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1.現地法人の設立に関する手続き・流れ
本稿で述べる現地法人設立の手続きは、海外からの直接投資による法人設立に限定されます。直接投資によって設立される経済組織には、日本の投資家が100%出資する外資企業、およびベトナムのパートナー企業との合弁会社が含まれます。ここで説明する手続きは、日本の投資家が単独で新規法人を設立する場合を主に対象としていますが、合弁会社の設立にもほぼ同様の手続きを適用することができます。
また、ここで説明する手続き・流れは、制限業種や製造業に該当しない一般事業を前提としています。
【全体の流れ】
ステップNo.1 |
【ベトナムへの進出に関する事前検討・判断事項」を参考に、必要な準備や意思決定を行います。 |
ステップNo.2 |
事務所の確保 |
ステップNo.3 |
投資登録証明書(IRC)の取得 |
ステップNo.4 |
企業登録証明書 |
ステップNo.5 |
現地法人設立後の対応 |
【全体の必要期間】
(1)事務所確保について
- IRCを取得するためには、会社所在地の住所が必要です。会社の事務所としては、オフィスビルや一軒家などの一般住宅が利用可能ですが、分譲マンションは認められていません。ただし、事業内容や規模によっては、当局が事務所の所在地を認めるかどうかを判断することもあるため、事前に専門家や当局に確認することをお勧めします。
- IRCを取得するためには、事務所の賃貸契約を結ぶ必要があります。しかし、IRCの取得には通常2~3か月かかるため、その間は事業活動を行うことができません。この期間の賃料負担が大きくなる可能性があるため、物件のオーナーと交渉し、IRC取得前の基本賃貸契約(賃料が発生しないもの)を締結し、IRC取得後に正式な賃貸契約を結ぶことをお勧めします。
- バーチャルオフィスを利用する場合も、法的な問題は基本的にありません。しかし、税務調査の際には次の点に注意が必要です。もし同じフロアに多数の会社が登記されている場合、他社が税務違反(脱税や偽造請求書の不正売買など)を行っていると、同じ住所に登録されている全ての会社が調査対象となる可能性があり、その調査期間中に税コードが一時停止されるリスクがあります。
- IRCを取得するためには、所在地に関する書類を当局に提出する必要があります。そのため、賃貸契約(または基本賃貸契約)を締結する前に、必要書類を物件オーナーが提供できるかどうかを確認することが重要です。書類が揃わない場合には、IRCの取得ができず、別の物件を探し、新たにIRC申請手続きを行う必要が生じます。
- IRCや個別ライセンスを取得するためには、会社の住所が特定の条件を満たしている必要がある場合があります。この場合、物件オーナーと事前に条件を確認し、基本賃貸契約において証明保証事項を明記することをお勧めします。万が一、物件が要件を満たさない場合には、基本契約を解除できるよう準備しておくことが重要です。
例:教育ライセンスを取得するためには、その物件の土地使用権が教育目的に使用可能であることが求められます。
(2)IRCの取得について
① IRCとは
IRCは、投資登録証明書です。ベトナムに進出する際に、現地法人を設立する前に投資プロジェクトの申請が必要です。現地法人の設立自体も一つの投資プロジェクトと見なされます。その他、不動産開発プロジェクト、発電所プロジェクト等といった個別投資プロジェクトの申請もあります。
② 必要な提出書類
必要書類は、基本的に以下の通りになります。しかし、計画投資局の地域や担当者の見解によって法律に求めていない書類等を要求する場合もあります。
- 投 資プロジェクト実施の申請書(所定フォーム)
- 投資家の法的資格を確認するための証明書類(個人の場合:個人のパスポート;法人の場合:法人の全部事項証明書)
- 投資プロジェクト提案書(所定フォーム)(投資家に関する情報、投資目的、プロジェクト規模、総投資額(自己資本及び借入枠)、投資場所、プロジェクトの期間、投資スケジュール、投資実施場所の土地使用状況に関する情報、土地使用の需要(もしあれば)、労働力需要、投資優遇インセンティブ享受の提案、プロジェクトの影響および社会経済的効率性、環境保護法が定める予備的環境評価(該当する場合)の記載・説明が必要です)。
