のコピー
- 申請受理後、15営業日以内に設立登録証明書が発行される
ベトナムにおいてBCC契約に基づく事業を展開する際は、契約登録義務の有無と、必要に応じたオペレーションオフィス設立手続きを正確に理解し、適切な法的対応を行うことが求められます。 特に外国投資家にとっては、登録手続きの遅延や不備が事業遂行に重大な支障を来すリスクがあるため、事前に専門家のサポートを受けながら、確実に手続きを進めることが重要です。 |