- 投資家の財務能力を証明する資料(法人の場合:直近2年間の財務報告書(監査済み)、親会社の財務支援誓約書、金融機関の財務支援誓約書、投資家の財務能力に関する保証、残高証明書;個人の場合:残高証明書)
- 事務所に関する書類:賃貸契約書(又は賃貸基本契約書)、物件の土地使用権証明書、物件の建設ライセンス、物件の消防ライセンス等
- 技術移転法により技術に関する審査および意見聴取が義務付けられている投資プロジェクトの場合は、当該の使用予定である技術に関する説明書
- 書類を提出する者への委任状
③ 必要な期間
- 事前の準備期間(通常ケースの平均):1か月
- 日本で発行した書類(会社の全部事項証明書、決算書、残高証明書等)は、日本での領事認証を受ける必要があります。
【領事認証手続きのご案内】
日本で手続きする場合、以下の順番で行います。
①公証役場での認証 → ②法務局にて①の公証人証明が真正のものであるとして証明 → ③外務省の証明(アポスティーユ)→ ④ ベトナム大使館か、総領事館での認証
留意点:
※在ベトナム大使館が案内する領事認証に関する手続は以下となります:
【認証、公証、翻訳の手続き案内】
※②と③について、外務省印まで押印してもらえる「ワンストップサービス」のある神奈川県内、東京都内、大阪府内の公証役場では、法務局と外務省の手続きを経る必要はありません(①の次は④となります)。
※公証役場へ「ベトナムの監督機関提出ための認証」をしてほしい旨を事前に電話で伝えて、アポイントをとるとスムーズです。
※下記、公証役場の所在地になります。
http://www.koshonin.gr.jp/sho.html
(お近くの公証役場へ、外務省印まで押印してもらえる「ワンストップサービス」があるか、再度ご確認ください)
- ベトナムでの処理期間(通常ケースの平均):2か月程度
④ 注意点
- IRCを取得するために、総投資額を登録する必要があります。総投資額には、自己資本金と借入枠があります。自己資本金は、会社の定款資本金と同じですので、会社に出資しなければなりません。借入枠は、今後投資プロジェクトの実施、投資プロジェクトの拡大、流動資金に、自己資本を超えた資金が必要である場合、親会社や金融機関から資金を調達するために事前に登録するものです。調達額は、必ず借入枠内に抑える必要がありますので、多めに登録することを推薦します。自己資本金については、【Q&A】資本金について】をご参考ください。
- 現地法人の投資目的(又は登録事業)の内容によって、IRC の申請期間や手続きの複雑さに影響します。例えば、市場アクセス制限の事業・分野や、WTOコミットメントに開放していない事業・分野に投資する場合には、IRC を取得する時、IRCの管轄機関である計画投資局より、関連当局機関の意見を傍聴したりする手続きが発生する可能性が高いです。
(3)ERCの取得について
① ERCとは
ERCは、企業登録証明書です。日本の登記簿と同じです。IRCを取得した後、ERC を取得する必要があります。
② 必要な提出書類
ERCを取得するための申請書類は、以下の通りになります。しかし、計画投資局の地域や担当者の見解によって法律に求めていない書類等を要求する場合もあります。
- 企業登録の申請書(所定フォーム)
- 設立する会社の定款
- 二人以上有限会社の場合:会社の出資者リスト
- 株式会社の場合:発起株主および外国人投資家である株主のリスト
- 投 資家の証明書類(登記簿、法的代表者のパスポートおよび個人投資家のパスポート)
- 有限会社の社員、株式会社の株主が法人である場合:その委任代表者の証明書類(委任代表者のパスポート、委任状)
- 法定代表者のパスポート
- 投資登録証明書(IRC)
- 書類を提出する者への委任状
③ 必要な期間
- 処理の準備期間(通常ケースの平均):3日間程度
- ベトナムでの処理期間(通常ケースの平均):1週間程度
④ 注意点
- 有限会社を設立する場合には、会社の出資者(個人や法人の投資家)を登録する必要がありますが、出資者が法人である場合、出資者の持分を代表する代理人の任命も必要です。その代理人については、複数者を任命してもよいです。
- 会社の法定代表者を登録する必要があります。法定代表者は、ベトナムに駐在する必要があります。ベトナムに駐在しない期間には、ベトナムに駐在する人に代表権を委任する必要があります。
ベトナム ハーザン省 写真家 弁護士 レ・ヴァン・ホア